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魔王の力
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もう一人の女性の仲間は明らかに怯えた様子で、男を見つめていたがすぐに腕を掴まれて逃げられなくなる。
「さぁ、もう一度やってみろよ…俺だって魔王の力を使えるんだからな……お前を殺してやる!」
「人間が扱えるものではない、この瓦礫の山もお前だろ?体が限界なんだろ」
「うるさい!お前を殺せるならこの命惜しくはない!!」
男は女性を押して、剣で貫いた。
その剣が黒く光り、さっきシリウスが放った魔法と同じだった。
これが、シリウスの力…女性を目眩し代わりにしてシリウスを殺す気らしい。
女性の体は力により無残な姿になり、本当に仲間より魔王を殺す事しか考えていない様子だった。
憎悪を瞳に宿して、シリウスに剣を振り下ろした。
しかし、シリウスは避ける事をしない…何も防御せずにいたらいくらシリウスでも大袈裟をする。
男はシリウスの腹に剣を深く深く突き刺した。
刃の周りから真っ赤な血が広がっている。
「シリウスッ!!」
「ふっ、ははは…やった、やったぞ…ついに魔王を…」
「……」
「何だよ、命乞いくらいしてみたらどうだ…そうしたら助けてやらない事も……うぐっ」
「よく喋る人間だな」
二人が密着させているからなにがあったのか分からない。
でも、シリウスが腕を引くと男の体から真っ赤な血が噴き出た。
シリウスの赤く染まった手には黒い宝玉が握られていた。
崩れて倒れたのはシリウスではなく、あの男の方だった。
もしかしたらシリウスの腹に刺さったと思っていたけど、かすっただけなのかと思いシリウスに近付く。
平然としているから大丈夫だと思ったが、ちゃんと腹に刺さっている。
「シリウス!大丈夫か!?手当てしないと」
「平気だ」
「で、でも…魔王の力の剣だったんだろ」
「俺の力なのに俺に影響があるわけがないだろ」
そう言って、剣を引き抜いて地面に落とした。
そういえばそんな事言っていたような気がするな。
シリウスが大丈夫ならいいけど、腹に触れると暖かい体温を感じる。
血が止まらない、本当に大丈夫か不安になる。
「レイン!」という声を聞いて、後ろを振り返ると大道芸人の仲間達が集まってきた。
魔王が近くにいるから、俺にも近付けないのか途中で足を止めた。
シリウスのところにも魔王軍が集まってきていた。
「若様、やはりあの人間達が魔王軍を語っていたようです…若様の力を悪用するなど…生きているのを後悔するような方法で痛ぶりたかった」
「人間は脆い、すぐに死ぬから痛ぶる事も出来ないだろう」
「じゃあやっぱりあのエルフの少年の両親を殺したのは…」
俺が口を挟むと鬼将軍は俺の事を睨みつけていた。
今にも大剣で真っ二つにされそうだが、シリウスがいるからしないのだろう。
宝玉が消えて、シリウスの体に力が戻った時だった。
足の力が抜けて立っていられなくなり、地面に膝を付いた。
なんだこれ、力が入らないし体の中がぐちゃぐちゃになりそうなほど苦しい。
口からなにかが流れてきて、指で拭った。
指が真っ赤に染まっていて、シリウスの方を見上げる事すら出来ない。
これが、全ての宝玉の力を取り戻した魔王の力なのか?
「若様、例の手がかりを見つけました」
「えー、とりあえずお城に帰ろうよー、僕疲れちゃった」
「貴様!また若様にベタベタと…」
なにか言っている声が聞こえるがノイズが混じった音に聞こえて分からない。
分からないけど、またシリウスと離れるなんて…何のためにここまで来たんだよ。
宝玉探しが終わった今、シリウスは何をするのか分からない。
もしかしたら次に会うのは最後の戦いなのかもしれない。
俺の決意はこんなところで終わるのか?ふざけるな…そんなの、絶対にダメだ!
