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四人だけのお祭り

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ディアも俺達に気を使わずにいられる一番安全な場所は、部室だ…でも、それだと意味がない。

部室をゆっくりと見渡して、ある事を思いついた。

「そうだ、ここも部室だ」

「ナギ、どうしたの?そんな当たり前な事言って」

「違うんですよフレン部長、ここが学園祭です!」

三人の頭にハテナが浮かんでいた、ごめん…説明不足で…

この部室でいろんな出店とかをやればいいんだ。
俺達だけの学園祭だ、四人いればきっといいものが出来る。

フレン部長はお祭りが大好きだから、目を輝かせて賛成してくれた。
ディアも「皆がそれでいいなら、俺も協力する」と言ってくれた。
ユズはディアがいれば何でもいいと、ブレない思考だった。

こうして俺達の学園祭が小さな部室で始まった。

道具や食材は、今集めても時間が掛かるから外の屋台から買ってくる事にした。
四人分を多めに買うから二人が買い出しに出る事にした。
誰が買い出しに行くのかが問題で、ユズは残る気満々だった。

ディアはどうしてもいけないから、ディアが残るからなんだろうな。

一瞬だけディアが嫌そうな顔をしたが、すぐに元に戻ってユズに小声でなにか言っていた。
ユズにしか聞こえない声で、俺とフレン部長は首を傾げていた。

何を言ったのか分からないけど、魔法の言葉でユズは上機嫌になって行ってしまった。
フレン部長は俺達を見て「ごゆっくり」と一言だけ言ってユズを追いかけていった。

フレン部長も何を考えてるんだか、ひよこが俺の手から降りて床を歩き回っている。

「悪い、ナギにとって初めての学園祭なのに」

「俺は皆で学園祭をやりたいんだから、ディアがいないなら意味ないよ…他の二人もそう思っているから来たんだよ」

「そうか、アイツらにも感謝しないとな」

俺の初めての学園祭は、皆で楽しみたい…最高の思い出にしたいんだ。
さっき貰った、学園祭の地図を見ながらそう思った。

俺はひよこをもう少し増やしていたら、ディアは不思議そうにしていた。
二人が買いに行っている間に、俺達も学園祭をやらないとな。
確か、ここの近くに使っていない道具を仕舞う倉庫があった筈だ。

俺とディアは倉庫に行って、探し物をしていた。
普段は鍵が付いていて倉庫の出入りが出来ないが、学園祭のために鍵は付いていなかった。

あるものを借りようとディアに話して、一緒に探していた。

「これか?」

「あ、いいね…ついでにこれは…」

両手いっぱいに抱えて、部室に戻ってきた……よし、まだ誰もいない。

準備をしていると、そういえばユズになんて言ったのか気になった。
ディアと一緒にいたいユズをあんな大人しくするなんて…

ディアに聞いてみたら、何でもないかのように「待ってるぞ」って言っただけらしい。
凄い、さすがディアだ…ユズの扱いには手慣れているな。

ひよこ達にも命令して、手伝ってもらうとあっという間に完成した。

後は二人が帰ってくるのを待つだけとなり、窓から学園祭を覗き込む。
二人の姿が見えて、まだ買い物をしているみたいだ。
あれでもないこれでもないと、迷っていてまだ少し時間が掛かりそうだ。

