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暗闇の部屋で

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ぐちゃぐちゃと音が耳に入ってきて、生臭い嫌なにおいがする。

寝る気にもならずに、目を開けて…俺の生気が抜け落ちそうになった。

目の前に見えるのは肉が少し付いた人間の骨が沢山転がっていた。
頭の上からはくちゃくちゃとなにかを食べる音が聞こえる。

見たくはないが、見ないといけないと頭の上を横目で見た。
すると、巨大な恐竜が口を動かしながらなにかを食べていた。
そこで、俺の身になにが起きたのか思い出した。

そうだ、俺…ゲームオーバーになるんだった。
この世界、ゲームの世界っぽいからコンテニューさせてくれないだろうか。
そう現実逃避をしていると、恐竜と目が合った。

突然恐竜は雄叫びを上げて、俺を食おうと口を開けていた。

もうお腹いっぱい…という奇跡は起きなかったようだ。

今度こそ仕留めようと、腰に下げているホルダーに手を伸ばす。
しかし、ある筈のものがなくて…空振りした。

そうだった、あの時地面に落としたままだったんだ!

最強の賞金首ハンターだと街の人達に言われ続けて、ちょっと調子に乗った部分もあった。
あの臆病者の方が賢明な判断だ、俺が愚か者だな。

せめて食うなら痛みがない丸呑みにしてほしいな。

「ちょっとー、ダメだって!!」

こんな切羽詰まった緊張感の中、可愛らしい声が聞こえた。
その声に恐竜は口を閉ざして大人しくなった。

バクバクした心臓を押さえながら、やっと周りを見る事が出来た。
ここは巨大な檻の中で、俺はおそらく餌箱の中に骨と一緒に入れられていた。

そして檻の向こう側には、可愛らしい桃色の髪の少年が立っていた。
少年の後ろには、コウモリのような羽根が生えていた。

見た目は少女のようだが、俺はゲームで彼を知っているから男だってすぐに気付いた。
確か魔王の手先で意外と100年は生きているエロい悪魔だったのは覚えている。

ヒロインではなく、主人公に性的なイタズラをする子だったからてっきり女の子かと思ったが、どうやら違ったようだ。
いくら可愛くても男に触られても嬉しくないなと思っていた。

魔王と一緒に中盤で出てくるキャラクターなのにこんなに早く出会うなんて…
いや、可笑しい…だって中盤で初対面だったのに誕生日を迎えていない今会うなんて…

それに彼がいるって事は、もしかしてここは…

生気を失って枯れた灰色の木におどろおどろしい雰囲気の場所。

まさか、序盤にすらなっていないのに最終決戦まで来ちゃった?

恐竜に襲われた時より死亡フラグを感じる、俺…まだ一人も仲間がいないんですが…

檻を開けて、少年が中に入ってきて俺に近付く。
妖艶に微笑む少年を見つめて、ゲームをやっていた時は何とも思わなかったがドキリとする。
男とはいえ、これからされる事を想像して興奮していた。
少年の瞳が桃色になり、鼓動もだんだん早くなる。

腹に描かれた紋様が光っているのも、エロいと感じてしまう。

「どうせ食べるなら、もっと美味しく味付けしなきゃ」

細い指が俺の上着を掴んで脱がせてきて、童貞の俺は堪らなく感じた。
そうだ、確か…この少年は人間を誘惑して骨の髄まで精気を吸い取る少年だった。
ただ食われるより、腹上死の方がいい気がする。

