エロゲー主人公に転生したのに悪役若様に求愛されております

雪平@冷淡騎士2nd連載中

文字の大きさ
上 下
40 / 82

海へ

しおりを挟む
「くっ、可愛すぎる……!」

 エーファの視界を介して見えたルノの姿の愛らしさに思わず眉間を押さえた。

 万が一ルノが危ない目に遭っていたらいけないからと、今日は勉学がおざなりにならない程度にエーファと視覚共有を行っていた。エーファの視界の中でルノがとても真面目に授業を受けている様子が見えた。けれどもどうしても気になるのか、チラチラと視線をこちらに寄越していた。
 オレの自惚れでないのなら、きっとオレに会いたくて寂しくて堪らないのだろう。
 昼食の間はいつもあの眼鏡の友人と過ごす習慣があるようだから邪魔はしなかったが、早く彼に会いに行ってあげなければと思った。
 特に時折にこりと無防備な微笑を漏らすのが可愛くて堪らなくて…………

「アレクシス、何かあったのか?」

 オレが思わず立ち止まってしまったので、横を歩いていた友人のヒューゴも一緒に立ち止まった。

「いや、何。少々使い魔からの連絡を受け取っていただけだ」
「そうか」

 頷いてから、ヒューゴが小声で呟く。

Pajrteペルティ、rütàsルタス。.」

 その呪文と共に音の精霊が周囲を囲むのを感じた。周囲に音を漏らさないようにする結界だ。
 もちろん、これから他人に聞かれたくない話をするからだ。
 これで傍目には談笑をしながら歩いている男子学生としか感じ取れないであろう。

「それで――――君の実家からの報せは本当なのか?」
「ああ」

 この間父の使い魔である黒鷹のクエルトゥが持ってきた手紙のことを思い出しながら答えた。

「そんな、グロースクロイツ家に……いや、魔術界全体に仇なす人間がこの学園にいるなんて」

 クエルトゥの運んできた報せの内容は、魔術界に多大なダメージを与えかねない悪事を企んでいる者がこの古イルス魔術学校に潜んでいるという内容だった。
 こちらで調査を進めているから周辺に気を付けるように、と。
 問題はその悪事というのがとんでもない内容だったことだ。

「この前も聞いたが、場合によっては魔術界を根底から覆す可能性すらあるとか?」

 ヒューゴが尋ねながら首を横に振った。

 それもそうだろう。魔術界を覆すなどと、話の規模が大きすぎてすぐには飲み込めない。
 この歴史ある魔術界を揺るがす企みなど、一体どんなものか想像も付かない。
 そうでなかったとしてもグロースクロイツ家に害を為す存在であることは確定的らしい。

「グロースクロイツ家を疑う訳ではないが、証拠はあるのか?」

 故に、そう聞きたくなることは仕方がないだろう。
 オレは顔を顰めて答えた。

「……父がその情報を掴んだらしいが、証拠がまだ薄いからと情報の出所はオレには報されなかった」
「そうか」

 ヒューゴは難しい顔をして顎に手を当てる。
 彼の考えていることは手に取るように理解できた。

「分かっている。オレも疑問に思っているんだ」

 先回りして口を開いた。

「何故学園の外にいる父が誰よりも早くその情報を察知することが出来たのか。不埒な企みをする輩がどんな人間なのか、大体でいいから情報はないのか。それが不明なのなら何故その企みだけ判明したのか。あまりにも情報が局所的過ぎる」

 曖昧模糊とした父からの報せの不審な点は山ほどあった。
 父がオレに何か隠し事をしている。そう感じていた。

「しかし敵がいるという点だけでも報せてきたということは、つまり――――」
「ああ」

 一つだけはっきりとしていることがあった。
 ヒューゴの言おうとしていることにオレは頷き、言葉を引き継いだ。

「『跡継ぎとしてグロースクロイツ家の敵を討て』ということだ」

 きっと、それが何者であったのだとしても。



 * * *



「ルノ」
「あ、アレクシス」

 今日の授業が終わると、アレクシスが教室の外でオレを待っていた。
 わざわざオレのことを迎えに来てくれたのだろう。
 エーファも「きゅっ!」と鳴いてアレクシスの肩に飛び乗った。