「なんで俺なのか分からない」

「…え?なにが?」

「俺は誰かに無意識に優しくした覚えがないし、触れようとする相手には容赦はしない……普通だったら嫌にならないのか?」

「でも、ディアは意地悪でそんな事をしてるんじゃないし、優しくないんじゃないよ…ディアが好きな人はそれを知ってるから好きなんだよ」

「ナギは……」

「俺?勿論俺もディアが好きだよ、先輩として尊敬してる」

「……そっちか」

「ディアも好きな人いるの?嫌なら無理に言わなくてもいいよ、ただの好奇心だから」

「俺は…」

今のディアは誰の攻略ルートに入っているのか気になった。
ここでウルの名前が出たら飛び上がるほどに驚く自信がある。

その時、フレン部長とユズが校舎の中に入っていくのが見えた。
話は後にして、急いで準備をする俺にディアが後ろから声を掛けてきた。

「後夜祭の時、二人で話したい事があるから…いいか?」

「うん、いいよ」

後夜祭も学園祭の一部だから、当然満喫するつもりだ。

話したい事ってなんだろう、もしかしてさっきの話の続き?
改められると俺まで緊張してしまう、俺が告白されるわけじゃないけど…

「ねぇ、廊下ってこんなに暗かったっけ」

「外はまだ明るいのに不思議ですね、それになんかひんやりとしている空気が」

フレン部長とユズは、買ってきた食べ物の袋を抱えながら周りをキョロキョロ見渡す。

思った通り怖がってるみたいで、俺は見るのを止めて部室の中に入った。

やっぱり学園祭というと、おばけ屋敷が定番だよな。
さっき学園祭の地図を見たらおばけ屋敷をやってる部活動があったから、この学園にもおばけ屋敷という文化はある。

いいおばけ屋敷の道具はないかなぁと倉庫を漁っていて見つけた。
闇の魔術を発動する装置、これでどんなに明るくても薄暗い空間を演出出来る。
闇の魔術は未だに誰も持っている人がいなくて、こうして発動装置とかが売られている。

勿論、人工的に作られた闇の魔術だから害はない。
薄暗くても足元が見える程度の暗さで、普段の使い道は家の中や外が眩しい時とかに自分の周りだけ暗く出来る。

そしてひんやりしているとユズは言っていたが、それは多分気のせい。
ひんやりするのはさすがに見つからなかった、氷の魔術師は普通にいるから、闇の魔術のような装置も必要ない。

氷は店で普通に売ってるけど、さすがに今は用意出来なかった。

雰囲気でもユズが感じてくれたなら良かった。

ディアは猫耳のカチューシャにマントを着せていた。
おばけ屋敷の説明を事前にしていたから「全然怖くないだろ」と俺を変な目で見ていた。

ディアは分かってないな、可愛い主人公は可愛いおばけの格好するのが常識なんだ。
……可愛いかは分かれるけど、主人公なのは変わらない。
かっこいい主人公でも猫耳を付けたっていいじゃないか!

俺は仮装道具が他になくて、シーツのおばけの仮装をしていた。
前が見えるように目の部分が開いているから視界がクリアに見える。

二人が来たら部室から飛び出して、驚かせるつもりだ。
部室がもうちょっと広かったら、もっと手の込んだ事が出来るんだけどなぁ…

ひよこ達にも布を被せて、大きな動く物体になってもらっている。
先にひよこ達に行かせて、俺達が後から行けば良いかな…と考える。

その時がゆっくりと、確実に迫ってきて…俺とディアの緊張が走る。

タイミングを見て、今だとひよこに命令すると走って行った。
召喚士の命令を素直に聞いてくれる、いい使い魔だよな…と感動していた。
後に続くように、俺とディアも出ようと一歩踏み出した。

その時、俺のシーツが強いなにかに引っかかった。

下を見てみると、ひよこの一匹が俺のシーツに躓いていた。
このまま行くと、ひよこを踏んでしまうから避けようと体を捻らせる。

「うわっ!」

「ナギッ!!」

足が絡まってバランスを崩して、そのまま床に倒れた。
俺を助けようと、腕を伸ばしたディアも空振りして俺の上に倒れた。

うっ…重い、苦しい…ディアが謝って背中が軽くなった。

ディアの方を振り返り、大丈夫だと笑うと思ったよりディアの顔が近かった。
俺に覆い被さる体勢で、知らない人が見たら勘違いしてしまいそうだ。

実際ディアの瞳に見つめられて、俺ですら心臓が破裂しそうなほど長時間は持たない。

「何してんの、ナギくん」と静かな声が聞こえた。

嫌な予感に顔が引き攣って、シーツを深く被ろうと頭に触れた。
何処を探してもシーツはなくて、俺が下に敷いていた。

「あ、あれ?…えっと…」

「もうちょっと遅く帰ってきた方が良かった?」

「フレン部長!違うんですよ!」

「なにが違うの!?抜け駆け禁止!!」

ユズが怒って、部室の周りに突風が吹き乱れた。
部室はめちゃくちゃになって、ディアが魔力を吸収してくれなかったらとんでもない事になるところだった。

フレン部長は食べ物を死守してくれていて、それだけは無事だった。

驚かせようとした代償は、とんでもないものだった。

椅子に座っているナギはまだ不機嫌だったが、俺が必死に謝るととりあえず許してくれた。
俺は申し訳なくて、椅子に座る事が出来ずに床に座っている。

最初はディアも謝っていたけど、一緒に謝ると余計にユズを怒らせる結果になりディアには大丈夫だと椅子に座らせていた。
フレン部長がユズを落ち着かせていて、買ってきた食べ物を与えていた。

この国の名産であるライの果実で作った飴を舐めていた。
味は苺で色も苺だけど、名前が違うから俺だけたまに混乱する。
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