エロゲー主人公に転生したのに悪役若様に求愛されております

雪平@冷淡騎士2nd連載中

文字の大きさ
上 下
31 / 82

宝玉の在処

しおりを挟む
ゴサロは途方に暮れていた。

いつの間に気を失ったのかも分からないが、例の元Aランクの一人に揺り起こされた。

聞けば、最後に残ったローブの男が大爆発を起こしたと言う。

言われてみれば、そうだったような気もする。まだ頭がくらくらして、記憶も曖昧だ。

例の黒服メイドとターゲットの娘は既に姿を消していた。

元Aランクの四人組は何かを喚いていたが、よく分からなかった。

最後に何某かのことを言ったと思ったら、取り乱すように走り去った。

いま、この何もない開けた高地には自分だけが取り残されていた。

少し先には、どうやら首の無い二つの死体が転がっているようだが、この際そんな事はどうでも良かった。

自分は仕事をしくじった。これまでも、些細な失敗はあったが、自分の力でリカバリーしてきた。

何の問題も無かった。

だが、今回は完全に失敗した。もう取り返しはつかない。仲間も失った。

後は自分の死を待つのみかと考えたところで、はたと気づいた。

自分に責任を負わすと言っていた男達は居なくなった。

これは、生き残るチャンスなのか?そう言えば、さっきの奴らは何と言ってた?

【闇ギルド】に見つからないように、名前も変えて、みんなでバラバラに違う土地で暮らすとかなんとか…。

ゴサロは一気に覚醒した頭を振ると、自分の持ち物が手元にある事を確認して、駆け出した。



それから数日…

ここは獣人国との国境に近い【シモン共和国】の小都市【バトン】。

うらぶれた安宿の1階にある食堂で安いエールを呷りながら、ゴサロは人込みに溶け込んでいた。

人に後ろ指をさされる仕事も金が稼げていっぱしにいい暮らしが出来るからやるのであって、命を懸けてまでやる気はさらさら無かった。

ゴサロの哲学は、終始一貫して自己保身と長いものに巻かれてうまくやる事だった。

もう死んでしまった部下達も、そういう意味では同じ穴の狢であり、価値観が合うからこそ一緒にやっていけたのだ。

自分だけが生き残ったことに僅かばかりの痛みはあるが、しょせんはみんな運が悪かったのだとも思う。

お前たちの分まで、俺はしっかり生きて楽しんでやるからな!等と自分勝手な理屈を自分の中で完結させ、最後の鎮魂の盃を傾けた。

ブラックオパールへの恩義はここ数年の働きで十分返せただろうと自分を納得させ、さあ、この後はどうするかと考える。

切り替えの早さも長生きする秘訣と、終わった事は気にしないのがこの男の良いところであり悪いところでもあった。

まずは、貯めこんでた金をどうやって回収するか、下手な事して【闇ギルド】にバレては元も子もないな、等とあれこれ考えていると、突然肩に手を置かれて耳元で誰かの声がした。

