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涙のわけ
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目を開けると精霊が俺の周りにぐるぐる周り、肩や頭に乗っていた。
くすぐったくて小さく笑った、昼にこれをやると可笑しい人だよな。
普通の人には見えないものが見える、何だか不思議だな。
こんなに近くにいて、触れる事が出来るのに…精霊は人に見てもらえないんだ。
「……お前、ソイツらが見えるのか?」
精霊と戯れていたら、別の声が聞こえて心臓が飛び跳ねそうだった。
精霊は喋れない筈だ、それに見えるって……精霊が見える奴なんて俺ともう一人ぐらいじゃないか。
誰もいないと思っていた広場にカイウスが立っていた。
それだけなら素通りして何事もなかったように出来たが、俺が精霊が見えるところを見られてしまった。
どうしよう、誤魔化さなければ…えーっと、えーっと……
俺は我ながら誤魔化すのがとても下手だと呆れてしまう。
口笛を吹いて、そのままその場を退場しようとカニ歩きをした。
しかし、少し歩いたところでカイウスに肩を掴まれて終わった。
「別に隠す事ではないだろ、俺も見える」
「さ、さて…何のことやら」
「もしかしてお前も精霊の加護を受けているのか?」
「違う!たまたま見えるだけで俺はただの人間だ!」
つい言い返してしまい、顔を青くさせて口を手で覆った。
カイウスの顔は全く変わってはいなかったが、バカにしているようには感じなかった。
俺は特別なんかじゃない、なんで精霊が見えるのかは知らないが俺は魔法なんか使えないただの人間だ。
カイウスが離してくれないから逃げる事を諦めて、広場のベンチに腰を下ろした。
カイウスも隣に座ると、なんか変な感じに思った……ずっと避けていた相手と仲良く座るなんて…
俺達の関係は友人ではなく、ほとんど顔見知り程度だけど…
「初めて俺以外に精霊を見れる奴を見た、精霊に好かれるほど心が清らかなんだろうな」
「……いや、どうでしょう」
カイウスは精霊に望まれて生まれた存在だから、心が正義に満ち溢れているんだろう。
カイウスがそう言っても、事実だから全く嫌味に感じなかった。
でも俺は心が清らかかと言われてもそうだとは思えなかった。
ただ人と違うのは前世の記憶があるだけだ、それだけだ。
それのせいなのか?だとしたら納得だが、いらないオプションだな。
カイウスは手を前に出すと、指先に精霊が止まり飛んでいった。
「あの、母は…どうなったんですか?」
「お前は知らない方がいい」
カイウスはそう言って何も教えてくれなかったが、いろいろと察した。
きっと母は殺人罪で裁かれるのだろう、俺はもう幼くないから気を使わなくていいのに…
それがカイウスというキャラクターのいいところだというのは分かっているけど…
いきなり首がひんやりと冷たくなり、びっくりして変な声が出てしまった。
首は本当に弱いから不意討ちは止めてくれと首筋に触れたカイウスを睨む。
カイウスは「…すまない」と全く心が読めない無表情で謝った。
「その首、痣になってるな」
「…あ、はは…」
「何故か、聞いてもいいか?」
ずっとカイウスは気になっていたのだろう、俺が何故実の母に首を絞められて殺されかけたのか…
俺も風呂に入った時に、鏡に映る自分の首を見て痛々しい痣に驚いた。
まさかカイウスに会うと思っていなかったから、隠しておけば良かったと後悔した。
これ以上カイウスと関わりたくなかった、でもカイウスが心配してくれている事は分かっている。
俺の首筋の事がずっと気になって、モヤモヤしていたら俺の事忘れてくれないかもしれない。
自意識過剰ならいいが、カイウスは気になったら解決するまでしつこいとゲームで学んだから誤魔化さない方がいいだろう。
「赤ん坊の頃から望まれて生まれたわけじゃないし、俺がいらなかったんだよ!それだけだから!だから気にしない気にしない!」
「……」
明るく言って、俺は全く気にしていませんといった態度で笑った。
本当はショックだったけど、カイウスに気にされるような事ではない。
カイウスは大帝国とヒロインの事だけを考えていればいいんだ。
カイウスは表情筋が死んでるから無表情で何を思っているか分からない。
もうそろそろ帰ろうかと思っていたら、ふと頭に少し重さを感じた。
カイウスの手が俺の頭に手を置いていて、ぽんぽんと撫でられた。
「誰でも望まれていない人間なんていない、お前はまだ若い…いつか必ずお前が必要だと言ってくれる相手が見つかる」
「……そんな慰めなんて」
「慰めるだけでそんな事言わない、俺がそう思ってるから言っただけだ」
やっぱりカイウスはムカつくな、俺が忘れていた事を思い出させた。
俺は歌うのが好きで、誰かに俺の歌を認めてほしくて…好きになってほしかったんだ。
転生して、俺の生まれた意味を周りに否定されて…誰かに必要とされたいと密かに思っていた。
泣きたくなんてない、カイウスの前なんて特に弱い部分を見せたくない。
なのに自分の意思と関係なく、ポロポロと涙がこぼれ落ちていく。
手をギュッと握りしめて、服の袖で涙を拭って立ち上がる。
「……もう、眠いから…帰ります!」
「そうか」
これ以上カイウスに弱味を見せたくなくて少し歩いて、早く帰りたかった。
もうカイウスは俺に興味なくなったのか、引き止めなかった。
少し進んで足を止めると、俺はカイウスのところに振り返った。
