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.五年後
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4吸収した力は、誰にも止められないほど膨れ上がっていた。
力がどんどん強くなっていき、このままでは学園を覆うほどの炎が広がってしまう。
俺とローゼンはディアに近付く事が出来ずに離れた。
倒れている人を避難させないと、ディアが元に戻った時に誰かを傷付けたと知ったら悲しい気持ちになる。
倒れている人の前に立ち運ぼうとしたけど、大人を一人で運ぶのは無理だった。
ローゼンにも手伝って欲しかったが、いつの間にかローゼンはいなかった。
いろいろ言いたい事はあるけど、後回しだ…引きずってでも彼らを連れて離れないと…
五人いて、俺よりも身長が高い人達をどうやって運んだらいいんだ。
腕を掴んで引っ張っていると、上から火の玉が振ってきたのが見えた。
避けたらこの人達に当たってしまう、元は俺の力なんだ…どうにか止める事が出来れば…
両手を前に出して火の玉を受け止めようと思った。
お願いだ、元々俺の力だったんだから言う事聞いてくれ。
火の玉は俺に当たる寸前で、揺らめく炎を消した。
目の前の炎だけではなく、燃え広がっていた炎が全て消えて焼け焦げた跡だけが残されていた。
ディアが倒れていて、急いで駆け寄ろうとしたら俺とディアの前になにかが振ってきた。
地面に突き刺さったそれは、俺の身長を超すくらいの大剣だった。
何人もの足音が聞こえて、あっという間にディアの周りを囲んだ。
教師でも生徒でもない、国の騎士団の格好をしている人達だった。
誰かが騎士団を呼んだんだろう、騎士団に任せておけば大丈夫だろう。
倒れているディアに剣さえ向けていなければだけど…
「この者を連れていけ」
「ま、待って!その人をどうするつもりなんですか!?病院に連れて行かないと」
「お前はここの生徒か、お前には関係ない」
気絶しているディアを運ぼうとしていて、俺が何を言っても聞いてくれなかった。
今のディアは病院に行かないといけないのに、何処に連れて行こうとしてるんだ?
俺がディアのところに行こうとしても、他の騎士によって止められて近付く事すら出来ない。
まさか、ディアが黒影を出した犯罪者だとでも思われているんじゃないのか?
ディアはそんな事しない、炎だって元は俺の力だから俺がやったようなものだ。
俺の言葉は誰にも届く事なく、ディアと騎士団が居なくなった裏庭に取り残された。
駆け付けた教師に俺は保護された。
幸いな事に、裏庭が焼け焦げただけで犠牲者はいなかった。
その場に倒れていた人に記憶はなくて、唯一俺だけが目撃者となった。
俺から事情を聞くために、騎士が連日学園に訪れた。
事情を知らないフレン部長とユズは不安そうだったけど、大丈夫だと笑みを見せた。
二人にはディアの事を一つも話していない、保護された時に真っ先に来た騎士に口止めをされたからだ。
混乱を避けるためだと言われて、ディアもきっとあの姿を人に知られたくないだろうなと思って了承した。
ディアはどうしているのか聞いたけど、答えてくれなかった。
俺が覚えている事を何度も何度も騎士団に話した。
それ以外に、俺が知っている事は何もなかった。
やっと解放されたのは、しばらく経ってからだ。
今日の騎士へのお話を、生徒指導室で終えた時だった。
「ディアリス・フーリンは死んだ」
「……えっ、どういう事ですか?」
「言葉の通りだ、自分の力に耐えきれずに死んだ…たまにある事だ」
自分の魔力に耐え切れずに、暴走して死ぬ事はあるのかもしれない。
ディアのあの力の使い方が暴走だと言うのなら、そうかもしれない。
でも、死んだなんてそんな事いきなり言われても信じられない。
騎士の瞳は恐ろしいほど冷たくて、俺に冗談を言うタイプではないのも分かっていた。
冗談じゃないなら本当?本当にディアが死んだ?