動かなかった腕を必死に持ち上げると、少しだけ持ち上がった。
動かないわけじゃない、これならきっと届くはずだ。
足元に見えていたシリウスの影が動いて、行ってしまうと思ってシリウスの足にしがみついた。
口を動かしても何も喋れない、それでも必死に伝えようと思った…俺の気持ちを…
「この人間、若様に汚い手で触れおって」
「あれ?まだ生きてたんだ、コイツ」
「……」
「童貞じゃなきゃ愛玩動物にしてあげるのに、シリウス様どうする?腕を切り落とす?」
なにか周りがごちゃごちゃ言っているが、俺はまっすぐとシリウスだけを見つめていた。
そしてシリウスも俺だけを見て、唇が全く動く気配はなかった。
シリウスの強い魔力に何度も押されそうになるが、必死に指に力を込める。
シリウスがしゃがむと、俺とより距離が近くなり…やっぱりムカつくほどの美形だなと思った。
シリウスに抱きしめられると、いつも俺を狂わせる甘いにおいがした。
団長達はシリウスの魔力に一歩も近付く事が出来ないだろうけど、俺の声を呼んだ。
ここまで運んでくれたのに、立派な大道芸人になれなくてごめん。
あぁ…なにか声を掛けたいのに、上手く口を開く事さえ出来ない。
シリウスが俺から離れると、それも引き抜かれて俺の視界に映った。
シリウスの手には、さっきの男が持っていた剣が握られていた。
俺を抱きしめる前に拾ったのかなとか呑気な事を考えながら腹を押さえる。
ヤバいな、今度は俺の腹の血が溢れてきて止まらない。
まさかシリウスに殺されるとは思わなかったけど、不思議と恨む気持ちはなかった。
シリウスがそうしたいなら、俺はそれで構わないとさえ思っている……これが惚れた弱みなのかもな。
視界が見えなくなって、シリウスの姿も分からず腕を伸ばすと手を触れられた。
暖かいな、シリウスの温もりを感じながら意識は深い暗闇の底に沈んでいった。
「さぁ、もう一度やってみろよ…俺だって魔王の力を使えるんだからな……お前を殺してやる!」
「人間が扱えるものではない、この瓦礫の山もお前だろ?体が限界なんだろ」
「うるさい!お前を殺せるならこの命惜しくはない!!」
男は女性を押して、剣で貫いた。
その剣が黒く光り、さっきシリウスが放った魔法と同じだった。
これが、シリウスの力…女性を目眩し代わりにしてシリウスを殺す気らしい。
女性の体は力により無残な姿になり、本当に仲間より魔王を殺す事しか考えていない様子だった。
憎悪を瞳に宿して、シリウスに剣を振り下ろした。
しかし、シリウスは避ける事をしない…何も防御せずにいたらいくらシリウスでも大袈裟をする。
男はシリウスの腹に剣を深く深く突き刺した。
刃の周りから真っ赤な血が広がっている。
「シリウスッ!!」
「ふっ、ははは…やった、やったぞ…ついに魔王を…」
「……」
「何だよ、命乞いくらいしてみたらどうだ…そうしたら助けてやらない事も……うぐっ」
「よく喋る人間だな」
二人が密着させているからなにがあったのか分からない。
でも、シリウスが腕を引くと男の体から真っ赤な血が噴き出た。
シリウスの赤く染まった手には黒い宝玉が握られていた。
崩れて倒れたのはシリウスではなく、あの男の方だった。
もしかしたらシリウスの腹に刺さったと思っていたけど、かすっただけなのかと思いシリウスに近付く。
平然としているから大丈夫だと思ったが、ちゃんと腹に刺さっている。
「シリウス!大丈夫か!?手当てしないと」
「平気だ」
「で、でも…魔王の力の剣だったんだろ」
「俺の力なのに俺に影響があるわけがないだろ」
そう言って、剣を引き抜いて地面に落とした。
そういえばそんな事言っていたような気がするな。
シリウスが大丈夫ならいいけど、腹に触れると暖かい体温を感じる。
