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精霊の導き

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二階から落ちた筈なのに痛みを感じない、これが死ぬという事なのか?

暖かいもので全身覆われているようにぽかぽかして気持ちいい。

足を擦り合わせて、猫のように体を丸めて再び眠りの中に誘っていく。
何も考えないでずっと寝ていられたらこれ以上幸せな事はないよなぁ。
あれ、俺…なんで二階から落ちたんだっけ…なにか大切な事のような気もするが、どうでもいいか。

なにか手に持っている感触がして、眠たかったが薄く目を開けてそれを確認する。
銀色に輝く花のブレスレット、可愛いデザインだな…女の子のかな。

そんな事を考えていたら、俺の目の前にヒラヒラとなにかがやって来てちょこんと鼻の上に止まり、びっくりしすぎて声にならない叫び声を上げて飛び起きる。
それは離れていったが俺の心臓はずっとどきどきしていて鼻を押さえる。

虫かと思っていたそれは、綺麗な羽をひらひらと揺らめかせている精霊だった。

「ごめんね、びっくりしちゃって……ぁ」

普通にしていたが、喉に手を当てて「あー、あー」と声を上げた。
あの時は声が出なかったが普通に声が出せるようになっていた。

良かった、俺にとっての声は命よりも大切なものなんだ…俺の想いを歌に込められる。
安心したと同時に、目も冴えてきたので周りを見渡して俺がいる場所に気付いた。

緑の草原に木々が優しい風を運んでくれる、それに不思議なカタチの岩…

ここは幼少期の頃にやってきた森の中だ、精霊も沢山いる…間違いない。

だんだん俺が何をしてしまったか思い出して、手が震えてきた。
俺はマリーを傷付けてしまった、マリーは大丈夫だったのかな。

でもカイウスの屋敷から森まで距離があった筈だ、どうやってここまで来たんだ?

「もしかして君達が運んでくれたの?」

精霊に聞いてみると嬉しそうに飛び跳ねていて、俺の事を助けてくれたんだと複雑な気分だった。
マリーを傷付けた罰を受けたかった、そんな事で許されるとは思わないが少しでも苦しみを…

そう思っていたら、精霊達は突然ダンスを踊り出したので、どうしたのかと首を傾げた。

もしかして俺を励まそうとしてくれているのか?精霊は話せないから体で表現している。
歌う気分ではなかったが、助けてくれたんだし…お礼にと口を開いた。

歌を奏でる、俺の今の気持ちが声にも出てしまい…精霊達は不安そうな表情を見せていた。

一曲歌うと、精霊達は俺の周りに集まり体に触れて慰めてくれた。

「ありがとう、俺は大丈夫だよ…ただ一つだけお願いを聞いてくれる?カイウスのところに行ってマリーがどうなったか教えてくれる?」

「その必要はない」

カイウスには会いに行くのは今は無理だろう、カイウスに嫌われてしまったと思うから精霊にお願いする事にした。
すると滅多に人が来ない筈の森に第三者の声がして精霊に向けていた目線を上げた。

そこにいる筈がないカイウスが、俺の目の前にいた…これは夢か?俺はまだ夢の中にいるのか?

呆然とする俺にカイウスが一歩一歩近付いてきて、俺を包み込むように抱きしめてきた。

いつもと変わらない、俺を大切にするようなカイウスの温もりに俺はカイウスの肩を押した。
カイウスは分かっていないのか、俺が何をしたのか…優しくされるような人間じゃないんだ。

「カイウス、俺はマリーさんを傷付けたんだ…優しくしないでくれ」

「何をしたんだ?」

「…ぺ、ペンで刺したんだ…マリーさんの肩を…」

自分で言うとあの時の映像が呼び起こされていき、顔が青ざめる。
真っ赤な手に、マリーの痛みに歪む顔、俺には何も出来なかった。

震える手をカイウスに握られて、逃げようとする手をしっかりと掴まれた。

カイウスは「あれは事故だって聞いたが」とカイウスは口にした。

事故?でも俺は確かに机の上からペンを掴んでマリーに刺してしまった筈だ。
カイウスにそれを伝えるが、カイウスは俺の手を掴んで持ち上げた。

「あのペンは机に置いていない、机にあったのはこれだ」

俺の手には、あの花のブレスレットが握られていた…俺が掴んだのはこれ?

じゃああのペンは何処にあったものなんだ?不安そうに頬を撫でてくるカイウスを見つめた。

カイウスの話によると、あのペンは壁に掛けられていた服のポケットにあったペンで、地震の揺れで服が落ちてマリーが落ちたペンを拾った瞬間によろけて壁にぶつかったそうだ。
俺は壁にぶつかったマリーを支えて、ペンを握りしめてしまったって事か。

マリーは手当てして、しばらく安静にしていれば大丈夫だそうだ。
マリーの話を聞き、ローズは俺にしてしまった事を反省しているそうだ。
ただ、悪魔の紋様については紛れもない事実だからローベルト卿の兵士と俺の関係が無関係だと分かるまで謝らないそうだ。