最後にぶっきらぼうに「…ありがとう」とだけ呟き、走って屋敷に帰った。
くすぐったくて小さく笑った、昼にこれをやると可笑しい人だよな。
普通の人には見えないものが見える、何だか不思議だな。
こんなに近くにいて、触れる事が出来るのに…精霊は人に見てもらえないんだ。
「……お前、ソイツらが見えるのか?」
精霊と戯れていたら、別の声が聞こえて心臓が飛び跳ねそうだった。
精霊は喋れない筈だ、それに見えるって……精霊が見える奴なんて俺ともう一人ぐらいじゃないか。
誰もいないと思っていた広場にカイウスが立っていた。
それだけなら素通りして何事もなかったように出来たが、俺が精霊が見えるところを見られてしまった。
どうしよう、誤魔化さなければ…えーっと、えーっと……
俺は我ながら誤魔化すのがとても下手だと呆れてしまう。
口笛を吹いて、そのままその場を退場しようとカニ歩きをした。
しかし、少し歩いたところでカイウスに肩を掴まれて終わった。
「別に隠す事ではないだろ、俺も見える」
「さ、さて…何のことやら」
「もしかしてお前も精霊の加護を受けているのか?」
「違う!たまたま見えるだけで俺はただの人間だ!」
つい言い返してしまい、顔を青くさせて口を手で覆った。
カイウスの顔は全く変わってはいなかったが、バカにしているようには感じなかった。
俺は特別なんかじゃない、なんで精霊が見えるのかは知らないが俺は魔法なんか使えないただの人間だ。
カイウスが離してくれないから逃げる事を諦めて、広場のベンチに腰を下ろした。
カイウスも隣に座ると、なんか変な感じに思った……ずっと避けていた相手と仲良く座るなんて…
俺達の関係は友人ではなく、ほとんど顔見知り程度だけど…
「初めて俺以外に精霊を見れる奴を見た、精霊に好かれるほど心が清らかなんだろうな」
「……いや、どうでしょう」
カイウスは精霊に望まれて生まれた存在だから、心が正義に満ち溢れているんだろう。
カイウスがそう言っても、事実だから全く嫌味に感じなかった。
でも俺は心が清らかかと言われてもそうだとは思えなかった。
ただ人と違うのは前世の記憶があるだけだ、それだけだ。
それのせいなのか?だとしたら納得だが、いらないオプションだな。
カイウスは手を前に出すと、指先に精霊が止まり飛んでいった。
「あの、母は…どうなったんですか?」
「お前は知らない方がいい」
カイウスはそう言って何も教えてくれなかったが、いろいろと察した。
きっと母は殺人罪で裁かれるのだろう、俺はもう幼くないから気を使わなくていいのに…
それがカイウスというキャラクターのいいところだというのは分かっているけど…
いきなり首がひんやりと冷たくなり、びっくりして変な声が出てしまった。
首は本当に弱いから不意討ちは止めてくれと首筋に触れたカイウスを睨む。
カイウスは「…すまない」と全く心が読めない無表情で謝った。
「その首、痣になってるな」
「…あ、はは…」
「何故か、聞いてもいいか?」
ずっとカイウスは気になっていたのだろう、俺が何故実の母に首を絞められて殺されかけたのか…
俺も風呂に入った時に、鏡に映る自分の首を見て痛々しい痣に驚いた。
まさかカイウスに会うと思っていなかったから、隠しておけば良かったと後悔した。
これ以上カイウスと関わりたくなかった、でもカイウスが心配してくれている事は分かっている。
俺の首筋の事がずっと気になって、モヤモヤしていたら俺の事忘れてくれないかもしれない。
自意識過剰ならいいが、カイウスは気になったら解決するまでしつこいとゲームで学んだから誤魔化さない方がいいだろう。
「赤ん坊の頃から望まれて生まれたわけじゃないし、俺がいらなかったんだよ!それだけだから!だから気にしない気にしない!」
「……」
明るく言って、俺は全く気にしていませんといった態度で笑った。
本当はショックだったけど、カイウスに気にされるような事ではない。
カイウスは大帝国とヒロインの事だけを考えていればいいんだ。
カイウスは表情筋が死んでるから無表情で何を思っているか分からない。
もうそろそろ帰ろうかと思っていたら、ふと頭に少し重さを感じた。
カイウスの手が俺の頭に手を置いていて、ぽんぽんと撫でられた。
「誰でも望まれていない人間なんていない、お前はまだ若い…いつか必ずお前が必要だと言ってくれる相手が見つかる」
「……そんな慰めなんて」
「慰めるだけでそんな事言わない、俺がそう思ってるから言っただけだ」
やっぱりカイウスはムカつくな、俺が忘れていた事を思い出させた。
俺は歌うのが好きで、誰かに俺の歌を認めてほしくて…好きになってほしかったんだ。
転生して、俺の生まれた意味を周りに否定されて…誰かに必要とされたいと密かに思っていた。
泣きたくなんてない、カイウスの前なんて特に弱い部分を見せたくない。
なのに自分の意思と関係なく、ポロポロと涙がこぼれ落ちていく。
手をギュッと握りしめて、服の袖で涙を拭って立ち上がる。
「……もう、眠いから…帰ります!」
「そうか」
これ以上カイウスに弱味を見せたくなくて少し歩いて、早く帰りたかった。
もうカイウスは俺に興味なくなったのか、引き止めなかった。
少し進んで足を止めると、俺はカイウスのところに振り返った。
最後にぶっきらぼうに「…ありがとう」とだけ呟き、走って屋敷に帰った。
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