「ルノ、大丈夫だったか?」
「ああ、いつもと変わりなかったぜ」

 彼の元に駆け寄り、顔を見上げる。
 彼のいつもの微笑を目にして心が落ち着くのを感じた。

「あ、ルノくんの……!」

 オレの後ろから来たケントがアレクシスの姿に目を丸くした。

「君は、ケント・アバークロビーくんだったか」

 アレクシスはケントのフルネームを違うことなく完璧に口にすると、ニッコリと笑みを向けた。

「いつもルノが世話になっているな」
「い、いえいえ!」

 ケントが慌てたように礼をした。
 ケントは貴族の出だから、余計に大貴族であるグロースクロイツの格が理解できて緊張するのだろう。
 オレはもうその辺の感覚が麻痺しつつある。

 あるいは陰口というほどではないが「ヤバい目の付けられ方をしたんじゃないか?」なんてアレクシスについて話したりしていたのを思い出して、気まずさを覚えているのかもしれない。

 それにしてもアレクシスがケントに向ける笑みは何というか、凄みがある。
 心なしか威圧感を感じるのは気のせいだろうか。
 でもまさかアレクシスがケントに対抗心を感じる訳なんてないし、オレの思い過ごしだろう。

「これからルノと夕食を共にするつもりなんだが、問題はないね? ルノもそれでいいか?」

 アレクシスはオレとケントに交互に視線を向けて尋ねる。
 三人で食事しようとは言わないんだな。アレクシスも意外に人見知りなのかもしれない。

「大丈夫だ、特にケントと何かする予定はない」

 先に答えた。
 昼食の時はその後の授業も一緒に受けるから自然に連れ立っていたが、放課後はケントと時間を過ごしたことはあまりない。そんなに長い間他人と一緒に時間を過ごすなんてやってられない。

「はい、大丈夫です」
「良かった。じゃあ、行こうか」

 アレクシスはこれ見よがしにオレの肩に手を置いた。
 彼の右手に刻まれた黄薔薇がよく見えた。

「じゃあな」

 踵を返し、ケントに手を振る。

「ああ、また明日」

 ケントが朗らかに笑って挨拶を返す。
 気のせいか、それを見たアレクシスの手に力が籠ったような気がした。
 やっぱりケントに対して少し棘がある気がする。
 もしかして嫉妬してるとか……?

 自分に対して都合のいい想像をしようとしている自分気づき、首を横に振った。
 彼がそんな安っぽい嫉妬をするような男だったら、『彼に相応しくない』だとか細かいことを考えなくて済むのに。そう思っただけだ。

 それでも肩に食い込む指の感触が心地よくて、少しの間彼に身を寄せるようにして隣を歩いたのだった。

「カリポリポリ……」

 何処に持っていたのか、肩の上のエーファが硬い木の実を齧る音が周囲に響いていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

王弟様の溺愛が重すぎるんですが、未来では捨てられるらしい

めがねあざらし
BL
王国の誇りとされる王弟レオナード・グレイシアは優れた軍事司令官であり、その威厳ある姿から臣下の誰もが畏敬の念を抱いていた。 しかし、そんな彼が唯一心を許し、深い愛情を注ぐ相手が王宮文官を務めるエリアス・フィンレイだった。地位も立場も異なる二人だったが、レオは執拗なまでに「お前は私のものだ」と愛を囁く。 だが、ある日エリアスは親友の内査官カーティスから奇妙な言葉を告げられる。「近く“御子”が現れる。そしてレオナード様はその御子を愛しお前は捨てられる」と。 レオナードの変わらぬ愛を信じたいと願うエリアスだったが、心の奥底には不安が拭えない。 そしてついに、辺境の村で御子が発見されたとの報せが王宮に届いたのだった──。

悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る

竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。 子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。 ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。 神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。 公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。 それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。 だが、王子は知らない。 アレンにも王位継承権があることを。 従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!? *誤字報告ありがとうございます! *カエサル=プレート 修正しました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

処理中です...