悪魔とはそれほどまでに悪の根源だから、エーデルハイド家のメイド長として警戒するのは当たり前だ。
ゲームではローズとマリーが仲良くなってからマリーの悪魔の紋様を知ったから、今までの悪魔のイメージと葛藤しながらマリーを受け入れていた…他人の俺とは立場が違う。

カイウスは俺が怒るなら、代わりにローズを殴ると言うから全力で止めた。
俺はローズに怒っていない、カイウスやマリーを守ろうとしたんだ…俺がローズの立場なら同じ事をした。
だから俺からはローズに「気にしなくていい」と言うだけだった。

偶然が重なりマリーが怪我をした、これもゲームの力でそうなったのか…俺だけじゃなく他の人にも危害を加えるほど俺を…

カイウスは俺から花のブレスレットを取り、それを俺の腕に掛けた。

「これ…」

「ライムのために作ったんだ、渡しそびれたものだ」

俺のためにカイウスが?アクセサリー作れるのか、凄い手先が器用だな。

カイウスは俺の悪魔の紋様に口付けをすると、ビクッと体が反応する。

「俺の初恋だったんだ、あの子が……ライムの歌に惚れてた」と愛しそうにカイウスが呟く。
顔が近付いてくるが、拒めない…俺だってカイウスが初恋の相手だ。

初めて告白された時のような胸のトキメキを感じて俺はカイウスに身を委ねた。

なにがあってもずっとカイウスは俺の味方だった。
ゲームの力に翻弄される俺にもカイウスは真っ直ぐに思ってくれていた。
カイウスだけがゲームに逆らっている。
マリーではなく俺が好きで…カイウスといると俺がライムではなく、俺でいられる。

ゲームに打ち勝つほど、カイウスの想いが強い…そういう事なのかな。

「ライム、今からお前を抱く…最後までするけどいいか?」

「…うん、これが俺の気持ちだから」

俺はカイウスに想いを伝えられない、だからカイウスを受け入れる気持ちが…俺の気持ちだ。
嬉しそうに微笑むカイウスにどうやら伝わったようで口付けを受ける。

カイウスに痛くないように押し倒されて、視界いっぱいにカイウスの顔と満開の星空が見えた。
そうか、精霊が光り輝いていたから気付かなかったけど、もう夜中なのか。
何処からか獣の声も聞こえていて、そっとカイウスの肩を押した。

どうかしたのか?という不思議そうな顔でカイウスは俺を見つめていた。

……いくら普段誰も通らないといっても、こんなオープン空間で致すのはどうだろうか。
外はちょっと肌寒いし、二人共風邪引いたら大変だから日を改めてしよう。

「カイウス、外はちょっと…」

「そうか、なら移動しよう」

「えっ…でもカイウスの屋敷は…」

「なら、誰も来ない場所に行こう」

カイウスの屋敷はまだ俺が犯人だと思ってる人がいるだろうし、寮に帰るとローベルト家の人達が来るかもしれないから落ち着けない。
そう思っていたら、カイウスに腕を引かれてお姫様だっこされた。

誰も来ない場所、そんな場所があるのか?何処だろうとクイズのように考えながらカイウスの胸に頭を預ける。

小さくカイウスが「そんなに煽るな」と言っていたが、何の事かさっぱり分からなかった。

俺達の周りを飛んでいた精霊達は急に目の前に集まっていき、真っ白い空間が出来た。

初めて見るもので驚いていたら、カイウスは戸惑う事なくその中に向かって歩いていった。

「カイウス、ここは?」

「俺と俺が招いた奴しか入れない場所だ」

そう言ったカイウスが空間に触れると、俺とカイウスを包み込むように光が伸びてきて包み込んだ。

カイウスの首に腕を回してしがみ付いて、その先に映る光景を見た。

そこは何処かの宮殿のような場所だが、俺がいた森でも城下町でもない場所。

宮殿の外には綺麗な夜桜が咲いていて、透き通る湖には精霊が沢山集まっていた。
さっきの精霊の行動を見て、分からなかったがここに来てここが何処なのか分かった。

ゲームに出てきていた、精霊の宮殿と呼ばれる神秘の場所だ。
カイウスとカイウスが招いた人物だけが入れるからゲームではマリーだけが来れた。

ここでマリーは精霊王と契約した場所でもあり、まさか俺が来れるとは思わなかった。
下ろされて周りを見渡すと、ゲームで見た事がある景色に感動する。

「生涯たった一人だけ連れてくるつもりだった、ライムを」

「そんな大切な場所に、俺でいいの?」

「ライム以外に誰がいるんだ?」

カイウスが微笑んで、俺の手を引いてエスコートされながら何処かに連れて行く。
精霊王がいる場所だからか、妙に緊張していてカイウスの手をギュッと握り返した。

一つの綺麗に装飾された扉の前で足を止めた、この部屋は初めて見た。
精霊王がいる場所は宮殿の中ではなく、外にある湖の中だった。

中は完全に初めてで、ゲームをやっていた時気になってはいた。

カイウスがドアを開いて俺を先に入れて、後ろでドアを閉められた。

後ろからカイウスに抱きしめられて、綺麗な場所に感動していた気持ちが吹き飛んだ。

そういえば、カイウスとするための場所の話をしていたっけ。

部屋には大きなベッドとサイドテーブルのみがあった寝室だった。
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