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シリウスの話
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最初にアイツに感じたのは、とてもいいにおいがする奴だと思った。
城の貴重な部屋には当然護衛を置いている。
レオナルドは俺の部屋の前にも護衛を置くと言っていたが、断った。
護衛なんていらない、この部屋が誰の部屋か分からないわけがない。
鈍感な魔物でさえ、俺の魔力の気配に敏感に反応する。
だから俺の部屋には誰も近付きさせない。
他人が部屋にいると、気が散って仕方ない。
そんな俺の部屋にやってきた命知らずがいた。
眉を寄せて、ドアの向こう側から滑り込んできた男に近付いた。
……いいにおいがした、こんなにおいの奴を知らない。
甘いような、頭を揺さぶる誘惑的なにおい…淫魔でさえこんなにおいをしている奴はいない。
そして、俺が近付いて最初は怯えていたのに…急に強気な態度になるこの者にとても興味が惹かれる。
鼻をツンとくすぐるにおいを感じた、とても微かなもので近くでにおいを嗅いでいる俺だから気付いた。
これは人間のにおいを消す薬品だ、人間のにおいが嫌いな魔物もいてそのために開発されたものだ。
人間を食べるために……
この城では人間を喰らう事は禁止している、吐き気がする。
だから城の倉庫に薬品があっても、人間を食うために使われた事はない。
人間のにおいを消す薬品のせいで、このにおいが微かに消えているのはもったいない。
しかし、魔物がこの薬品を使ってもにおいは出ない筈だ……魔物に無害の魔薬草と言われている材料を使っているから魔物には反応しない。
反応するのは、本来の使い方である…人間に使った場合だ。
だとすると、コイツは…人間か?
まさか、人間がこの部屋…いや、この部屋にやって来るのは初めてだ。
人間が嫌いだったのに、気付いたら俺はこの男を欲していた。
元々性欲が薄かった…処理する程度にいろんな女を抱いていた。
でも、自分の意思で欲望を注ぎ込んだのは初めてだった……もう俺は取り返しがつかなくなった。
人間に囚われるなんて、想像すらしなかった。
人間とは脆い生き物だ、抱き潰してしまい……気付いたら人間は動かなかった。
生きているか確認すると、ちゃんと心臓は動いていた。
随分タフな人間なんだな、あんなにされてまだ生きているなんて…
殺すつもりはなかったが、素直に感心していた。
しかも、起きたと思ったら大きな声を出すほど元気だなんてますます面白い人間だ。
しかも服を欲しがるとは…そのままでもいいと思うが…
あんなに快楽を植え付けたんだ、もう俺なしでは生きていけないだろ?
でも、服を着せて良かったと今分かる。
レオナルドが突然入ってきて、まず最初に思ったのは自分のものの裸を他人に見せる事は不快な事だと思った。
この嫌な感じはどういう感情なのか、今まで感じた事がなくて分からない。
レオナルドは薬品のにおいに気付かず、人間を悪魔だと勘違いしていた。
人間が俺の部屋にいたら、レオナルドが発狂するだろうから悪魔だと思わせておけばいい。
……しかし、いくら長年共にいるレオナルドとはいえ…この人間を殺す事は許さない。
レオナルドを威圧で従わせて、人間を見つめる。
そうだ、その瞳は俺だけに向けていればいい。
双子の悪魔、リドルとクルルが慌てた様子でやって来た。
レオナルドは叱っていたが、お前も同じ事をしていたと思うが…
それはどうでもいいのは、問題は人間を捕まえた事だ。
一瞬、この人間かと思ったがこの人間はここに居るから違う人間だろう。
城のすぐ傍にある広場で公開処刑をするらしい。
そして、処刑をした人間の末路は……食べる事だろう。
