7 / 37
ディアリスの話
しおりを挟む
無能力者としてこの世に生まれてきた。
誰にでもある能力を持っていないのはどういう事なのか分からない。
周りの人達か魔術を使えるようになれば嫌でも分かるだろう。
両親の顔からして、嫌なものなんだとそれだけは分かった。
能力がないのは自分達のせいだと責める両親に心が苦しくなった。
自分は何のために生まれてきたのか、見失いそうになった。
あの温かな手の体温を初めて感じて、俺の能力を知っても同情する顔ではなくまっすぐと俺を見ていた。
ナギ、君と出会ってから…俺は自分の無能力への苦しみがなくなった。
君が俺の能力を特別だと、嘘偽りない顔で言ってくれた事は特別だ。
パーティー会場でのあの日、俺は運命を変える出会いをした。
「ディアリス!あっちに行こうよ!」
「いや、俺はいい…トーヤはご両親のところに行った方がいい」
「でも…」
「トーヤ!」
赤ん坊の頃からの幼馴染みで、いつも一緒にいた。
トーヤも俺が無能力なのは知っている、隠し事をするのが嫌だったから伝えただけだ。
言ってすぐは、無能力がどんなものか分からないからトーヤも気にしていなかった。
でも、帰ってからトーヤは自分の両親に聞いたのか、俺を見る顔が悲しみに満ちていた。
同情されると、自分の能力が余計に悪いものだと言われているような気がする。
同情なんてしてほしくて言ったんじゃない。
ただ、無能力も俺自身の事で離れられないものだ。
トーヤに「無能力は俺だから気にするな」と言うと、もうその事に触れる事はなかった。
魔力は生まれてから死ぬまでずっと共にある、無能力になったのなら足掻いても仕方ない。
でも、俺にはもう一つの欠点があった。
トーヤを呼ぶトーヤの父親の声に反応をしたが、俺の手を取ろうと腕を伸ばしてきた。
とっさに体を後ろに逸らして、トーヤから逃げるように会場を離れた。
最後に見たトーヤは呆然とした顔で俺を見つめていた。
トイレに駆け込んで、水で手を必要以上に洗っていた。
洗いすぎて真っ赤になった手を見つめて、両手で溜めた水を顔に掛けた。
人に触られるのが嫌いや苦手という言葉では表せられないほどに嫌悪感で感情が支配される。
いつからそうなったのか記憶にない、無能力と関係があるのかすら分からない。
ただ、事実として…俺の体は無意識に拒絶している。
両親以外の誰でも、幼馴染みのトーヤでも無理だった。
触れられていなかったのに、気持ちが悪くてあの場から離れた。
会場に居てもいい事なんてない、両親は遠目から俺を見ているだけで声も掛けない。
貴族として古くからの友人に呼ばれてきたんだ、家族全員で参加するのが礼儀となっている。
俺も当然この場に連れてこられたが、俺を紹介するのは両親にとって恥ずかしい事なんだろう。
誰も俺が無能力だと知らないが、どんな魔力を秘めているのか聞いてくる人はいる。
出し惜しみする話でもないし、聞いた人には悪気はない。
だけど、両親が戸惑い口籠る姿を見ていられなかった。
終わるまで何処かに居ようと思って、トイレを出た。
後でトーヤにも謝ろう、いくらトーヤも俺が人に触れられるのが嫌だと知っていても、悪い事をした。
しかし、隙あれば触ろうとするのはどうなんだ…嫌だと言っているのに…
庭に出て、外の空気を吸おうかと思っていたら誰かの声が聞こえた。
声のする方を見ると、廊下に座り込んでいるが手を振っていた。
こんなところで何をしてるのか、近付いてその姿を見て気付いた。
素足の足は青痣になっていて、動けないほど痛いのだろう。
俺に人を呼んでほしいと言っていて、確かに今すぐ病院に行った方がいい。
誰かを呼ぶためなら会場に…そう思って会場の方を見た。
足が動かない、両親に俺がいる事を気付かれてまたあんな辛い顔をさせられない。
行く勇気がなく、少年に謝って代わりに氷水を用意した。
氷水は近くに厨房があり、誰もいなかったから勝手にもらった。
申し訳ないが、後でこの屋敷の人に言えばいい。
緊急なので、急いで氷水を少年のところに持っていった。
行けない代わりに、誰かがここを通るまで一緒にいる事にした。
大丈夫だ、人に触れなければ嫌悪感もない。
静かな廊下の端で少年に自分の話をした。
自己紹介感覚で言った事だ、同情はいらない。
でも、彼は不思議な事に俺の力を特別だと言った。
今まで、同情された事はあったが特別だと言われた事はなかった。
嫌なものだと、ずっと思っていた事を全否定された。
少年は何故そこまでして、言うのだろう…まるで俺の知らない事を知っているかのようだ。
それも驚いたが、それよりも驚いた事があった。
少年が俺に触れても、体は拒絶しなかった。
初めての事ばかりで、今までの俺が何だったのか分からなくなる。
自分が自分でなくなるような怖い感覚、それでも繋いだ手は確かにそこにあった。
ただ一つだけ、彼の言葉に引っかかる事があった。
……可愛い?誰が?俺が?少しだけ彼より身長が低いだけではないのか?
