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魔王再び

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「んっ…寒い」

肌寒く感じて、寝返りを打ち…床の痛さに眉を寄せる。
目を覚ますと、謎の紋様がある壁が見えた。

あんなもの家にあっただろうかとボーッと紋様を見つめていて思い出した。
そうだ、恐竜の魔物に襲われて神殿で寝ていたんだ。
それで、疲れて眠っていた……欠伸をしながら起き上がる。

死んだように眠ったからか、よく寝たなと伸びをする。
賞金首ハンターをしていると、遠くまで行く事があり野宿も当たり前にやる。
だから、寝心地悪いところでも疲れが取れるように体が覚えている。

灯りがなかったから暗いと思っていたが、蛍光を塗ったような色で壁が光っている。

もうだいぶ時間が経っただろうか、あの恐竜の魔物も諦めていないだろう。
そう思って周りを見渡すと、ここは俺が寝ていた場所ではない事に気付いた。

この四角い部屋には、ドアが一つもなかった。
こんな場所に来るのはワープを使わない限り不可能だ。
しかし、俺はそんなものを使った覚えがないし…ただ適当な場所で寝ていただけだ。

同じような壁が並んでいるだけの場所で、何故か見られている嫌な感じがする。
誰もいないのに、何処から見ているのか…壁に触れても隙間はない。

蹴っても当然ビクともせず、拳をぶつけると痛みが俺に返ったきただけだった。

銃があったらもしかしたら壁に穴が開いたかもしれないのにな。
本当に俺の大事な銃、いったい何処にあるんだよ。

力いっぱい蹴ると、地面が微かに揺れていた。
壁はビクともしてないのに、揺れるほどの衝撃を与えたのか?
天井から、ぱらぱらと小石が落ちてきてそこから離れる。

するとすぐに大きな音を立てて瓦礫が大量に落ちてきて、砂埃が舞った。

口元を手で覆って、目を瞑ると俺ではない足音が聞こえた。

「…レイン」

「な、なんで…ここに」

俺にとってそれは吉なのか、凶なのか分からない。
ただ、そこには俺以外の人物が現れた…それは変わらない事実だ。

瓦礫の上から降りてきた魔王は俺の前にやって来てジッと見つめていた。
魔王の後ろにある瓦礫は重力に逆らいどんどん浮き上がり穴が開いた天井にくっ付いていく。

これも魔王の力?まさか俺を逃がさないために……

俺の名前を何故知っているのかとか、なんでここにいるのかと疑問は沢山ある。

ただ、魔王の瞳で見つめられるのはどうしても苦手だ。
でも今の魔王は眼帯をしているから、あの時を思い出さなくていくつか楽だ。

魔王が俺に向かって手を伸ばしてきたから、身構える。
やっぱり人間の俺を殺す気か?俺達は敵同士だし、当たり前だ。
くそっ…俺が丸腰じゃなければ抗えるのに、今は何も出来ない。

とりあえず、俺の今の武器はこの体だけだ……ならば全力でそれを使うだけだ。
接近戦が苦手な俺が、このゲーム最凶の魔王に勝てるほど甘くはない。
でも、ただでやられるのは賞金首ハンターとして許せない。

膝を曲げて魔王の腹部に向かって拳を突き出す。
しかし、魔王に呆気なく拳を受け止められた。
片足を上げて、蹴り上げようとしたがその前に魔王が後ろに下がり避けた。

顔色が全く変わらない無表情を崩したくて、連続で拳を突き出して回し蹴りをした。
それら全てが空気をかすめて全く魔王に当たらない。

魔王は俺の腕を掴んで、引っ張られてバランスを崩した。
俺の命はここまでか、悔しくてせめて痛みが和らぐように強く目蓋を閉じた。

魔王の腕の中におさまり、俺は何故か頭を撫でられていた。
この状況っていったいなんなんだろう……俺を殺すんじゃないのか?

