冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

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屋根裏部屋にお引っ越し

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「……逃げられると思ったのか」

「俺の事、邪魔だって思っていたんじゃなかったのか?」

つい本音が口からこぼれ落ちた、でも俺には知る必要がある。

父は眉を顰めていたが、すぐに口をニヤリと吊り上げた。

「すぐに分かる」と一言だけ声を発して、牢獄のドアが開かれた。

出してくれる、そんな甘い考えは首筋に当てられた冷たい刃の感触で全て消えた。
左右に俺を眠らせた黒子が立っていて、短剣を握っていた。

立つ事しか許されない感じで、ゆっくりと立ち上がると背中を押されて、歩かされる。
地下牢から出れたのに、自由になったとは思えなかった。

また監視される日々が始まると思うと憂鬱な気分になる。
でもあの父の顔からして、別の意味にも感じた。

連れてこられたのは俺に与えられた部屋ではなく、屋根裏部屋だった。
ドアを開けた瞬間、ぶわっと埃が舞って軽く噎せた。

喉が痛い、もしかしてこの部屋は……

思いっきり背中を押されて、床に転がった。

「そこが今日から貴方様の部屋です」

「せいぜい我らが敬愛するローベルト卿のお役に立って下さい」

そう言われて、ドアを閉じられて再び一人になった。

口を押さえて、急いで窓まで駆け寄り体当たりするように窓を開けた。
新鮮な空気が中に入ってきて、ホッと胸を撫で下ろした。

父が何を考えてるか考える前に屋根裏の掃除が先だな。
この屋根裏には布という布がほとんどなくて、逃げ防止になっていた。
同じ手が使えないのは当たり前か、と苦笑いする。

屋根裏を見ると、綿が飛び出ているボロいベッドと埃を被って本来の色を失った机だけがあった。

掃除道具は見たかぎりなくて、人に聞こうにも部屋から出してくれないのは分かっている。
だからボロボロのシーツを雑巾がわりにする事にした。
今は外少し暖かいから、シーツがなくても大丈夫だから掃除に使う事にした。

屋根裏部屋にはトイレも風呂もないから、その時に外に出してくれるよな。
水がないからそのままで床を擦って埃を取り除いた。

本当は徹底的に綺麗に掃除したかったけど、これで我慢するか。
ベッドと机まで掃除すると、シーツが真っ黒になってしまった。

中途半端な感じになってしまった、なんかもやもやする。

誰かいないのかと、屋根裏部屋のドアをドンドンと叩いた。

「あのー、すみません」

「……」

誰かいる気配がするが、ドアを開けてくれる気配がない。
もう一度ドンドンとドアを叩くと、小さくドアが開かれた。

隙間から覗く黒子が怖くて後退った。

黒子は舌打ちをして、ドアを開いて「何ですか、騒々しい」と苛立ちを隠さない声で言われた。
掃除したい事を伝えたが、全然聞いてくれなかった。

それだけじゃなくて「そのままの方が貴方にはお似合いですよ」と口元を隠しながら埃を払う仕草をしていた。
本当はドアを開けるのも嫌みたいで、ドアを素早く閉めようとしていた。

とっさに手を入れたから、指が挟まって激痛に痺れた。

「……何をやってるんですか、大事な紋様に」

「ひっ、ひぅ…もん、よう?」

「まだなんか用ですか?」

紋様……確かに手の甲に悪魔の紋様がある方をドアに挟んだけど大事ってなんだ?

よく分からないが、手を擦って労って…俺は掃除とは別の用事を伝えた。

トイレがしたいと……







「早くしろ」

「待ってって!!」

トイレをしたいわけではなくて、掃除道具を拝借するために来ただけだ。
それを知られるとトイレにすら行かせてもらえなくなりそうだ。

掃除道具入れにあった小さなホウキと濡れた雑巾を手に取った。
トイレの外にいる黒子二人にバレないように、服の下に忍ばせて来た。

もう一度屋根裏部屋に戻るために歩き出した。
今は両サイドに黒子がいるだけで、俺が自分から屋根裏部屋に戻っているような気がして微妙だ。

俺に微塵も興味がないからか黒子にバレる事はなかった。

無事に屋根裏部屋に戻ってきて、早速掃除を始めた。

さっきよりも綺麗になって、とりあえず満足した。
掃除道具がバレないようにベッドの下に隠して、ソファーに座る。

早く夕飯にならないかな、ここでの楽しみはそれしかないから…
それに俺を呼び寄せた理由はいったい何なんだろう。

もう簡単なやり方だと警備を強化しているだろうから逃げられないだろう。
でも理由によってはまた脱出しよう、たとえ骨折しても…
でもそれは最終手段だ。
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