今までかっこいいとか、可愛いとか気にしていなかったが…そう思われているのなら…
密かに頑張る決意をしていたら、誰かが会場から出てきて少年が声を掛ける前に俺が前に出た。
このパーティーにはいろんな人達が呼ばれている。
どんな人かも分からない相手を彼に近付けるわけにはいかない。
誰にでもある能力を持っていないのはどういう事なのか分からない。
周りの人達か魔術を使えるようになれば嫌でも分かるだろう。
両親の顔からして、嫌なものなんだとそれだけは分かった。
能力がないのは自分達のせいだと責める両親に心が苦しくなった。
自分は何のために生まれてきたのか、見失いそうになった。
あの温かな手の体温を初めて感じて、俺の能力を知っても同情する顔ではなくまっすぐと俺を見ていた。
ナギ、君と出会ってから…俺は自分の無能力への苦しみがなくなった。
君が俺の能力を特別だと、嘘偽りない顔で言ってくれた事は特別だ。
パーティー会場でのあの日、俺は運命を変える出会いをした。
「ディアリス!あっちに行こうよ!」
「いや、俺はいい…トーヤはご両親のところに行った方がいい」
「でも…」
「トーヤ!」
赤ん坊の頃からの幼馴染みで、いつも一緒にいた。
トーヤも俺が無能力なのは知っている、隠し事をするのが嫌だったから伝えただけだ。
言ってすぐは、無能力がどんなものか分からないからトーヤも気にしていなかった。
でも、帰ってからトーヤは自分の両親に聞いたのか、俺を見る顔が悲しみに満ちていた。
同情されると、自分の能力が余計に悪いものだと言われているような気がする。
同情なんてしてほしくて言ったんじゃない。
ただ、無能力も俺自身の事で離れられないものだ。
トーヤに「無能力は俺だから気にするな」と言うと、もうその事に触れる事はなかった。
魔力は生まれてから死ぬまでずっと共にある、無能力になったのなら足掻いても仕方ない。
でも、俺にはもう一つの欠点があった。
トーヤを呼ぶトーヤの父親の声に反応をしたが、俺の手を取ろうと腕を伸ばしてきた。
とっさに体を後ろに逸らして、トーヤから逃げるように会場を離れた。
最後に見たトーヤは呆然とした顔で俺を見つめていた。
トイレに駆け込んで、水で手を必要以上に洗っていた。
洗いすぎて真っ赤になった手を見つめて、両手で溜めた水を顔に掛けた。
人に触られるのが嫌いや苦手という言葉では表せられないほどに嫌悪感で感情が支配される。
いつからそうなったのか記憶にない、無能力と関係があるのかすら分からない。
ただ、事実として…俺の体は無意識に拒絶している。
両親以外の誰でも、幼馴染みのトーヤでも無理だった。
触れられていなかったのに、気持ちが悪くてあの場から離れた。
会場に居てもいい事なんてない、両親は遠目から俺を見ているだけで声も掛けない。
貴族として古くからの友人に呼ばれてきたんだ、家族全員で参加するのが礼儀となっている。
俺も当然この場に連れてこられたが、俺を紹介するのは両親にとって恥ずかしい事なんだろう。
誰も俺が無能力だと知らないが、どんな魔力を秘めているのか聞いてくる人はいる。
出し惜しみする話でもないし、聞いた人には悪気はない。
だけど、両親が戸惑い口籠る姿を見ていられなかった。
終わるまで何処かに居ようと思って、トイレを出た。
後でトーヤにも謝ろう、いくらトーヤも俺が人に触れられるのが嫌だと知っていても、悪い事をした。
しかし、隙あれば触ろうとするのはどうなんだ…嫌だと言っているのに…
庭に出て、外の空気を吸おうかと思っていたら誰かの声が聞こえた。
声のする方を見ると、廊下に座り込んでいるが手を振っていた。
こんなところで何をしてるのか、近付いてその姿を見て気付いた。
素足の足は青痣になっていて、動けないほど痛いのだろう。
俺に人を呼んでほしいと言っていて、確かに今すぐ病院に行った方がいい。
誰かを呼ぶためなら会場に…そう思って会場の方を見た。
足が動かない、両親に俺がいる事を気付かれてまたあんな辛い顔をさせられない。
行く勇気がなく、少年に謝って代わりに氷水を用意した。
氷水は近くに厨房があり、誰もいなかったから勝手にもらった。
申し訳ないが、後でこの屋敷の人に言えばいい。
緊急なので、急いで氷水を少年のところに持っていった。
行けない代わりに、誰かがここを通るまで一緒にいる事にした。
大丈夫だ、人に触れなければ嫌悪感もない。
静かな廊下の端で少年に自分の話をした。
自己紹介感覚で言った事だ、同情はいらない。
でも、彼は不思議な事に俺の力を特別だと言った。
今まで、同情された事はあったが特別だと言われた事はなかった。
嫌なものだと、ずっと思っていた事を全否定された。
少年は何故そこまでして、言うのだろう…まるで俺の知らない事を知っているかのようだ。
それも驚いたが、それよりも驚いた事があった。
少年が俺に触れても、体は拒絶しなかった。
初めての事ばかりで、今までの俺が何だったのか分からなくなる。
自分が自分でなくなるような怖い感覚、それでも繋いだ手は確かにそこにあった。
ただ一つだけ、彼の言葉に引っかかる事があった。
……可愛い?誰が?俺が?少しだけ彼より身長が低いだけではないのか?
