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第6話
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そんな男に自身の弱さをを露呈できない。裕介は、真一を安堵させる為に、肩をを触ってみせた。込められたメッセージは言葉にする必要もない。
「真一……俺は……」
浩太は真一が傍を通り抜けるときも、その場から動けなかった。ようやく、喉から絞り出すことができたが続けることが出来ずに両手を握った。立ち尽くす浩太へ、真一は鼻を鳴らす。
「情けない……面になっちまってるぜ……浩太……」
真一は、ヨタヨタと歩き浩太の胸を軽く小突く。
「浩太……お前とはいろいろあったけどよ……俺はお前のこと……一番の相棒だと思ってんだぜ……そんな面で見送ってほしくないぜ……」
浩太は一際、唇を一文字に締めた。
全身が意思とは関係なく顫動していたが、大きく息を吸って気を持ち直す。九州地方を死者が跋扈する以前より、多くの時間を共に過ごしてきた男の最後の頼みを果たす為に、浩太は唇を開き、広角をあげた。
「俺もそう思ってたよ。いつか向こうでもそうなりたいな、相棒」
ははっ、と短く笑い、真一は達也へ視線を預ける。
「達也……諦めるなんて、お前らしくない真似はするなよ……?お前らなら……どんなことでも出来るって信じてるぜ……」
「真一、俺は……いや、なんでもねえ……」
達也は、涙を見せずに力強く首肯する。そして、一言だけ、またな、と加えた。別れを述べる訳でもなく、また会えると信じている、そういった意味も含まれているのだろう。
「亜里沙ちゃん……元気でな……絶対に生き延びろよ……約束だぜ」
呼ばれた亜里沙は、はい、と前置きして言った。
「真一さん、今までありがとうございました……真一さんのこと……アタシは絶対に忘れません」
満足そうに笑った真一は、最後に加奈子へ声を掛ける。
「加奈子ちゃん……最後に声が聞けて……良かったぜ……大きくなっても、おじさんのこと覚えててくれな……」
亜里沙にしがみついていた加奈子は、大きく両手を広げ、真一のもとへ駆け出し抱きつく。
「おじさん……また会えるよね?いつか……きっと……また……」
清冽な加奈子の幼い声は、真一の胸へとなんの抵抗もなく流れていく。心地よい温かさを確かめるように、真一は裕介の肩から離れて膝をつき、柔らかく加奈子を抱き締める。
「あったけえなぁ……」
人の温もりを感じられること。それは、まだ真一が人間であることの、なによりの証左だ。
俺はまだ、人間でいられている。
真一が確認を終えたように加奈子を解放して微笑んだ。そんな外界と切り離す天幕が張られたような安心感を切り裂いたのは、階下から響いた甲高い笑い声だった。
「真一……俺は……」
浩太は真一が傍を通り抜けるときも、その場から動けなかった。ようやく、喉から絞り出すことができたが続けることが出来ずに両手を握った。立ち尽くす浩太へ、真一は鼻を鳴らす。
「情けない……面になっちまってるぜ……浩太……」
真一は、ヨタヨタと歩き浩太の胸を軽く小突く。
「浩太……お前とはいろいろあったけどよ……俺はお前のこと……一番の相棒だと思ってんだぜ……そんな面で見送ってほしくないぜ……」
浩太は一際、唇を一文字に締めた。
全身が意思とは関係なく顫動していたが、大きく息を吸って気を持ち直す。九州地方を死者が跋扈する以前より、多くの時間を共に過ごしてきた男の最後の頼みを果たす為に、浩太は唇を開き、広角をあげた。
「俺もそう思ってたよ。いつか向こうでもそうなりたいな、相棒」
ははっ、と短く笑い、真一は達也へ視線を預ける。
「達也……諦めるなんて、お前らしくない真似はするなよ……?お前らなら……どんなことでも出来るって信じてるぜ……」
「真一、俺は……いや、なんでもねえ……」
達也は、涙を見せずに力強く首肯する。そして、一言だけ、またな、と加えた。別れを述べる訳でもなく、また会えると信じている、そういった意味も含まれているのだろう。
「亜里沙ちゃん……元気でな……絶対に生き延びろよ……約束だぜ」
呼ばれた亜里沙は、はい、と前置きして言った。
「真一さん、今までありがとうございました……真一さんのこと……アタシは絶対に忘れません」
満足そうに笑った真一は、最後に加奈子へ声を掛ける。
「加奈子ちゃん……最後に声が聞けて……良かったぜ……大きくなっても、おじさんのこと覚えててくれな……」
亜里沙にしがみついていた加奈子は、大きく両手を広げ、真一のもとへ駆け出し抱きつく。
「おじさん……また会えるよね?いつか……きっと……また……」
清冽な加奈子の幼い声は、真一の胸へとなんの抵抗もなく流れていく。心地よい温かさを確かめるように、真一は裕介の肩から離れて膝をつき、柔らかく加奈子を抱き締める。
「あったけえなぁ……」
人の温もりを感じられること。それは、まだ真一が人間であることの、なによりの証左だ。
俺はまだ、人間でいられている。
真一が確認を終えたように加奈子を解放して微笑んだ。そんな外界と切り離す天幕が張られたような安心感を切り裂いたのは、階下から響いた甲高い笑い声だった。
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