俺達城に住む魔物以外の魔物はゲテモノを食べる。
だから仲間だと思った事はない、同じ魔物でも勝手な事をする魔物は俺がこの手で殺す。
広場の前にやって来て、木に縛られた人間が見えた。
解体ショーと言って盛り上がる魔物達を見て眉を寄せる。
こんなところで汚れた人間の血を流す気か…
「若様、どうしますか?」
「愚問だな」
腰に下げている剣に手を掛けて、レオナルドも大剣を構える。
しかし、異変を感じてすぐにレオナルドを止めた。
次の瞬間、矢が飛んできて奇襲だと騒ぎ立てる。
バルコニーに誰がいるのか皆気付いていなかったが、俺には分かった。
そして槍を振り回すその姿を見て、驚いた。
あの人間が戦っている……俺達が居なくなってもしかしたら逃げ出すと思ったのに、捕まった人間を助けに来た。
「コイツだよ!僕が見た人間!」
フェザーが大きな声を出して、あの人間を指差していた。
俺以外にも知っている奴がいたのか…
それなら尚更この場に来るべきではなかっただろう。
なのに、自分の身より他人…か…人間にしてはかなり特殊だ。
俺はいろんな人間を見てきた、自分だけが助かるために家族や友人を差し出す人間達を…
さすがにこの人数では相手にするのは大変か…なら、少しだけ手助けしよう。
しかし、ここで剣を抜けば余計な騒ぎになる。
騒ぎに紛れてあの人間が死んでしまうかもしれない。
だったら、一番確実な方法…逃げる道を作る事だ。
小さな丸い光を手のひらに出現させて、息を吹きかける。
ただの目眩しだが、暗がりにいる魔物にはとても効果がある。
目を押さえて苦しむ声が聞こえた。
明るいところで住む人間には対して効果はないだろう。
本当はもっと魔力を込めて目を潰す効果があるが、人間にも危害が加わるから最小限に抑えた。
光がなくなり、人間はこの魔界から居なくなった。
騒ぐ魔物達に背を向けて、ふふっと笑う。
本当に、面白い人間だな。
「あの男、まさか人間だとは…おのれ、よくも若様を騙しおって!!」
「騙されてはいない」
「今度会ったら切り刻んでくれよう」
レオナルドは俺の話を聞いていなくて、怒りながら歩いていった。
レオナルドには後で言い聞かせておかなくてはな。
俺のものだ…と。
城の貴重な部屋には当然護衛を置いている。
レオナルドは俺の部屋の前にも護衛を置くと言っていたが、断った。
護衛なんていらない、この部屋が誰の部屋か分からないわけがない。
鈍感な魔物でさえ、俺の魔力の気配に敏感に反応する。
だから俺の部屋には誰も近付きさせない。
他人が部屋にいると、気が散って仕方ない。
そんな俺の部屋にやってきた命知らずがいた。
眉を寄せて、ドアの向こう側から滑り込んできた男に近付いた。
……いいにおいがした、こんなにおいの奴を知らない。
甘いような、頭を揺さぶる誘惑的なにおい…淫魔でさえこんなにおいをしている奴はいない。
そして、俺が近付いて最初は怯えていたのに…急に強気な態度になるこの者にとても興味が惹かれる。
鼻をツンとくすぐるにおいを感じた、とても微かなもので近くでにおいを嗅いでいる俺だから気付いた。
これは人間のにおいを消す薬品だ、人間のにおいが嫌いな魔物もいてそのために開発されたものだ。
人間を食べるために……
この城では人間を喰らう事は禁止している、吐き気がする。
だから城の倉庫に薬品があっても、人間を食うために使われた事はない。
人間のにおいを消す薬品のせいで、このにおいが微かに消えているのはもったいない。
しかし、魔物がこの薬品を使ってもにおいは出ない筈だ……魔物に無害の魔薬草と言われている材料を使っているから魔物には反応しない。
反応するのは、本来の使い方である…人間に使った場合だ。
だとすると、コイツは…人間か?