「おいおい、まだ仕事も終わってないのに、こんな所で飲んでるのか?」

声を聞いた瞬間、全身の血の気が引くのが分かった。瞬時に鳥肌が立つ。

恐る恐る声のした方へ視線を向けると、そこには笑顔の中に色のない視線で自分を見るブラックオパールの姿があった。

「ひっ!…」

そんなゴサロの様子に頓着することもなく、ゴサロの肩に手を回したまま、ブラックオパールは空いているゴサロの隣に腰を下ろした。

ゴサロは反射的に視線を下に落とし、戻すことが出来なかった。さほど熱いわけでもないのに、滝のような汗が流れ落ちる。

「どうした?ゴサロ。すごい汗じゃないか。熱でもあるんじゃないか?早く仕事を片付けて医者にでもかかった方がいいんじゃないか?」

何もしらない誰かが傍でその言葉だけを聞いていれば、知り合いを労わる優しい言葉に聞こえただろう。

だが、当事者にしてみれば逃げ場のないその場所で、これ以上ない圧力をかけられている状態である。

暫しの沈黙が場を支配したが、耐えられなくなったのはゴサロだった。

「た、隊長…」

ゴサロはブラックオパールの事を傭兵時代からの呼び名で”隊長”と呼んでいた。

「隊長、ど、どうしてここへ?…」

ゴクリと喉を鳴らすと、愛想笑いともつかないぎこちない笑いをその顔に張り付けて、ゴサロは精いっぱいの勇気を振り絞って隣に座る人物に問いかけた。

「んっ?いやあ、お前に頼んだ仕事がうまくっていないって聞いてな。助けてやろうと思って来てやったんだよ」

ブラックオパールはそう言いながら「あ、ねえちゃん、エール一つくれ」と店員に注文していた。

ゴサロはほとんどパニック状態だった。

そもそも、どうして隊長はここに俺がいる事を知ってるんだ?!

俺がここにいるなんて誰も知るはずがないし、だいたいこの人は何処から来たんだ?!

様々な疑問が頭の中を駆け巡るが、喫緊の課題は今の状況の整合性のある言い訳をどうするか、だった。

「おっ!来たな!じゃ、ほら!ゴサロ、乾杯!」

ブラックオパールは先ほどとは打って変わったにこやかな笑顔でゴサロを促すと盃を合わせてエールを喉へ流し込んだ。

ゴサロもそれに合わせたが、エールの味など分からず、まして酔えるはずなどなかった。

「・・・で、俺の頼んだ仕事、どうなってる?」

ブラックオパールの言葉にビクッとしたゴサロは、更に止めどなく流れ出る汗を腕で拭いながら、この場を生き延びる為の言葉を口にした。

「き、聞いてくださいよー!最初は上手く行ってたんですが、変な邪魔が入っちまって・・・何んだか黒猫連れたメイドの小娘が俺たちの邪魔をしやがったんですよ!参りましたよ、マジで・・・」

