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騒がしい朝

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ドアをうるさいくらい叩く音で目が覚めてしまった。

こんな朝からいったい誰だよ、目覚めが悪い。

ベッドをゆっくりと起き上がっている間もドアの音が止まず、壊れそうなほどしつこくてドアに近付いた。
ドアを開けると、朝から会いたくもない顔が見えた。

カウがにこやかな顔で「おはようございます!師匠!」なんて頭が痛くなる事を言ってきたからドアを閉めた。
まだ師匠とか言ってんのかよ、そういうのいらねぇって言ってるのに…

「師匠ー!!僕頑張りますからどうか、どうか!!」

「そうかよ、じゃあ新しい師匠によろしくな」

ドンドンうるさい、耳を両手で塞いで諦めるまで頑張る。
しばらくして、両手を外すとまだドンドン聞こえる…さすがにしつこすぎる。
今日は魔物を狩りに行こうと思ってたのに、ドアの前にいたら困る。

そこで、武器の事を思い出した…そうだ、恐竜の魔物に襲われた時に落としたんだった。
またあそこに行かないとな、あの銃は父から貰った大切なものだ。

ベッドの近くにある窓から外に出ようと思って、気付かれないようにそっと窓を開けた。

まだドンドン音が聞こえて、気付かれてはいないようだ。
そのまま窓から降りて、走って家から離れた。

なんで俺がコソコソしないといけないんだよ……これじゃあ俺の方が臆病者だろ。

ため息を吐いて、村の出入り口まで歩く。

朝早いからか、広場には誰もいなく開店前の準備をする村の人達がいた。
こんな朝から起こして…アイツは師匠とか言うけど、人の事全然考えていないな。
大きな欠伸をして、恐竜の魔物がいた場所まで向かう。

魔物も人間みたいに朝が弱いのか、草原にいる魔物は動かない。
寝ているのか、今丸腰だし好都合だ……ゆっくり移動する。

誰かに取られてしまったら、取り返す術はないから諦めるしかない。

二日前くらいで、覚えているかぎりの記憶を辿る。
するとそこには目印のような恐竜の足跡がくっきりと残っていた。

ここら辺で合っていたようで、周りを見渡して銃を探す。
草を掻き分けながらくまなく探しているが、それらしいものはない。

やっぱり見つからないか、この草原は村の人以外の旅人も多くいるからな…誰が持ってるかなんて分からない。
王都にいるよく当たる占い師なり分かるんだろうけど、ここは田舎だから王都行きの馬車は滅多に通らない。

仕方ない、王都から馬車が来るまで代わりの武器を買おうかな。
銃の武器は国外から輸入されるもので、田舎村の武器屋には置いていない。

普段慣れた銃が一番いいんだけど、弓でも買おうかな。
魔界で使った時、意外と上手く出来たし…少しの辛抱だ。
剣は正直苦手だ、使えない事はないが…接近戦は瞬発力が高くないといけない。
瞬発力は低いんだよな、だから飛び道具の方が俺には合っている。

瞬発力は低いが命中率は高い、そんなステータスだろうか…ゲーム的に…

帰ろうと思ったら、ドスドスと地面を揺らす嫌な音が聞こえた。

その揺れて寝ていた魔物達は目を覚ましていた。
しかし、俺の方を見るなり慌てたように逃げていった。

なんだろう、このデジャブ感は…確か前にも見た事あるぞ…カウで…

影が俺に重なり、恐る恐る後ろを振り返って顔を引き攣らせた。

「キシャアァァァァ!!!!!!」

「なんでまたコイツがいるんだよ!!」

大きな声を上げて、大きな口を開ける恐竜の魔物が背後にいた。
今度は立ち向かう事はせずに、全速力で逃げる。
素手で戦えるわけがない事くらい誰だって分かる。

恐竜の魔物が追いかけてくる、狙った獲物は逃がさないと言いたげだ。

捕まるわけにはいかない、今度捕まったら二度と太陽を拝めなくなる。

首を伸ばして、食べようとしてそれを避ける。
図体がデカいからか、一つ一つの動きが鈍くて助かる。

でもこんな奴を連れて村には帰れない、何処かに隠れて諦めるまでやり過ごすしかない。
周りを見渡す、木の影とか回り込まれたら意味がない…屋根のないボロい家は論外だ。

必死に探しながら走る、後ろにも気を付けないといけないからな……しかも眠気がこんな時に襲ってきた。
必死に首を振っていると、そこには神殿があった。

廃墟のような神殿だが、入り口は人間サイズで恐竜の魔物は入れない。

神殿に向かって走り、恐竜の魔物と距離が近付いていて…もう体力も持たない。
寝起きの頭ではちょっとキツいものがあった、魔物は朝早く皆寝ていると思っていたが恐竜の魔物は別だったのかもしれない。

足をスライディングさせて、神殿の中に滑り込む。
少し歩くと恐竜の魔物が入り口に挟まり大きな音が響いた。
足が絡まり、硬い地面に頭からダイブして転けた。

鼻がヒリヒリする……いてぇ……でも助かった。

後ろにいる恐竜の魔物を見て、しばらくしたら諦めて帰るだろうと思い奥に進んだ。
真っ暗で何も見えない、なにか火になりそうなもの落ちてないかな。

瓦礫くらいしかなくて、両手を前にして手探りで進む。
耳をすませても魔物の声や足音は聞こえないからそういうのはいないのだろう。
だとしたらここは安全かもしれないな、道を進んで歩くと扉があり扉を開けた。

何かの部屋があり、窓もあるから太陽が射して明るかった。
でもなにか物があるわけではなく、殺風景だ。
いや、ぽつんと部屋の真ん中に大きな鏡があるだけの部屋だ。

壁に寄りかかり、ちょっと寝ようと目を閉じる。

しばらくすると、寝息が聞こえてきて…鏡から真っ白な手が伸びてきている事に気付かなかった。
その白い手は俺の頬を撫でて、鏡がだんだん近付いてきた。
真っ赤に濡れる唇がニヤリと笑い、腕を引かれてズルズルと体が鏡の中に吸い込まれていく。

それでも起きないのは、運動して昨日の疲れも合わさったからだろうか。

ちゃぽんと、水が滴るような音が聞こえてその部屋には誰も居なくなった。
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