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第5話
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※※※ ※※※
提案者の野田が言うには、現在、東は過去に九重という女性が作り上げた細胞によって、再生する体質を得たのではないかということだ。どのような経緯を経てそのようなことになったのかは分からないが、厄介な肉体であることは確かだ。
そこに残るキーワードは細胞であり、全身に巡られた神経などのネットワークにより、加速度的に循環を繰り返している状態であるとのことだった。ならば、その役割はどこからくるのか。通常であれば心臓のポンプが血液を送り続けて体内を走っていく。
心臓を潰せば良いのか、浩太の問い掛けに野田は首を振った。
熊に襲われた時、腹の臓器を貪られていた東は、今も生きている為、その可能性は限りなく低い。
では、頭を撃てばどうか、と達也が訊けば、野田は少し唸って言った。
「……死者の摂食行動の原点は、大脳から脊髄までのネットワークによって促進されている。それが東にも適用されていることは、多分、田辺も気付いていたと思うが、どうだ?」
突然、話しを振られた田辺は、僅かに動揺を見せたものの、しっかりと返す。
「そうですね……以前、九重さんに取材した際に聞いていた部分との符号は、さっきの松谷さんとのやり取りで感じました。恐らくは、爆発的に増えていく細胞に肉体が追い付いていないのではないかとも……しかし……」
言い淀んだ田辺に、野田は言った。
「お前が気にしていることはクールー病のことだろう。そうだ、俺もそこに着眼してみた」
二人の間での話し合いに置いて行かれていた浩太達は、首を傾げることしか出来ず、ついに達也が声をあげた。
「ちょっと待ってくれよ。俺らにも分かるように言ってくれねえと何がなんだか……」
はっ、とした様子で野田は短く謝罪を挟んだ。
「分かりやすくするなら、クールー病というのは、一昔前に流行った狂牛病が人間で起きた状態のことだ。覚えているか?」
亜里沙が、前置きをして記憶の引き出しを開く。
「脳がスカスカになっちゃうってやつですか?前に、テレビでやってたから名前だけは知ってる程度なんですけど……けど、確か、その病気になった牛は死んじゃうんじゃ……」
「そう、その通りだ」
頷いた野田は一拍空けて、その場にいる全員へと目を配った。その途中、浩太が突然、頭を叩かれたような衝撃を受けて瞠目している光景があり、野田は、そうだ、と呟くと声の調子をあげた。
「君らが東の言動に小さな違和感を覚えたことがあるか、どうかなどは知らないが、確かなことが一つある。奴は、そう長くは生きられないだろう」
提案者の野田が言うには、現在、東は過去に九重という女性が作り上げた細胞によって、再生する体質を得たのではないかということだ。どのような経緯を経てそのようなことになったのかは分からないが、厄介な肉体であることは確かだ。
そこに残るキーワードは細胞であり、全身に巡られた神経などのネットワークにより、加速度的に循環を繰り返している状態であるとのことだった。ならば、その役割はどこからくるのか。通常であれば心臓のポンプが血液を送り続けて体内を走っていく。
心臓を潰せば良いのか、浩太の問い掛けに野田は首を振った。
熊に襲われた時、腹の臓器を貪られていた東は、今も生きている為、その可能性は限りなく低い。
では、頭を撃てばどうか、と達也が訊けば、野田は少し唸って言った。
「……死者の摂食行動の原点は、大脳から脊髄までのネットワークによって促進されている。それが東にも適用されていることは、多分、田辺も気付いていたと思うが、どうだ?」
突然、話しを振られた田辺は、僅かに動揺を見せたものの、しっかりと返す。
「そうですね……以前、九重さんに取材した際に聞いていた部分との符号は、さっきの松谷さんとのやり取りで感じました。恐らくは、爆発的に増えていく細胞に肉体が追い付いていないのではないかとも……しかし……」
言い淀んだ田辺に、野田は言った。
「お前が気にしていることはクールー病のことだろう。そうだ、俺もそこに着眼してみた」
二人の間での話し合いに置いて行かれていた浩太達は、首を傾げることしか出来ず、ついに達也が声をあげた。
「ちょっと待ってくれよ。俺らにも分かるように言ってくれねえと何がなんだか……」
はっ、とした様子で野田は短く謝罪を挟んだ。
「分かりやすくするなら、クールー病というのは、一昔前に流行った狂牛病が人間で起きた状態のことだ。覚えているか?」
亜里沙が、前置きをして記憶の引き出しを開く。
「脳がスカスカになっちゃうってやつですか?前に、テレビでやってたから名前だけは知ってる程度なんですけど……けど、確か、その病気になった牛は死んじゃうんじゃ……」
「そう、その通りだ」
頷いた野田は一拍空けて、その場にいる全員へと目を配った。その途中、浩太が突然、頭を叩かれたような衝撃を受けて瞠目している光景があり、野田は、そうだ、と呟くと声の調子をあげた。
「君らが東の言動に小さな違和感を覚えたことがあるか、どうかなどは知らないが、確かなことが一つある。奴は、そう長くは生きられないだろう」
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