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カイウスの話9
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ライムが俺の目の前から居なくなってから、数分経過していた。
メイドを医務室に連れて行き、ローズと共に事情を聞いてやはりライムが悪いわけではない事は分かった。
ローズはまだライムを疑っているのか、ローベルト卿の兵士何だと信じて疑わなかった。
ライムは兵士ではなく、ローベルト卿の息子だが…それを言うとさらにややこしくなるから黙る事にした。
ライムはローベルト卿の養子と言われた方がしっくりくるほど性格は正反対なのに、何故皆悪魔の紋様があるからと事情を聞かずに決めつけるんだ?
…それは俺も同じか、俺が魔法使えるから…神の子だなんだと勝手に期待して持ち上げている。
本当の俺なんて見もしない、俺は人並みに恋をするし…その子のためなら悪魔にもなれる。
ライムだけだった、俺を神の子ではなくただのカイウスとして見てくれたのは…
俺の中でライムはなくてはならない存在、身体の一部のようになっていた。
だから俺の力が暴走した翌日、ライムを見ない時間は地獄のようだった。
ちゃんと飯を食べているのか?元気でやっているのか?会えない、寂しい寂しい…
その日は仕事でミスをしてしまい、リーズナに延々と小言を言われた。
リーズナの小言を聞き流しながら、何も待つ必要はない…自分から会いに行けばいい。
俺は王立士官学校の前にやってきた、卒業生であり騎士団長という職権を使った。
こんな時でしか使いたくないからな、少しくらいいいだろう。
俺が学校の敷地内に入ると、皆驚いた顔をして注目を浴びていた。
そりゃあそうだろう、何しに来たんだって不思議なのは当たり前だ。
「おや、カイ様ではないですか」
生徒に聞いてもライムを知ってるとは限らないし、やはり教師がいいかと思っていたら声を掛けられた。
後ろを振り返ると丸いメガネの青年が俺に頭を下げて駆け寄ってくる。
学生時代とそう変わらない容姿で少し安心して、俺も頭を下げた。
彼は俺の学生時代の担任の先生だった、こんな冴えない容姿だが剣術は凄くてよく稽古をつけてもらっていた。
カイ様なんて在学中一度も言われた事がなくて、違和感が凄かった。
昔の呼び名にしてほしいとお願いしたが「英雄様にそんな事出来ませんよ!」とちょっと困った顔で笑っていた。
俺は皆が尊敬する英雄じゃない、偽物の肩書きに何の意味もないのに…
「それで今日はどんなご用で?もしかして城下町の悪魔となにか関係が?」
「いや、そうではない…人を探しているんだ」
先生は誰だろうと考えていたが、やっぱり思いつかなかった顔をしていた。
いくら担任とはいえ全生徒を覚えているとは思えないが、一応聞いてみた。
すると、先生はすぐに分かったのか手を叩いて「ローベルトくんか!」と言っていた。
あまりにも声が大きくて、遠目から見ていた生徒達にも聞こえていて話し声が聞こえた。
本人達は内緒話のつもりだろうが、俺は片耳に手を当ててクリアに聞こえるように魔法を掛けた。
何となく、聞かなくてはいけないと思った…ライムの名前を聞いた周りの反応だ、俺にも無関係ではない。
「今、ローベルトって言った?」
「アイツだろ、かなりの問題児のさ」
「やっぱりあの騒ぎもアイツのせいじゃない?」
「カイ様が来てるって事は、アイツを捕まえてくれるかもしれない」
耳から手を離すと、声がコソコソしか聞こえなくなった…もう煩わしいノイズは聞きたくない。
先生が心配そうな顔で「どうしましたか?」と言うほどに俺の顔は怖いようだ。
先生にライムの事を聞いた、何故学校でライムがそう思われているのか知りたかった。
勿論一人の偏った話だけではなく、ライムの話も聞くつもりだ。
ライムが食堂で暴れたとか、裏で悪い事をしているとか俺の知らないライムの話をされた。