今までかっこいいとか、可愛いとか気にしていなかったが…そう思われているのなら…
密かに頑張る決意をしていたら、誰かが会場から出てきて少年が声を掛ける前に俺が前に出た。
このパーティーにはいろんな人達が呼ばれている。
どんな人かも分からない相手を彼に近付けるわけにはいかない。
5
お気に入りに追加
201
あなたにおすすめの小説
妹が破滅フラグしか無い悪役令嬢だったので、破滅フラグを折りまくったらBL展開になってしまった!
古紫汐桜
BL
5歳のある日、双子の妹を助けた拍子に前世の記憶を取り戻したアルト・フィルナート。
アルトは前世で、アラフィフのペンネームが七緒夢というBL作家だったのを思い出す。
そして今、自分の居る世界が、自分が作家として大ブレイクするきっかけになった作品。
「月の巫女と7人の騎士」略して月七(つきなな)に転生した事を知る。
しかも、自分が転生したのはモブにさえなれなかった、破滅フラグしかない悪役令嬢「アリアナ」が、悪役令嬢になるきっかけとなった双子の兄、アルトであると気付く。
アルトは5歳の春、アルトの真似をして木登りをしまアリアナを助けようとして死んでしまう。
アルトは作中、懺悔に苦しむアリアナが見つめた先に描かれた絵画にしか登場しない。
そう、モブにさえなれなかったザコ。
言わば、モブ界の中でさえモブというKING of モブに転生したのだ。
本来なら死んでいる筈のアルトが生きていて、目の前に居る素直で可愛い妹が、破滅エンドしかない悪役令嬢アリアナならば、悪役令嬢になるきっかけの自分が生きているならば、作者の利点を生かして破滅フラグを折って折って折りまくってやろうと考えていた。
しかし、何故か攻略対象達から熱い視線を向けられているのが自分だと気付く。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悪役が英雄を育てるカオスな世界に転生しました(仮)
塩猫
BL
三十路バツイチ子持ちのおっさんが乙女ソーシャルゲームの世界に転生しました。
魔法使いは化け物として嫌われる世界で怪物の母、性悪妹を持つ悪役魔法使いに生まれかわった。
そしてゲーム一番人気の未来の帝国の国王兼王立騎士団長のカイン(6)に出会い、育てる事に…
敵対関係にある魔法使いと人間が共存出来るように二人でゲームの未来を変えていきます!
「俺が貴方を助けます、貴方のためなら俺はなんでもします」
「…いや俺、君の敵……じゃなくて君には可愛いゲームの主人公ちゃんが…あれ?」
なにか、育て方を間違っただろうか。
国王兼王立騎士団長(選ばれし英雄)(20)×6年間育てたプチ育ての親の悪役魔法使い(26)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【本編完結】異世界で政略結婚したオレ?!
カヨワイさつき
BL
美少女の中身は32歳の元オトコ。
魔法と剣、そして魔物がいる世界で
年の差12歳の政略結婚?!
ある日突然目を覚ましたら前世の記憶が……。
冷酷非道と噂される王子との婚約、そして結婚。
人形のような美少女?になったオレの物語。
オレは何のために生まれたのだろうか?
もう一人のとある人物は……。
2022年3月9日の夕方、本編完結
番外編追加完結。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!
モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。
その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。
魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。
その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?!
ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる