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待ち合わせの先

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とりあえず言いたい事は手紙にしてディアの家のポストに入れておこう。

ディアが話したいと思ってくれた時が一番いい。

トーヤが足を止めて、お屋敷の中に入っていった。
ゲームで見た事があるディアの家が目の前にあって感動だ。

まるで自分の家のように中に入っていたトーヤに驚いた。
いくら幼馴染みとはいえ、家族公認はやっぱり強いな。

俺は急いで、ノートを破ってディア宛の手紙を書いてポストに入れた。

ディアに書いた手紙は、風紀委員長は無事という事と会って話したいという事だけを書いた。

いつディアがこの手紙を気付くか分からない、もしかしたらずっと気付かないかもしれない。
それでも、俺は毎日待ち合わせの場所に向かった。
俺の家とディアの家の通り道である、大きな橋の上でディアを待った。

ディアが分かる場所はここぐらいしか知らないからここにしたけど、意外と同じ学校の人が通る事に驚いた。
あまりこの橋を通らないからな、もっと人がいないところにすれば良かったと後悔しても、行き違いになるかもしれないから今更変えられない。

暗くなったら、その日は帰って…また次の日に学校帰りに橋の上に立つ。
ウルも通り道だからか、不審な顔をしながら橋を通っていった。
長い月日を待つと思っていたから、その日は早く来た。

橋の上で待って二日目の事だった。

橋の下の川を眺めていたら、だんだんと俺に近付く足音が聞こえた。
橋だから人が歩くのは当然だから、気にもしていなかった。
その足音の持ち主が、俺の名前を呼ぶまでは…

「ナギっ」

「……ディア、来てくれたんだな」

息が少し荒く、走ってきたのか疲れている様子だった。
走らなくてもいいのに、と小さく笑うとディアに手を掴まれた。

やっぱり人がいる事を気にして、ディアの家の前まで連れられた。

あの時は尾行して来たから、正面から入れるのは不思議な気分だ。
門を開けて広い庭を進んでいくと、庭師のおじさんと目が合った。
軽く会釈しただけだけど、信じられないものを見るかのように俺とディアを見ていた。

なんでそんな顔をするんだ?ディアが友人を連れてくるのは初めてではない筈だ。
俺は初めて来たから、初めての顔という事なら分かる。

でも、そこまで驚く事ではないと思うけど…

家に入っても、中にいる使用人の人達が俺達を見て驚いている。
本当に家の中に入って良かったのかな、何だか来ちゃいけないのかなとすら思う。

一つの扉の前でディアが足を止めて、ずっと握っていた手を離した。

「ここが俺の部屋だ」

「ディア…俺、家にお邪魔して大丈夫なのか?」

「なにがだ?」

「いや、なんか…ディアの家の人を驚かせたみたいに見えるけど」

「…あれは気にしなくて大丈夫だ、俺が人と触れているのが珍しいだけだから」

「……そう、なのか?」

人と触れて、なにが珍しいのか分からないけどディアの部屋にお邪魔した。

生前の友人が持っていたゲームの主人公は、普通の家庭や貧乏の主人公が多かった。
このゲームの主人公であるディアはお金持ち出身だ。

でも無能力者であるから、家族にはいい扱いをされていない。
それでも大人になって、家族に頼る事なく一人で頑張って騎士になったんだ。
光の魔術を使っていたから両親に受け入れられていたけど、魔力が変わるとなにかが変わるのかもしれない。

ディアの良い方に行けばいいけど、俺には分からない。

言われるがままにソファーに座り、ディアが紅茶を入れてくれた。

「ナギは甘いもの食べれるか?」

「あ、うん…好き」

「……………お菓子があるんだ」

ディアは変な間の後に、棚の上から箱を取り出した。
その箱には見覚えがあり、一気に期待が膨らむ。

街で有名の甘いお菓子屋さんがあり、連日行列が絶えない。
一度食べてみたいと思っていたけど、すぐに売り切れるところを見て諦めていた。

言葉で表現出来ないほどに、不思議な甘さがある魔術を込めたクッキーだと食べた人は絶賛していた。

箱を開けると、見た目はシンプルなバタークッキーがそこにあった。

まさかディアの家に呼ばれただげではなく、こんな嬉しい事が起こるなんて…
生唾を飲んで、今すぐ手を出したいのを我慢してディアの方を見つめた。

「ディア、これ…」

「食べていいよ、母が知り合いからもらったもので母は甘いものが苦手だから俺がもらったものだけど」

そう言ったディアは、少し寂しそうに感じた。
個包装にラッピングされたクッキーを一つ取る。

ディアは箱を閉じて、テーブルの上に置いた。
自分の分は取らないのか、ゲームのディアは甘いものが苦手ではなかった。
むしろ、好きだった筈だ…ゲームのままのディアなら…

紅茶を飲んでいるディアに、さっき俺が言われた「甘いもの食べれる?」と聞いた。
驚いて、紅茶を飲むディアの動きが止まった。
分かっていなさそうだけど「食べれる」と一言呟いた。

「このクッキー凄い美味しいって有名なんだよ、ディアも食べてみてよ」

「いや、俺は…このクッキーは客人に渡すものだから」

ディアにクッキーを差し出しても、ディアは受け取らなかった。
客人に渡すものという事は、ディアは一口も食べていないのか?

それはもったいない、人生で二度味わえるか分からないクッキーなのに…
母からもらったって言ってたけど、ディアのお母さんに食べる事を止められているのか?

「俺がもらっていいの?」

「いいよ」

ディアがそう言うなら、このクッキーは俺のものだ。
だったら、何しても誰にも文句は言わせない。

クッキーを両手で掴んで、力を入れると綺麗に二つに割れた。

袋を開けて、半分のクッキーを取り出してもう片方のクッキーをディアに渡した。
ディアは驚いていたけど、恐る恐るクッキーの袋を受け取ってくれた。

もらったものをどうするかは俺の勝手だよな、誰にあげても同じだ。
でも、全部あげるのはディアに悪い…俺にくれたものだから俺が食べないと…

それに一人で食べても美味しくない、一緒に食べるのが一番いい。

「いいのか?」

「うん、ここのクッキー美味しいんだって、俺も初めて食べるんだ」

口の中にクッキーを放り込むと、口いっぱいに甘くて不思議な味が広がる。
こんなクッキー初めて食べた、連日人の行列が絶えないのは頷ける。

ディアも俺のように一口でクッキーを食べて、口元が緩んでいた。
ディアが淹れてくれた紅茶も合って、幸せな気分になる。

自分の魔力について、思い詰めていたから心配だったけど、大丈夫そうで良かった。

そう思っていたら、ポロポロと涙が溢れていてビックリした。

え…どうしたんだ!?俺、なんかしたのだろうか。

考えても全く思いつかず、ディアをどうしようかと考える。
とりあえず、カバンから小さな布を取り出してディアに差し出す。

ハンカチのようなもので、仕立て屋の息子として自分で作った初めてのものだ。
歪に歪んだ刺繍が見えて、自分でも恥ずかしいけど涙を拭うものがこれしか分からなかった。

ディアが受け取ってくれて良かった、まじまじと刺繍のところは見ないでほしい。

「…ありがとう」

「大丈夫?」

「うん、なんか…ごめん、いきなり…嬉しかったから」

「クッキーが?」

「それもあるけど、俺の力を知ってもこうして気にかけてくれてありがとう」

ディアはそう言って、刺繍の部分に触れていた。
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