そんな馬鹿な事を考えていたら、ズボンのベルトに触れられた。

あっ…そんな激しく脱がされたら、果ててしまいそうだ。

そう思っていたら、ピタリと少年の手が止まった。
下着の中から手を入れて俺のに直接触れた状態のままだった。
とてももどかしい、腰が勝手に浮いてしまう。

「ねぇアンタ、童貞?」

「えっ…」

「マジ最悪!なに童貞って、その歳で?気持ち悪!!」

突然俺を罵倒してきて、下着の中から手を出していた。
まるで汚いものを触ったかのように触れた手を見て眉を寄せている。

そこまで言う?何だか悲しくなってきた…まるで童貞が悪のような言い草だ。
彼は性欲の悪魔だから、触れた相手が童貞か非童貞か分かったのか?
さっきまで、彼の魅力に囚われていたのか…罵倒で正気を取り戻した。

まだキモイキモイ言っていて、俺のメンタルは瀕死だった。
ゲームの主人公は確かに童貞ではなかったけど…あんまりだ。

少年が入ってきたドアが僅かに開いているのが見えた。
このまま押し退ければ外に出られるが、問題はどうやって押し退けるかだ。

俺は脱いだ上着を掴んで、それを少年に投げた。
俺のに触った事がそんなにショックだったのか、避ける事も忘れて頭から上着を被った。
一瞬だけ目が見えなくなり、その隙に少年を押し退けて檻から脱出した。
目からなにかがこぼれ落ちるが、涙ではないと思いたい。

「人間が逃げたぞ!!捕まえて火あぶりにしろ!!」

少年が大きな声でそんな物騒な事を言い、周りの鎧を被った兵士達が集まってくる。
ゲームを思い出せ、ここが魔王城だとすると何処かに出口がある筈だ。

確か城下町は魔物だらけだから絶対にダメだ。
庭も、兵士達がわらわらと集まっていて武器がない俺はどうする事も出来ない。

だとしたら、残るは魔王城の中か……敵を欺く為に敵の中に紛れるのはいい作戦だと思う。
しかし、すぐににおいで人間だとバレてしまう…やはり別の方法を探した方が…

そう思っている最中にも、兵士が近付いてきて俺は近くにあった扉の中に入った。
すぐに兵士が入って来れないように近くにあった板を立てて塞いだ。
とりあえず、少しはこれで足止めになるだろう。

真っ暗でここは何処か分からないが、ドアの隙間から漏れる光でドアの場所は分かった。

入ったところとは反対側にあるドアに耳を当てると、まだ俺が城の中に入った事は誰も知らないようだ。
とっさに魔王城に入ってしまったが、生きて帰れるだろうか。

それに、なんか息が荒くなる…全速力で走ったわけでもないのに…

とりあえずここから出ようと気付かれないようにゆっくりとドアを開けた。

ドアを開けると、今いた部屋が明るく照らされて分かった。
棚が沢山あって物で溢れているから物置なのだろう。

誰かの足音が聞こえて、とっさに物置に戻った。
再び暗くなり、足元が分からなくなって背中が棚にぶつかった。
ガチャガチャと音が鳴り、頭の上になにかが掛かった。

なにか水みたいなものを被り、驚いて手で払う。
瓶が割れる音が響いて、プチパニックになる。

水がついた手を鼻に近付けて、においを嗅ぐがにおいがしない。
本当に水だったのだろうか、すぐに乾いて本当に水なのか疑わしいものだ。

とりあえず異変はないみたいで、物置から出ようと歩き出した。
これ以上なにかを倒して、その音で誰かが駆けつけたら大変だ。

ドアに耳を近付けて、足音がしなくなったタイミングで出た。
少し歩くと向かい側から話し声が聞こえて、咄嗟に彫刻のオブジェの後ろに隠れた。

「人間が城に入ったらしいぜ!」

「食っていいのか?」

「最近新鮮な肉を味わってないからなぁ」

じゅるりと、唾を飲み込む音が聞こえてきて顔を青くしながら体を小さくする。
やっぱりもう知れ渡っているよな、分かってた。

それにしても怖い、怖すぎる…魔物と人間の関係は昔から狩るもの狩られる者なのは分かってる。
どちらがそうなる可能性がある、17年もこの世界にいたら染まるものだ。
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