当たり前のようにそこにいた人にもう会えなくなるなんて、現実だと思えなかった。
ディアの死が本当だと気付かされたのは、周りの人達もディアが死んだ事を知っていたからだ。
俺は話してない、騎士が周りの人に言ったんだと思っている。
それが広がっていき、一人の生徒の死を友人や家族が悲しんだ。
フレン部長もユズも守れなかった事を悔いていた。
一番守らなきゃいけなかったのは俺の方だ、俺が傍にいたのに逆に俺はディアに守られた。
操られてさえいなかったらこんな事にはならなかった。
心の傷を抱えたまま、俺は魔術育成学園を卒業した。
隣に立つユズの顔は暗くて、嬉しそうではなかった。
大切な先輩を失ったんだ、卒業しても忘れたりしない。
でも、前を向かないと…ディアは俺達の記憶にずっと残り続けるんだから…
俺とフレン部長とユズは、それぞれ別の道に進んだ。
フレン部長は大きな研究所がある国に行くと、国から離れた。
ユズはずっと夢見ていた冒険家になるために、国を出た。
あの事件から、ユズはディアとお話し出来る方法を探すんだと言っていた。
いろんな国を見てみれば、死者と会話が出来る方法があると考えていた。
俺は自分の工房を手に入れるために、必死に雇われの仕事を掛け持ちして二年後…念願の工房を手に入れる事が出来る。
召喚士になるには自分の工房が必要だから、これでやっとスタートラインに立ったんだ。
ディアがいなくなり、五年が経ち…俺は毎日欠かさずディアのお墓で手を合わせた。
どんなに忙しくても、それが俺の日課になっている。
工房が出来た時も、ディアに報告した…返事は当然返ってこないけど、それでもいい。
俺との最後の言葉は、ディアの愛の言葉だった。
いつからそう想っていたんだ?もしかして、俺が当て馬だからディアは……
考えれば考えるほど、嫌な事ばかり考えてしまう。
当て馬は所詮脇役、主役が好きになるべき相手ではない。
なにかの力が働いて、こんな事になったのならあの時ディアの告白を断れば死なずに済んだのではないのか?
真剣なディアの顔を見て、断る言葉が出てこなかった。
ディアも俺がなにかを言う隙を与えてくれなかった。
あの時から、ディアの言葉が頭から離れてくれない。
「ディア、ごめん…俺のせいで」
ポロポロと涙が勝手に溢れてきて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
ディアは、今もずっと俺の中で生き続けている。
力がどんどん強くなっていき、このままでは学園を覆うほどの炎が広がってしまう。
俺とローゼンはディアに近付く事が出来ずに離れた。
倒れている人を避難させないと、ディアが元に戻った時に誰かを傷付けたと知ったら悲しい気持ちになる。
倒れている人の前に立ち運ぼうとしたけど、大人を一人で運ぶのは無理だった。
ローゼンにも手伝って欲しかったが、いつの間にかローゼンはいなかった。
いろいろ言いたい事はあるけど、後回しだ…引きずってでも彼らを連れて離れないと…
五人いて、俺よりも身長が高い人達をどうやって運んだらいいんだ。
腕を掴んで引っ張っていると、上から火の玉が振ってきたのが見えた。
避けたらこの人達に当たってしまう、元は俺の力なんだ…どうにか止める事が出来れば…
両手を前に出して火の玉を受け止めようと思った。
お願いだ、元々俺の力だったんだから言う事聞いてくれ。
火の玉は俺に当たる寸前で、揺らめく炎を消した。
目の前の炎だけではなく、燃え広がっていた炎が全て消えて焼け焦げた跡だけが残されていた。
ディアが倒れていて、急いで駆け寄ろうとしたら俺とディアの前になにかが振ってきた。
地面に突き刺さったそれは、俺の身長を超すくらいの大剣だった。
何人もの足音が聞こえて、あっという間にディアの周りを囲んだ。
教師でも生徒でもない、国の騎士団の格好をしている人達だった。
誰かが騎士団を呼んだんだろう、騎士団に任せておけば大丈夫だろう。
倒れているディアに剣さえ向けていなければだけど…
「この者を連れていけ」
「ま、待って!その人をどうするつもりなんですか!?病院に連れて行かないと」
「お前はここの生徒か、お前には関係ない」
気絶しているディアを運ぼうとしていて、俺が何を言っても聞いてくれなかった。
今のディアは病院に行かないといけないのに、何処に連れて行こうとしてるんだ?
