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「ライム様ですね」
「……っへ?」
宿屋を見つけて、馬車の荷台に乗り込もうとしている時に後ろから声を掛けられた。
名前を呼ばれるのも驚いたが、忍び込むところを誰かに見られただけで心臓が飛び出るほど驚いた。
後ろを恐る恐る振り返ると、そこにいたのは見知らぬ黒い男だった。
言葉の通り黒子のような格好していて、あまりの怪しさに荷台から降りてジリジリと距離を取る。
誰だろう、俺の名前を知っているならローベルト家の人間だろう。
バレてしまった、まだ馬車の持ち主は戻って来なさそうだから何処かに逃げて時間を潰すしかない。
そう思い、黒子に背を向けた時なにかにぶつかった。
それが誰か確認する前に口元を手で覆われて意識がだんだん遠くなっていく。
これは……眠り…薬…か…
二人いたなんて、完全に油断した…俺の失敗だ。
悔いても仕方ない、もう遅いんだ。
冷たくて硬い地面に目覚めが悪くなり、眉を寄せながら起き上がった。
「うひゃっ!!」
うなじに水滴がポツリと落ちて、変な声が出てしまった。
首筋に触れながら硬い地面に座って、だんだんと意識が戻っていく。
薄暗い空間に、ポツポツと小さな灯りが揺らめいていた。
目の前には太い鉄格子が見える、明らかにここは牢獄の中だった。
見た事がないが、ローベルト家の屋敷の地下だろうか。
俺が逃げ出さないようにと、俺の部屋ではなく地下牢に押し込んだんだろう。
逃げ出したんだ、ほっといてくれたらいいのに…
鉄格子に触れて、縦や横に動かしてみるがガチャガチャと音が鳴るだけだった。
「誰かー!!いませんかぁー!!誰かー!!」
「黙れ悪魔のガキが!!」
誰もいないのか不安で大きな声で叫ぶと、俺の声に被せて声が聞こえた。
誰かいると分かると寂しさが一気に吹き飛んで、周りを見渡した。
すると、鉄格子の向こう側に一人の兵士がいた。
兜で顔は見えないが、怒っているようで鉄格子を手に持っていた剣で思いっきり叩かれた。
鉄格子が折れる事はなかったが、大きな音が鳴り響き耳を塞ぎながら離れた。
兵士はフンッと鼻を鳴らして、去ろうとしたからとっさに鉄格子にしがみついた。
「待って!俺はこれからどうなるんだ?」
「…どうって、悪魔のガキの使い道なんて一つしかないだろ」
俺の使い道?そんなものあるのか?
剣の修行なんて一度もしてこなかったから兵士にもなれないし、俺が出来る事と言ったら歌くらい?
考えても分からなくて、答えを聞こうと思っていたらもう兵士の姿がなかった。
教えてくれてもいいのになと唇を尖らせて壁に寄りかかる。
鉄格子を蹴ってみたら、足が痛くなりすぐに止めた。
そしてどのくらいボーッとしていただろうか、静かな地下牢に靴音が響いた。
一人じゃない、二、三…もっといるな。
靴音は俺の目の前で止まり、下を向いていた視線を上げた。
そこには久々に見た父の姿があった。
「……っへ?」
宿屋を見つけて、馬車の荷台に乗り込もうとしている時に後ろから声を掛けられた。
名前を呼ばれるのも驚いたが、忍び込むところを誰かに見られただけで心臓が飛び出るほど驚いた。
後ろを恐る恐る振り返ると、そこにいたのは見知らぬ黒い男だった。
言葉の通り黒子のような格好していて、あまりの怪しさに荷台から降りてジリジリと距離を取る。
誰だろう、俺の名前を知っているならローベルト家の人間だろう。
バレてしまった、まだ馬車の持ち主は戻って来なさそうだから何処かに逃げて時間を潰すしかない。
そう思い、黒子に背を向けた時なにかにぶつかった。
それが誰か確認する前に口元を手で覆われて意識がだんだん遠くなっていく。
これは……眠り…薬…か…
二人いたなんて、完全に油断した…俺の失敗だ。
悔いても仕方ない、もう遅いんだ。
冷たくて硬い地面に目覚めが悪くなり、眉を寄せながら起き上がった。
「うひゃっ!!」
うなじに水滴がポツリと落ちて、変な声が出てしまった。
首筋に触れながら硬い地面に座って、だんだんと意識が戻っていく。
薄暗い空間に、ポツポツと小さな灯りが揺らめいていた。
目の前には太い鉄格子が見える、明らかにここは牢獄の中だった。
見た事がないが、ローベルト家の屋敷の地下だろうか。
俺が逃げ出さないようにと、俺の部屋ではなく地下牢に押し込んだんだろう。
逃げ出したんだ、ほっといてくれたらいいのに…
鉄格子に触れて、縦や横に動かしてみるがガチャガチャと音が鳴るだけだった。
「誰かー!!いませんかぁー!!誰かー!!」
「黙れ悪魔のガキが!!」
誰もいないのか不安で大きな声で叫ぶと、俺の声に被せて声が聞こえた。
誰かいると分かると寂しさが一気に吹き飛んで、周りを見渡した。
すると、鉄格子の向こう側に一人の兵士がいた。
兜で顔は見えないが、怒っているようで鉄格子を手に持っていた剣で思いっきり叩かれた。
鉄格子が折れる事はなかったが、大きな音が鳴り響き耳を塞ぎながら離れた。
兵士はフンッと鼻を鳴らして、去ろうとしたからとっさに鉄格子にしがみついた。
「待って!俺はこれからどうなるんだ?」
「…どうって、悪魔のガキの使い道なんて一つしかないだろ」
俺の使い道?そんなものあるのか?
剣の修行なんて一度もしてこなかったから兵士にもなれないし、俺が出来る事と言ったら歌くらい?
考えても分からなくて、答えを聞こうと思っていたらもう兵士の姿がなかった。
教えてくれてもいいのになと唇を尖らせて壁に寄りかかる。
鉄格子を蹴ってみたら、足が痛くなりすぐに止めた。
そしてどのくらいボーッとしていただろうか、静かな地下牢に靴音が響いた。
一人じゃない、二、三…もっといるな。
靴音は俺の目の前で止まり、下を向いていた視線を上げた。
そこには久々に見た父の姿があった。
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