血が止まらない、本当に大丈夫か不安になる。
「レイン!」という声を聞いて、後ろを振り返ると大道芸人の仲間達が集まってきた。
魔王が近くにいるから、俺にも近付けないのか途中で足を止めた。
シリウスのところにも魔王軍が集まってきていた。
「若様、やはりあの人間達が魔王軍を語っていたようです…若様の力を悪用するなど…生きているのを後悔するような方法で痛ぶりたかった」
「人間は脆い、すぐに死ぬから痛ぶる事も出来ないだろう」
「じゃあやっぱりあのエルフの少年の両親を殺したのは…」
俺が口を挟むと鬼将軍は俺の事を睨みつけていた。
今にも大剣で真っ二つにされそうだが、シリウスがいるからしないのだろう。
宝玉が消えて、シリウスの体に力が戻った時だった。
足の力が抜けて立っていられなくなり、地面に膝を付いた。
なんだこれ、力が入らないし体の中がぐちゃぐちゃになりそうなほど苦しい。
口からなにかが流れてきて、指で拭った。
指が真っ赤に染まっていて、シリウスの方を見上げる事すら出来ない。
これが、全ての宝玉の力を取り戻した魔王の力なのか?
「若様、例の手がかりを見つけました」
「えー、とりあえずお城に帰ろうよー、僕疲れちゃった」
「貴様!また若様にベタベタと…」
なにか言っている声が聞こえるがノイズが混じった音に聞こえて分からない。
分からないけど、またシリウスと離れるなんて…何のためにここまで来たんだよ。
宝玉探しが終わった今、シリウスは何をするのか分からない。
もしかしたら次に会うのは最後の戦いなのかもしれない。
俺の決意はこんなところで終わるのか?ふざけるな…そんなの、絶対にダメだ!
動かなかった腕を必死に持ち上げると、少しだけ持ち上がった。
動かないわけじゃない、これならきっと届くはずだ。
足元に見えていたシリウスの影が動いて、行ってしまうと思ってシリウスの足にしがみついた。
口を動かしても何も喋れない、それでも必死に伝えようと思った…俺の気持ちを…
「この人間、若様に汚い手で触れおって」
「あれ?まだ生きてたんだ、コイツ」
「……」
「童貞じゃなきゃ愛玩動物にしてあげるのに、シリウス様どうする?腕を切り落とす?」
なにか周りがごちゃごちゃ言っているが、俺はまっすぐとシリウスだけを見つめていた。
そしてシリウスも俺だけを見て、唇が全く動く気配はなかった。
シリウスの強い魔力に何度も押されそうになるが、必死に指に力を込める。
シリウスがしゃがむと、俺とより距離が近くなり…やっぱりムカつくほどの美形だなと思った。
シリウスに抱きしめられると、いつも俺を狂わせる甘いにおいがした。
団長達はシリウスの魔力に一歩も近付く事が出来ないだろうけど、俺の声を呼んだ。
ここまで運んでくれたのに、立派な大道芸人になれなくてごめん。
あぁ…なにか声を掛けたいのに、上手く口を開く事さえ出来ない。
シリウスが俺から離れると、それも引き抜かれて俺の視界に映った。
シリウスの手には、さっきの男が持っていた剣が握られていた。
俺を抱きしめる前に拾ったのかなとか呑気な事を考えながら腹を押さえる。
ヤバいな、今度は俺の腹の血が溢れてきて止まらない。
まさかシリウスに殺されるとは思わなかったけど、不思議と恨む気持ちはなかった。
シリウスがそうしたいなら、俺はそれで構わないとさえ思っている……これが惚れた弱みなのかもな。
視界が見えなくなって、シリウスの姿も分からず腕を伸ばすと手を触れられた。
暖かいな、シリウスの温もりを感じながら意識は深い暗闇の底に沈んでいった。
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