俺がディアのところに行こうとしても、他の騎士によって止められて近付く事すら出来ない。
まさか、ディアが黒影を出した犯罪者だとでも思われているんじゃないのか?
ディアはそんな事しない、炎だって元は俺の力だから俺がやったようなものだ。
俺の言葉は誰にも届く事なく、ディアと騎士団が居なくなった裏庭に取り残された。
駆け付けた教師に俺は保護された。
幸いな事に、裏庭が焼け焦げただけで犠牲者はいなかった。
その場に倒れていた人に記憶はなくて、唯一俺だけが目撃者となった。
俺から事情を聞くために、騎士が連日学園に訪れた。
事情を知らないフレン部長とユズは不安そうだったけど、大丈夫だと笑みを見せた。
二人にはディアの事を一つも話していない、保護された時に真っ先に来た騎士に口止めをされたからだ。
混乱を避けるためだと言われて、ディアもきっとあの姿を人に知られたくないだろうなと思って了承した。
ディアはどうしているのか聞いたけど、答えてくれなかった。
俺が覚えている事を何度も何度も騎士団に話した。
それ以外に、俺が知っている事は何もなかった。
やっと解放されたのは、しばらく経ってからだ。
今日の騎士へのお話を、生徒指導室で終えた時だった。
「ディアリス・フーリンは死んだ」
「……えっ、どういう事ですか?」
「言葉の通りだ、自分の力に耐えきれずに死んだ…たまにある事だ」
自分の魔力に耐え切れずに、暴走して死ぬ事はあるのかもしれない。
ディアのあの力の使い方が暴走だと言うのなら、そうかもしれない。
でも、死んだなんてそんな事いきなり言われても信じられない。
騎士の瞳は恐ろしいほど冷たくて、俺に冗談を言うタイプではないのも分かっていた。
冗談じゃないなら本当?本当にディアが死んだ?
当たり前のようにそこにいた人にもう会えなくなるなんて、現実だと思えなかった。
ディアの死が本当だと気付かされたのは、周りの人達もディアが死んだ事を知っていたからだ。
俺は話してない、騎士が周りの人に言ったんだと思っている。
それが広がっていき、一人の生徒の死を友人や家族が悲しんだ。
フレン部長もユズも守れなかった事を悔いていた。
一番守らなきゃいけなかったのは俺の方だ、俺が傍にいたのに逆に俺はディアに守られた。
操られてさえいなかったらこんな事にはならなかった。
心の傷を抱えたまま、俺は魔術育成学園を卒業した。
隣に立つユズの顔は暗くて、嬉しそうではなかった。
大切な先輩を失ったんだ、卒業しても忘れたりしない。
でも、前を向かないと…ディアは俺達の記憶にずっと残り続けるんだから…
俺とフレン部長とユズは、それぞれ別の道に進んだ。
フレン部長は大きな研究所がある国に行くと、国から離れた。
ユズはずっと夢見ていた冒険家になるために、国を出た。
あの事件から、ユズはディアとお話し出来る方法を探すんだと言っていた。
いろんな国を見てみれば、死者と会話が出来る方法があると考えていた。
俺は自分の工房を手に入れるために、必死に雇われの仕事を掛け持ちして二年後…念願の工房を手に入れる事が出来る。
召喚士になるには自分の工房が必要だから、これでやっとスタートラインに立ったんだ。
ディアがいなくなり、五年が経ち…俺は毎日欠かさずディアのお墓で手を合わせた。
どんなに忙しくても、それが俺の日課になっている。
工房が出来た時も、ディアに報告した…返事は当然返ってこないけど、それでもいい。
俺との最後の言葉は、ディアの愛の言葉だった。
いつからそう想っていたんだ?もしかして、俺が当て馬だからディアは……
考えれば考えるほど、嫌な事ばかり考えてしまう。
当て馬は所詮脇役、主役が好きになるべき相手ではない。
なにかの力が働いて、こんな事になったのならあの時ディアの告白を断れば死なずに済んだのではないのか?
真剣なディアの顔を見て、断る言葉が出てこなかった。
ディアも俺がなにかを言う隙を与えてくれなかった。
あの時から、ディアの言葉が頭から離れてくれない。
「ディア、ごめん…俺のせいで」
ポロポロと涙が勝手に溢れてきて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
ディアは、今もずっと俺の中で生き続けている。
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