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ディアリスの話
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無能力者としてこの世に生まれてきた。
誰にでもある能力を持っていないのはどういう事なのか分からない。
周りの人達か魔術を使えるようになれば嫌でも分かるだろう。
両親の顔からして、嫌なものなんだとそれだけは分かった。
能力がないのは自分達のせいだと責める両親に心が苦しくなった。
自分は何のために生まれてきたのか、見失いそうになった。
あの温かな手の体温を初めて感じて、俺の能力を知っても同情する顔ではなくまっすぐと俺を見ていた。
ナギ、君と出会ってから…俺は自分の無能力への苦しみがなくなった。
君が俺の能力を特別だと、嘘偽りない顔で言ってくれた事は特別だ。
パーティー会場でのあの日、俺は運命を変える出会いをした。
「ディアリス!あっちに行こうよ!」
「いや、俺はいい…トーヤはご両親のところに行った方がいい」
「でも…」
「トーヤ!」
赤ん坊の頃からの幼馴染みで、いつも一緒にいた。
トーヤも俺が無能力なのは知っている、隠し事をするのが嫌だったから伝えただけだ。
言ってすぐは、無能力がどんなものか分からないからトーヤも気にしていなかった。
でも、帰ってからトーヤは自分の両親に聞いたのか、俺を見る顔が悲しみに満ちていた。
同情されると、自分の能力が余計に悪いものだと言われているような気がする。
同情なんてしてほしくて言ったんじゃない。
ただ、無能力も俺自身の事で離れられないものだ。
トーヤに「無能力は俺だから気にするな」と言うと、もうその事に触れる事はなかった。
魔力は生まれてから死ぬまでずっと共にある、無能力になったのなら足掻いても仕方ない。
でも、俺にはもう一つの欠点があった。
トーヤを呼ぶトーヤの父親の声に反応をしたが、俺の手を取ろうと腕を伸ばしてきた。
とっさに体を後ろに逸らして、トーヤから逃げるように会場を離れた。
最後に見たトーヤは呆然とした顔で俺を見つめていた。
トイレに駆け込んで、水で手を必要以上に洗っていた。
洗いすぎて真っ赤になった手を見つめて、両手で溜めた水を顔に掛けた。
人に触られるのが嫌いや苦手という言葉では表せられないほどに嫌悪感で感情が支配される。
いつからそうなったのか記憶にない、無能力と関係があるのかすら分からない。
ただ、事実として…俺の体は無意識に拒絶している。
両親以外の誰でも、幼馴染みのトーヤでも無理だった。
触れられていなかったのに、気持ちが悪くてあの場から離れた。
会場に居てもいい事なんてない、両親は遠目から俺を見ているだけで声も掛けない。
貴族として古くからの友人に呼ばれてきたんだ、家族全員で参加するのが礼儀となっている。
俺も当然この場に連れてこられたが、俺を紹介するのは両親にとって恥ずかしい事なんだろう。
誰も俺が無能力だと知らないが、どんな魔力を秘めているのか聞いてくる人はいる。
出し惜しみする話でもないし、聞いた人には悪気はない。
だけど、両親が戸惑い口籠る姿を見ていられなかった。
終わるまで何処かに居ようと思って、トイレを出た。
後でトーヤにも謝ろう、いくらトーヤも俺が人に触れられるのが嫌だと知っていても、悪い事をした。
しかし、隙あれば触ろうとするのはどうなんだ…嫌だと言っているのに…
庭に出て、外の空気を吸おうかと思っていたら誰かの声が聞こえた。
声のする方を見ると、廊下に座り込んでいるが手を振っていた。
こんなところで何をしてるのか、近付いてその姿を見て気付いた。
素足の足は青痣になっていて、動けないほど痛いのだろう。
俺に人を呼んでほしいと言っていて、確かに今すぐ病院に行った方がいい。
誰かを呼ぶためなら会場に…そう思って会場の方を見た。
足が動かない、両親に俺がいる事を気付かれてまたあんな辛い顔をさせられない。
行く勇気がなく、少年に謝って代わりに氷水を用意した。
氷水は近くに厨房があり、誰もいなかったから勝手にもらった。
申し訳ないが、後でこの屋敷の人に言えばいい。
緊急なので、急いで氷水を少年のところに持っていった。
行けない代わりに、誰かがここを通るまで一緒にいる事にした。
大丈夫だ、人に触れなければ嫌悪感もない。
静かな廊下の端で少年に自分の話をした。
自己紹介感覚で言った事だ、同情はいらない。
でも、彼は不思議な事に俺の力を特別だと言った。
今まで、同情された事はあったが特別だと言われた事はなかった。
嫌なものだと、ずっと思っていた事を全否定された。
少年は何故そこまでして、言うのだろう…まるで俺の知らない事を知っているかのようだ。
それも驚いたが、それよりも驚いた事があった。
少年が俺に触れても、体は拒絶しなかった。
初めての事ばかりで、今までの俺が何だったのか分からなくなる。
自分が自分でなくなるような怖い感覚、それでも繋いだ手は確かにそこにあった。
ただ一つだけ、彼の言葉に引っかかる事があった。
……可愛い?誰が?俺が?少しだけ彼より身長が低いだけではないのか?
