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.裏の話

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17暗闇に包まれた夜道を数人の足音が響き渡った。

道に置いてある木箱や樽を倒しながら、二人の男達が走っていた。
追いかける男達が声を荒げていても、止まる気配はなかった。
絶対に捕まらない自信が二人の男にあった。

全く縮まらない距離を走り続けて、どちらの体力がなくなるかが勝負だった。

二人の男は、これ以上逃げるのも苦しいと感じて懐から小さな瓶を取り出した。
黒い液体が入った瓶を地面に投げつけると、瓶が割れた。
液体が空気に触れて、蒸発して真っ黒な煙に変わった。

ただの目眩しだと思った数人の男達は前に進もうと一歩踏み出した。

「待て」

「団長…」

前に進む事を、後ろにいた人が止める声が聞こえて数人の男達が道を開けた。
前に出てきたのは、リーファイブ王国の騎士団長であるクレストだった。

岩をも簡単に砕く腕力と、並外れた雷の魔術を持つ屈強な男がそこに立っていた。

遠ざかる足音を聞いて目を細め、背中に背負っている大剣を地面に突き立てた。

度重なる強盗を続け、民家に盗みに入り居合わせた夫を殺し妻を暴行した極悪非道の二人組。
それだけではなく、毒性のある薬物を作り毒殺までもしている。
生かしてはおけない、なにがあっても必ず女神の天罰が来る。

この煙は、毒殺に使われたものと同じだ…何も知らずに向かうと全滅していた。

「どうしますか?この煙が消えるまで足止めされていたら逃げてしまいます」

「大丈夫だ、我々にはアイツがいる…アイツが犯人を逃すわけがない」

クレストは目の前が煙で覆われて、身動きが取れなくなっても騎士団の勝利を確信していた。

二人組の犯罪者達は後ろを見て、誰も追いかけて来ないのを見て逃げ切れたと足を止めた。
さすがに毒物の中に飛び込むほどの勇気は騎士団になかった。
自分達が開発した毒物は未だに解毒剤が開発されていない。

数秒でも吸ったらあの世行きの毒物だ、口や鼻を押さえても意味がない。

しかし、永遠ではないから解毒剤が開発されたらまた新しい薬を作ればいい。

自分達を天才だと思っている、騎士団なんかに捕まる筈はないと笑みを浮かべていた。

その時、自分達とは違う足音が聞こえて騎士団がもう向かってきたのかと後ろを振り返った。
後ろには暗い夜道が広がるだけで、騎士団の姿は何処にもない。

「…なんだ、驚かせやがって」

足音くらいでビビっていた自分が嫌で舌打ちをして、相棒である男の方を向いた。
男は一言も言葉を発する事なく、そこに立っていた。

どうかしたのかと肩を掴むと、重力で頭が地面に落ちた。
力を失った体も倒れて、恐怖で腰を抜かしていた。

倒れた男に近付く黒い影が見えて、一瞬黒影が現れたのかと思った。

月に照らされていくと、その影はだんだん人の姿になっていた。

真っ赤な瞳で、腰を抜かした男を見つめていた。
男に興味がなくても、その姿に見惚れてしまう。

美しい男は腰を抜かした男に近付いてきて、我に返った男は薬を取り出した。

男は風の魔術を操る、毒物の煙を自分のところに来ないように出来る。
美しい男の前で瓶を割って、風の魔術で自分を守った。

完璧な毒物だ、数秒でどんな奴でも殺す事が出来る。

風の魔術を使っていたが、だんだんと威力が弱まっているように感じた。
そんな筈はない、走って体力が消耗していても魔力を使えるほどには元気だ。
なくなっていく魔力に焦り力を強めたが、風の魔術は消えた。

もう一度魔術を使おうとしたが、何故か魔術は使えなくなっていた。

「なんで、そんな…俺はっ」

「………」

美しい男は簡単に毒物の煙を風の魔術で消していた。
普通の風の魔術では煙を消す事が出来ない、この男の魔力は得体の知れない強さがあった。

風の魔術は煙を消すだけではなく、刃のように男の体を傷付けていた。
まさか、自分と同じ力を持つ男に殺されるとは思ってもいなかった。

生きるために命乞いをした、騎士団に大人しく捕まるから命だけは助けてくれと美しい男に縋った。

この国の黒い騎士団の服とは違い、白い服を着ているが騎士団だと思った。
美しい男は男を見ていたが、何も見ていないような危なさも感じた。

もう一度命乞いをしたが、最後までその言葉を口にする事は出来なかった。

体が切り刻まれて、周りに血が飛び散り美しい男の白い服を赤く染めていた。
もう一人の男を殺した時に白銀の剣も血を吸い取って黒い魔剣に変わっていた。

騎士団が後から追いついてきて、男達の死体を片付けていた。
クレストは死体に見向きもせずに美しい男に近付いた。

「良くやった、さすがだな」

「……」

肩に触れようとしたが、避けられて歩いて行ってしまった。
それを見て、怒るでもなく楽しそうに見ていた。

そうでなくては、簡単に手に入ったらつまらない。

どちらにしても、もう我のものであるからなディアリス。
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