まさか、人間がこの部屋…いや、この部屋にやって来るのは初めてだ。
人間が嫌いだったのに、気付いたら俺はこの男を欲していた。
元々性欲が薄かった…処理する程度にいろんな女を抱いていた。
でも、自分の意思で欲望を注ぎ込んだのは初めてだった……もう俺は取り返しがつかなくなった。
人間に囚われるなんて、想像すらしなかった。
人間とは脆い生き物だ、抱き潰してしまい……気付いたら人間は動かなかった。
生きているか確認すると、ちゃんと心臓は動いていた。
随分タフな人間なんだな、あんなにされてまだ生きているなんて…
殺すつもりはなかったが、素直に感心していた。
しかも、起きたと思ったら大きな声を出すほど元気だなんてますます面白い人間だ。
しかも服を欲しがるとは…そのままでもいいと思うが…
あんなに快楽を植え付けたんだ、もう俺なしでは生きていけないだろ?
でも、服を着せて良かったと今分かる。
レオナルドが突然入ってきて、まず最初に思ったのは自分のものの裸を他人に見せる事は不快な事だと思った。
この嫌な感じはどういう感情なのか、今まで感じた事がなくて分からない。
レオナルドは薬品のにおいに気付かず、人間を悪魔だと勘違いしていた。
人間が俺の部屋にいたら、レオナルドが発狂するだろうから悪魔だと思わせておけばいい。
……しかし、いくら長年共にいるレオナルドとはいえ…この人間を殺す事は許さない。
レオナルドを威圧で従わせて、人間を見つめる。
そうだ、その瞳は俺だけに向けていればいい。
双子の悪魔、リドルとクルルが慌てた様子でやって来た。
レオナルドは叱っていたが、お前も同じ事をしていたと思うが…
それはどうでもいいのは、問題は人間を捕まえた事だ。
一瞬、この人間かと思ったがこの人間はここに居るから違う人間だろう。
城のすぐ傍にある広場で公開処刑をするらしい。
そして、処刑をした人間の末路は……食べる事だろう。
俺達城に住む魔物以外の魔物はゲテモノを食べる。
だから仲間だと思った事はない、同じ魔物でも勝手な事をする魔物は俺がこの手で殺す。
広場の前にやって来て、木に縛られた人間が見えた。
解体ショーと言って盛り上がる魔物達を見て眉を寄せる。
こんなところで汚れた人間の血を流す気か…
「若様、どうしますか?」
「愚問だな」
腰に下げている剣に手を掛けて、レオナルドも大剣を構える。
しかし、異変を感じてすぐにレオナルドを止めた。
次の瞬間、矢が飛んできて奇襲だと騒ぎ立てる。
バルコニーに誰がいるのか皆気付いていなかったが、俺には分かった。
そして槍を振り回すその姿を見て、驚いた。
あの人間が戦っている……俺達が居なくなってもしかしたら逃げ出すと思ったのに、捕まった人間を助けに来た。
「コイツだよ!僕が見た人間!」
フェザーが大きな声を出して、あの人間を指差していた。
俺以外にも知っている奴がいたのか…
それなら尚更この場に来るべきではなかっただろう。
なのに、自分の身より他人…か…人間にしてはかなり特殊だ。
俺はいろんな人間を見てきた、自分だけが助かるために家族や友人を差し出す人間達を…
さすがにこの人数では相手にするのは大変か…なら、少しだけ手助けしよう。
しかし、ここで剣を抜けば余計な騒ぎになる。
騒ぎに紛れてあの人間が死んでしまうかもしれない。
だったら、一番確実な方法…逃げる道を作る事だ。
小さな丸い光を手のひらに出現させて、息を吹きかける。
ただの目眩しだが、暗がりにいる魔物にはとても効果がある。
目を押さえて苦しむ声が聞こえた。
明るいところで住む人間には対して効果はないだろう。
本当はもっと魔力を込めて目を潰す効果があるが、人間にも危害が加わるから最小限に抑えた。
光がなくなり、人間はこの魔界から居なくなった。
騒ぐ魔物達に背を向けて、ふふっと笑う。
本当に、面白い人間だな。
「あの男、まさか人間だとは…おのれ、よくも若様を騙しおって!!」
「騙されてはいない」
「今度会ったら切り刻んでくれよう」
レオナルドは俺の話を聞いていなくて、怒りながら歩いていった。
レオナルドには後で言い聞かせておかなくてはな。
俺のものだ…と。
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