今までかっこいいとか、可愛いとか気にしていなかったが…そう思われているのなら…
密かに頑張る決意をしていたら、誰かが会場から出てきて少年が声を掛ける前に俺が前に出た。
このパーティーにはいろんな人達が呼ばれている。
どんな人かも分からない相手を彼に近付けるわけにはいかない。
誰にでもある能力を持っていないのはどういう事なのか分からない。
周りの人達か魔術を使えるようになれば嫌でも分かるだろう。
両親の顔からして、嫌なものなんだとそれだけは分かった。
能力がないのは自分達のせいだと責める両親に心が苦しくなった。
自分は何のために生まれてきたのか、見失いそうになった。
あの温かな手の体温を初めて感じて、俺の能力を知っても同情する顔ではなくまっすぐと俺を見ていた。
ナギ、君と出会ってから…俺は自分の無能力への苦しみがなくなった。
君が俺の能力を特別だと、嘘偽りない顔で言ってくれた事は特別だ。
パーティー会場でのあの日、俺は運命を変える出会いをした。
「ディアリス!あっちに行こうよ!」
「いや、俺はいい…トーヤはご両親のところに行った方がいい」
「でも…」
「トーヤ!」
赤ん坊の頃からの幼馴染みで、いつも一緒にいた。
トーヤも俺が無能力なのは知っている、隠し事をするのが嫌だったから伝えただけだ。
言ってすぐは、無能力がどんなものか分からないからトーヤも気にしていなかった。
でも、帰ってからトーヤは自分の両親に聞いたのか、俺を見る顔が悲しみに満ちていた。
同情されると、自分の能力が余計に悪いものだと言われているような気がする。
同情なんてしてほしくて言ったんじゃない。
ただ、無能力も俺自身の事で離れられないものだ。
トーヤに「無能力は俺だから気にするな」と言うと、もうその事に触れる事はなかった。
魔力は生まれてから死ぬまでずっと共にある、無能力になったのなら足掻いても仕方ない。
でも、俺にはもう一つの欠点があった。
トーヤを呼ぶトーヤの父親の声に反応をしたが、俺の手を取ろうと腕を伸ばしてきた。
とっさに体を後ろに逸らして、トーヤから逃げるように会場を離れた。
最後に見たトーヤは呆然とした顔で俺を見つめていた。
トイレに駆け込んで、水で手を必要以上に洗っていた。
洗いすぎて真っ赤になった手を見つめて、両手で溜めた水を顔に掛けた。
人に触られるのが嫌いや苦手という言葉では表せられないほどに嫌悪感で感情が支配される。
いつからそうなったのか記憶にない、無能力と関係があるのかすら分からない。
ただ、事実として…俺の体は無意識に拒絶している。
両親以外の誰でも、幼馴染みのトーヤでも無理だった。
触れられていなかったのに、気持ちが悪くてあの場から離れた。
会場に居てもいい事なんてない、両親は遠目から俺を見ているだけで声も掛けない。
貴族として古くからの友人に呼ばれてきたんだ、家族全員で参加するのが礼儀となっている。
俺も当然この場に連れてこられたが、俺を紹介するのは両親にとって恥ずかしい事なんだろう。
誰も俺が無能力だと知らないが、どんな魔力を秘めているのか聞いてくる人はいる。
出し惜しみする話でもないし、聞いた人には悪気はない。
だけど、両親が戸惑い口籠る姿を見ていられなかった。
終わるまで何処かに居ようと思って、トイレを出た。
後でトーヤにも謝ろう、いくらトーヤも俺が人に触れられるのが嫌だと知っていても、悪い事をした。
しかし、隙あれば触ろうとするのはどうなんだ…嫌だと言っているのに…
庭に出て、外の空気を吸おうかと思っていたら誰かの声が聞こえた。
声のする方を見ると、廊下に座り込んでいるが手を振っていた。
こんなところで何をしてるのか、近付いてその姿を見て気付いた。
素足の足は青痣になっていて、動けないほど痛いのだろう。
俺に人を呼んでほしいと言っていて、確かに今すぐ病院に行った方がいい。
誰かを呼ぶためなら会場に…そう思って会場の方を見た。
足が動かない、両親に俺がいる事を気付かれてまたあんな辛い顔をさせられない。
行く勇気がなく、少年に謝って代わりに氷水を用意した。
氷水は近くに厨房があり、誰もいなかったから勝手にもらった。
申し訳ないが、後でこの屋敷の人に言えばいい。
緊急なので、急いで氷水を少年のところに持っていった。
行けない代わりに、誰かがここを通るまで一緒にいる事にした。
大丈夫だ、人に触れなければ嫌悪感もない。
静かな廊下の端で少年に自分の話をした。
自己紹介感覚で言った事だ、同情はいらない。
でも、彼は不思議な事に俺の力を特別だと言った。
今まで、同情された事はあったが特別だと言われた事はなかった。
嫌なものだと、ずっと思っていた事を全否定された。
少年は何故そこまでして、言うのだろう…まるで俺の知らない事を知っているかのようだ。
それも驚いたが、それよりも驚いた事があった。
少年が俺に触れても、体は拒絶しなかった。
初めての事ばかりで、今までの俺が何だったのか分からなくなる。
自分が自分でなくなるような怖い感覚、それでも繋いだ手は確かにそこにあった。
ただ一つだけ、彼の言葉に引っかかる事があった。
……可愛い?誰が?俺が?少しだけ彼より身長が低いだけではないのか?
今までかっこいいとか、可愛いとか気にしていなかったが…そう思われているのなら…
密かに頑張る決意をしていたら、誰かが会場から出てきて少年が声を掛ける前に俺が前に出た。
このパーティーにはいろんな人達が呼ばれている。
どんな人かも分からない相手を彼に近付けるわけにはいかない。
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