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第7話
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「ひゃはははは!なんだよ!んなとこで集まりやがって!逃げ回るのは、もう終わったのかよ!」
不快な哄笑を放つ男を真一は鋭く睨みつける。
最後となる瞬間が、刻一刻と近付いていく中、真一は裕介と二人になった際、感触で確認していた手榴弾を懐から取り出して隣に立つ裕介に渡した。
「何かに使えるかもしれない……お前に託すぜ」
裕介の返事は聞かず、真一はエスカレーターの床板に立ち塞がる。
その姿に、ゆっくりとエスカレーターを登っていた東は怪訝そうに目を細めた。押せば倒れそうなほど、真一は見た目にも弱っている。そんな男が何故、ただ一人で佇んでいるのだろうか。
真一は、横目で全員が走っていく様子を見届けて東へと視線を下ろす。
「なあ……テメエは、一度でも誰かの為に……本気になったことあるか?」
突然の質問に、東は頓狂な声で言った。
「ああ?あるに決まってんだろ?馬鹿にしてやがんのか?俺は世界で初めて仲間だと思える男に出会った。そいつを助ける為に本気で……」
その返答に鼻を鳴らした真一は、被せて言う。
「けど……お前は生きてるぜ?テメエは本質が違うんだろうなぁ……人生の中で一度だけでも……誰かを助ける為に本気で命をかける……そんなことがあっても良いんだぜ?いや、なくちゃ駄目なんだよ」
今度は、東が滑稽だとばかりに返す。
「命だぁ?分かってねえなぁ……命ってのは巡るもんなんだよ!奪われた分だけ新たな命が生まれる!そいつらを正しい道に誘うのは、神の使いたる俺達なんだよ!」
「哀れなもんだぜ……正しい道ってのは百通りあるもんなんだ……それを自由に選べない人生になんの意味があんのか、皆目検討がつかないぜ……」
東のこめかみが、ピクリ、と動いた。
「死にぞこない如きが言うじゃねえか……ならよぉ、テメエはここにいることを望んだってのか?」
「ああ、俺は望んでここにいるぜ……言ったろ?人生の中で一度でも誰かの為に命をかける……そんなことがあっても良いんだぜってよ……」
大義そうに深い息を吐き捨てた東は、エスカレーターを一段あがった。
「あの達也って奴といい、もう一人といい、自衛官ってのはどうしてこうも生意気なのが多いんだろうなぁ……テメエらみてえなのは、自己犠牲っつうエゴイズムを正命だとでも捉えてやがんのか?ならよぉ……望み通りに、テメエの原型が無くなるぐれえ、グチャグチャにしてやんよ!後悔するくらいになあ!ひゃはははは!」
加奈子を抱き締めた温もり、人間である証が、消えかけていた命の蝋燭に再度、火を灯してくれた。その種火を盛らせるように、真一は全身全霊を込めて吼えた。
「自衛官じゃねえ!俺の名前は、佐伯真一だぜ!かかってきやがれ!サイコ野郎!」
不快な哄笑を放つ男を真一は鋭く睨みつける。
最後となる瞬間が、刻一刻と近付いていく中、真一は裕介と二人になった際、感触で確認していた手榴弾を懐から取り出して隣に立つ裕介に渡した。
「何かに使えるかもしれない……お前に託すぜ」
裕介の返事は聞かず、真一はエスカレーターの床板に立ち塞がる。
その姿に、ゆっくりとエスカレーターを登っていた東は怪訝そうに目を細めた。押せば倒れそうなほど、真一は見た目にも弱っている。そんな男が何故、ただ一人で佇んでいるのだろうか。
真一は、横目で全員が走っていく様子を見届けて東へと視線を下ろす。
「なあ……テメエは、一度でも誰かの為に……本気になったことあるか?」
突然の質問に、東は頓狂な声で言った。
「ああ?あるに決まってんだろ?馬鹿にしてやがんのか?俺は世界で初めて仲間だと思える男に出会った。そいつを助ける為に本気で……」
その返答に鼻を鳴らした真一は、被せて言う。
「けど……お前は生きてるぜ?テメエは本質が違うんだろうなぁ……人生の中で一度だけでも……誰かを助ける為に本気で命をかける……そんなことがあっても良いんだぜ?いや、なくちゃ駄目なんだよ」
今度は、東が滑稽だとばかりに返す。
「命だぁ?分かってねえなぁ……命ってのは巡るもんなんだよ!奪われた分だけ新たな命が生まれる!そいつらを正しい道に誘うのは、神の使いたる俺達なんだよ!」
「哀れなもんだぜ……正しい道ってのは百通りあるもんなんだ……それを自由に選べない人生になんの意味があんのか、皆目検討がつかないぜ……」
東のこめかみが、ピクリ、と動いた。
「死にぞこない如きが言うじゃねえか……ならよぉ、テメエはここにいることを望んだってのか?」
「ああ、俺は望んでここにいるぜ……言ったろ?人生の中で一度でも誰かの為に命をかける……そんなことがあっても良いんだぜってよ……」
大義そうに深い息を吐き捨てた東は、エスカレーターを一段あがった。
「あの達也って奴といい、もう一人といい、自衛官ってのはどうしてこうも生意気なのが多いんだろうなぁ……テメエらみてえなのは、自己犠牲っつうエゴイズムを正命だとでも捉えてやがんのか?ならよぉ……望み通りに、テメエの原型が無くなるぐれえ、グチャグチャにしてやんよ!後悔するくらいになあ!ひゃはははは!」
加奈子を抱き締めた温もり、人間である証が、消えかけていた命の蝋燭に再度、火を灯してくれた。その種火を盛らせるように、真一は全身全霊を込めて吼えた。
「自衛官じゃねえ!俺の名前は、佐伯真一だぜ!かかってきやがれ!サイコ野郎!」
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