言ってる事は事実だが、ふと目に入ったブラックオパールの刺すような視線がゴサロの口を閉じさせる。

「んっ?どうした?続きは無いのか?」

ゴサロの言葉が途切れたところで、ブラックオパールはエールを飲み干すと、

「お前、逃げるわけじゃ無いよな?」

とゴサロを見つめた。

その目を見たゴサロは生きた心地がしなかった。

獲物を捕食する直前の肉食獣や猛禽類と同じ種類の視線をゴサロはそこに見たのである。

「そ、そんなわけ無いじゃ無いですか。俺、今まで隊長の仕事を途中で投げ出した事、ありましたか?」

思わずそんな言葉がゴサロの口をついて出たが、この瞬間にそれ以外の言葉が吐けるはずが無かった。

その言葉を聞いたブラックオパールは、数瞬ゴサロを見つめた後に破顔して、

「だよな!お前は仕事できるから、俺は頼りにしてるんだぜ?」

そう言って食堂の店員にエールを二つ追加した。

「お前には荷が重い相手だって事は分かったから、次は俺も入ることにするわ。クライアントがうるさいからよ」

店員が運んできたエールをゴサロにも渡すと、ブラックオパールは自分の分はさっさと呷って盃を空にし、

「じゃ、手順が決まったらまた連絡するから、例の辺境伯の領地近くで待機しててくれ」

そう言ってテーブルに金貨を1枚放り投げると立ち上がった。

「えっ?!あのガキ、伯爵の領地に戻ってるんですか?」

自分が知らない情報をどうやってこの人は手に入れてるのかと常々思っていたが、自分の居場所も難なく掴むこの人なのだからと納得した。

「じゃ、この数日うちには動くと思うからよろしくな」

そう言ってその場を離れようとした男に、ゴサロはつい先日の出来事を聞いてしまった。

「隊長、その…あいつらの事、知ってたんですか?」

ゴサロから離れようとしていたブラックオパールは、立ち止まって振り向くと、

「あいつらの事?」

と疑問を口にした。ゴサロは聞いてはいけないと思いながら、内心の葛藤に負けた。

「俺の部下たちの事です…」

その言葉を聞いたブラックオパールは、何かを思い出したかのように手をたたくと、再びゴサロの横に腰を下ろし、

「あぁ、その事か。あいつら、酷いよな?俺も話を聞いた時はビックリしたよ!せっかくお前と一緒に仕事をしてもらったのに俺も残念だよ」

そう言ってゴサロの肩を叩いた。

ゴサロは、ブラックオパールが知らないうちに部下が処分されたのだと分かり、やはりそうかと自分の疑問を解消したところだったが、

「でも、別に問題ないだろう?」

そう隣の男に言われて思わずそちらを振り返った。

そこには無表情な視線を自分に向ける一個の怪物がいた。

「仕事が出来なきゃ別にいても…なぁ?お前もそう思うだろう?」

「隊長…」

ゴサロの顔には、自分がかつて知っていた男とはやはり違う男がここにいる事を実感した諦念が顔に浮かんだが、ブラックオパールはそんな事にはお構いなく、

「まぁ、気を取り直して、また楽しくやろうや。取りあえず、今回の仕事を終わらせてからな!」

そう言って、今度は本当にその場を離れた。



ブラックオパールの姿が消えて少し時が経ち、ゴサロは落ち着いて考える。

確かに隊長はここへ来たが、あの化け物娘の相手をするのは嫌だった。絶対に今度は殺される。

急いでこの場を離れて遠くへ行けばあるいは…。

そう思い立ったゴサロは、先程ブラックオパールが投げていった金貨を懐に入れると、エールの代金に大銅貨を数枚テーブルの上に置いて食堂を出た。

外に出たゴサロは、直ぐに辻馬車の乗り場へ向かおうとしたが、その時、食堂の入口近くで屯していた男たちの声が聞こえてきた。

「おい!聞いたか?街の入り口近くで冒険者っぽい男と女の死体が見つかったってよ」

「聞いた、聞いた!顔が潰されてて、どこの誰だか分からんって話じゃないか!」

「そうなのか?俺が聞いたのは、森の入り口近くに男の死体があったって話だが。それも冒険者風で顔が潰されてたってよ!」

「ひでぇ話だな!犯罪者とか近くに潜んでんじゃねーだろうな?!」

「衛兵が辺りの捜索と警備を強化するとか言ってたぜ。おっかねー話だな」

その話を聞いたゴサロの脳裏には、瞬時にあの場で別れた元冒険者の姿が浮かんだ。

まさか、これもブラックオパールが!?…。

暫しその場に立ち尽くしたゴサロは、諦めの表情を浮かべると踵を返して宿屋に戻り、今日の宿を取った。

今日の獣人国行きの辻馬車はもう終了している事は分かっていたので、明日に備える為に今日は早めに寝ることにする

ゴサロは運命に絡めとられた子ウサギの心境だったが、そこから逃れる術は無いのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

王弟様の溺愛が重すぎるんですが、未来では捨てられるらしい

めがねあざらし
BL
王国の誇りとされる王弟レオナード・グレイシアは優れた軍事司令官であり、その威厳ある姿から臣下の誰もが畏敬の念を抱いていた。 しかし、そんな彼が唯一心を許し、深い愛情を注ぐ相手が王宮文官を務めるエリアス・フィンレイだった。地位も立場も異なる二人だったが、レオは執拗なまでに「お前は私のものだ」と愛を囁く。 だが、ある日エリアスは親友の内査官カーティスから奇妙な言葉を告げられる。「近く“御子”が現れる。そしてレオナード様はその御子を愛しお前は捨てられる」と。 レオナードの変わらぬ愛を信じたいと願うエリアスだったが、心の奥底には不安が拭えない。 そしてついに、辺境の村で御子が発見されたとの報せが王宮に届いたのだった──。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

処理中です...