ライムの話を聞くまでもないな、この先生は生徒の好き嫌いはないからなにか誤解しているのだろう。
学校で辛い目に合っていたのか、なのに俺には明るく笑っていて……頼ってくれなかった事がショックだった。
「今ローベルトくんは実家に帰られてますよ」
「……分かりました、ありがとうございます」
「あっ、そうそう!カイ様にお願いがあるんですよ!」
ライムがここにいないなら用がないなと思っていたら、先生に呼び止められた。
そしてなかなか解放してくれなくて、終わった頃にはすっかり夜だった。
もう遅いとライムが寝ているだろうから、明日ローベルト家に行く事にした。
でも俺が普通に訪ねてもライムに会わせてはくれないだろう、昔からエーデルハイドとローベルトは仲が悪いからな。
ならば俺の意思を代弁してくれるものが必要だ、精霊に近いものが好ましい。
屋敷に帰るとローズが出迎えてくれて、俺の手にあるものを不思議そうに見ていた。
「ローズ、屋敷に侵入したローベルト卿の兵士はどうだ?」
「さすが長年尻尾を見せないだけあって、証拠が見つかりません」
「そうか」
ライムの誤解も長引きそうだなと、思いながら自室に入った。
手に持っていたものをベッドに置くと、ベッドの上で丸まって寝ていたリーズナが目を開けた。
それを手で押したりして、遊んでいた…こうして見ると本当に似ている。
屋敷に帰る途中で何でも揃うよろず屋に行き、黒猫のぬいぐるみを買った。
俺がぬいぐるみを愛好するように見えないからか、店主に「女の子へのプレゼントならリボンをお付けしましょうか」と言われた。
誰かにプレゼントをする気はないから断り、周りの目など全く気にせず屋敷に帰った。
ライムには小さい黒猫より、店の奥にあった大きなクマのぬいぐるみに包まれている方が絶対に可愛いと思う。
この黒猫はリーズナに似ている、つまり俺の意思を伝える器として最適だった。
明日、ライムにやっと会える…それが嬉しくて今日は黒猫のぬいぐるみと一緒に眠った。
リーズナが微妙な顔をして俺を見ていたが、リーズナにどう思われても構わなかった。
メイドを医務室に連れて行き、ローズと共に事情を聞いてやはりライムが悪いわけではない事は分かった。
ローズはまだライムを疑っているのか、ローベルト卿の兵士何だと信じて疑わなかった。
ライムは兵士ではなく、ローベルト卿の息子だが…それを言うとさらにややこしくなるから黙る事にした。
ライムはローベルト卿の養子と言われた方がしっくりくるほど性格は正反対なのに、何故皆悪魔の紋様があるからと事情を聞かずに決めつけるんだ?
…それは俺も同じか、俺が魔法使えるから…神の子だなんだと勝手に期待して持ち上げている。
本当の俺なんて見もしない、俺は人並みに恋をするし…その子のためなら悪魔にもなれる。
ライムだけだった、俺を神の子ではなくただのカイウスとして見てくれたのは…
俺の中でライムはなくてはならない存在、身体の一部のようになっていた。
だから俺の力が暴走した翌日、ライムを見ない時間は地獄のようだった。
ちゃんと飯を食べているのか?元気でやっているのか?会えない、寂しい寂しい…
その日は仕事でミスをしてしまい、リーズナに延々と小言を言われた。
リーズナの小言を聞き流しながら、何も待つ必要はない…自分から会いに行けばいい。
俺は王立士官学校の前にやってきた、卒業生であり騎士団長という職権を使った。
こんな時でしか使いたくないからな、少しくらいいいだろう。
俺が学校の敷地内に入ると、皆驚いた顔をして注目を浴びていた。
そりゃあそうだろう、何しに来たんだって不思議なのは当たり前だ。
「おや、カイ様ではないですか」
生徒に聞いてもライムを知ってるとは限らないし、やはり教師がいいかと思っていたら声を掛けられた。
後ろを振り返ると丸いメガネの青年が俺に頭を下げて駆け寄ってくる。
学生時代とそう変わらない容姿で少し安心して、俺も頭を下げた。