「…何してるんだ?」

「……寝癖」

「えっ、あ…ありがとう?」

なんで魔王が俺の寝癖を気にするのか理解出来ない。

確かに寝起きだから寝癖が付いていたのかもしれない、鏡がないから俺は確認出来なかった。

魔王に腕を離されて、髪に触れると寝癖はなくなっていた。
なんか魔法でも使ったのか?こんな綺麗なストレートになるなんて、魔法って便利だな。

…いや、そんな事より確認もしないでいきなり襲って悪かったと思う。
人を見た目で判断するのはいけないよな、魔王は俺に危害を加える気はなさそうで壁を見ていた。

「あー、その…さっきはいきなり殴って悪かった」

「別に、慣れてる」

「慣れてるって、そんなものに慣れるなよ」

確かに魔王を見たら皆怖がって、防御のために攻撃する。
さっきの俺もそうだった…だから、何を言っても言い訳にしか聞こえないと思う。

でも、今の魔王は俺が見た限りでは悪い奴ではないと思う。
……俺を無理矢理襲った事を除いてだけどな。

魔王は俺の言葉を聞いて不思議そうに振り返った。
俺は魔王が何を考えているかさっぱり分からない……でもそれは分かろうとしていないからなのかもしれない。
目を背ければ、何も分からないままになるのは当然だ。

「やっぱり変わってるな、お前は」

「俺からしたら魔王の方が変わってるけどな」

「シリウス」

「……え?」

「俺の名だ」

魔王はそう言って、期待するような目で俺を見ていた。
魔王の名前を言うなんて考えられなかったな。
そういえばゲームでも主人公が名前を呼んでたっけ。

でもそれは有名な魔王の名前だから知っていただけで、こうして魔王自ら名乗る事はなかった筈だ。
そして名前を呼ぶのも少しだけだったから魔王の名を覚えていなかった。
王都くらいの大きな場所だと魔王の名を知っている人は多いだろうが、リール村は小さいから魔王の名を知る人はいなかった。

なんか改めて名前を言うのって、なんか恥ずかしいな。

「…えっと、シリウス」

「………」

「おい、なんか言えよ」

「いや、名を呼ばれてこんなに気持ちが揺さぶられる事がなかったから驚いている」

無表情だが、少し顔が緩んでいるシリウスが分からなかった。
気持ちが揺さぶられるってどういう事だ?まさか、怒りで…?

シリウスと友好とまではいかなくても、ここから出る手伝いくらいはしてくれると思っている。

甘い考えだろうが、今は頼れるのは魔王しかいないんだ。
魔王だってここから出たいだろうし、俺達の目的は同じだ。

最初に魔王を見た時は俺を閉じ込めるために天井の穴を修復したかと思ったが、今は違うように思えた。

とりあえず、これ以上刺激させない方がいいのは分かる。

「えっと、魔王…」

「シリウスだと言っているだろう」

「……シリウス、とりあえずここから出る事を考えようぜ」

シリウス呼びはいいらしい、さっきのは怒っていたわけではないのか。
今は協力してここから脱出しようとシリウスに言ってみる。

シリウスは俺に背を向けて壁の紋様を指でなぞっていた。

俺もなにか出る方法はないかくまなく探してみる。

天井に穴が開いたなら、また天井に穴を開ければいいが…あの天井を修復する力が分からないから下手な事は出来ない。
でも、壁も隠し扉らしきものはないな…と壁に全身張り付いて考える。

「シリウス、どうやって来たんだ?」

「下からレインのにおいがした」

「……へ?におい?」

「だから壊しただけだ」

におい…俺、そんなに臭いのか?

クンクン自分の体のにおいを嗅いだが特ににおいはしない。
そういえば、魔物って人間の数十倍鼻がいいんだっけ……そういう事か?

シリウスは天井を修復したのは別の奴だと言う。
やっぱり視線の正体は他の奴らなのか。
コソコソしてないで用があるなら来ればいいのに…

そうだ、シリウスも俺に用があったからここに来たのか…いったい何の用で……?

シリウスをチラッと見ると目が合って驚いた。

「…シリウス、俺を殺す気はないのか?」

「殺したかったら目が合った瞬間に殺ってる」

シリウスの瞳が全く笑ってなくて、乾いた笑い声しか出ない。
とりあえず今は休戦って事でいいんだよな、出口を探すの手伝ってくれてるみたいだし…

俺を殺す目的以外で俺と会う理由なんてあるのか?

そもそも、何故シリウスが俺を…無理矢理ヤったのか答えが出ていない。

俺を性処理で使った?シリウスのあの顔だったら女がわんさか寄ってくるだろう。
わざわざ男の俺とする理由なんて……シリウスってゲームでは普通に女に囲まれてたが現実では男が好き…とか?

シリウスがどっちが好きとか興味無いが、襲われた身としては知っておきたい。
男が好きなら納得するし、女が好きならいよいよ訳が分からない。

デリケートな問題だから、怒らせないように…自然と…
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