彼は俺の学生時代の担任の先生だった、こんな冴えない容姿だが剣術は凄くてよく稽古をつけてもらっていた。
カイ様なんて在学中一度も言われた事がなくて、違和感が凄かった。
昔の呼び名にしてほしいとお願いしたが「英雄様にそんな事出来ませんよ!」とちょっと困った顔で笑っていた。
俺は皆が尊敬する英雄じゃない、偽物の肩書きに何の意味もないのに…
「それで今日はどんなご用で?もしかして城下町の悪魔となにか関係が?」
「いや、そうではない…人を探しているんだ」
先生は誰だろうと考えていたが、やっぱり思いつかなかった顔をしていた。
いくら担任とはいえ全生徒を覚えているとは思えないが、一応聞いてみた。
すると、先生はすぐに分かったのか手を叩いて「ローベルトくんか!」と言っていた。
あまりにも声が大きくて、遠目から見ていた生徒達にも聞こえていて話し声が聞こえた。
本人達は内緒話のつもりだろうが、俺は片耳に手を当ててクリアに聞こえるように魔法を掛けた。
何となく、聞かなくてはいけないと思った…ライムの名前を聞いた周りの反応だ、俺にも無関係ではない。
「今、ローベルトって言った?」
「アイツだろ、かなりの問題児のさ」
「やっぱりあの騒ぎもアイツのせいじゃない?」
「カイ様が来てるって事は、アイツを捕まえてくれるかもしれない」
耳から手を離すと、声がコソコソしか聞こえなくなった…もう煩わしいノイズは聞きたくない。
先生が心配そうな顔で「どうしましたか?」と言うほどに俺の顔は怖いようだ。
先生にライムの事を聞いた、何故学校でライムがそう思われているのか知りたかった。
勿論一人の偏った話だけではなく、ライムの話も聞くつもりだ。
ライムが食堂で暴れたとか、裏で悪い事をしているとか俺の知らないライムの話をされた。
ライムの話を聞くまでもないな、この先生は生徒の好き嫌いはないからなにか誤解しているのだろう。
学校で辛い目に合っていたのか、なのに俺には明るく笑っていて……頼ってくれなかった事がショックだった。
「今ローベルトくんは実家に帰られてますよ」
「……分かりました、ありがとうございます」
「あっ、そうそう!カイ様にお願いがあるんですよ!」
ライムがここにいないなら用がないなと思っていたら、先生に呼び止められた。
そしてなかなか解放してくれなくて、終わった頃にはすっかり夜だった。
もう遅いとライムが寝ているだろうから、明日ローベルト家に行く事にした。
でも俺が普通に訪ねてもライムに会わせてはくれないだろう、昔からエーデルハイドとローベルトは仲が悪いからな。
ならば俺の意思を代弁してくれるものが必要だ、精霊に近いものが好ましい。
屋敷に帰るとローズが出迎えてくれて、俺の手にあるものを不思議そうに見ていた。
「ローズ、屋敷に侵入したローベルト卿の兵士はどうだ?」
「さすが長年尻尾を見せないだけあって、証拠が見つかりません」
「そうか」
ライムの誤解も長引きそうだなと、思いながら自室に入った。
手に持っていたものをベッドに置くと、ベッドの上で丸まって寝ていたリーズナが目を開けた。
それを手で押したりして、遊んでいた…こうして見ると本当に似ている。
屋敷に帰る途中で何でも揃うよろず屋に行き、黒猫のぬいぐるみを買った。
俺がぬいぐるみを愛好するように見えないからか、店主に「女の子へのプレゼントならリボンをお付けしましょうか」と言われた。
誰かにプレゼントをする気はないから断り、周りの目など全く気にせず屋敷に帰った。
ライムには小さい黒猫より、店の奥にあった大きなクマのぬいぐるみに包まれている方が絶対に可愛いと思う。
この黒猫はリーズナに似ている、つまり俺の意思を伝える器として最適だった。
明日、ライムにやっと会える…それが嬉しくて今日は黒猫のぬいぐるみと一緒に眠った。
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