感染

saijya

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第3話

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    両手に力を込めれば、傷口から熟した膿が噴き出す。目を逸らしたい光景だったが誰一人として真一を見詰めていた。壁に背中を預け、どうにか立ち上がった真一は、肩で息を繰り返しながら、もたらせていた首をあげ、前髪の奥にある白みがかった双眸で浩太と達也を見る。

「それは、お前らも……同じなんだよ……裕介を支えてやれんのはお前らだけだ……」

 ぐっ、と唇を噛んだ達也が真一の言葉を引き継ぐように言う。 

「浩太、俺もこの傷を負ったままじゃあ厳しいかもしれねえな……」

 愁眉した様子の亜里沙へ達也は小さく首を振った。大丈夫だ、心配することはない、そんな意味だろう。達也は、背中に当てていた手を外して吐息をつく。

「死ぬつもりはねえ……けど、東にやられた傷もある。だからさ、もしもの時は俺を置いていってくれねえか」

 浩太は、瞠目するも下唇を内側に引きつつ頷いた。命に順番をつけるなど許されることでない。しかし、最悪の事態に陥った場合のことも想定しておくべきだ。
 裕介は愕然としながらも、さきほどの真一の語りと、ある一因があり口を閉ざし、目元に影を作ったまま俯く。頭の中を巡っているのは、彰一との約束だった。
 加奈子の未来を暗くするような真似を俺にさせないでくれ、と三人を安部から逃がす前に言った彰一に、裕介は、あとのことは任せてくれと返している。感情ばかりで乗り切れるほど、現状は甘くはなく、そんな場面にまで状況は追いやられている。

「なら、達也の……」

 次は俺だな、そんな浩太の声を寸断したのは、階下からの足音だった。死者かもしれないと六人は一斉に身構えるが、エスカレーターの脇から垣間見えた頭部に安堵する。
 足音の正体は、田辺と野田だった。

「田辺さん!無事だったんだな!」

 ここで二人が現れたことにより、田辺達を待っていなければならない憂いが一つ解消された。しかし、続け様に浮き出した疑念が頭をもたげる。詳しくは聞いていないが、恐らく、田辺と野田の護衛で同行していた二人が見当たらない。随分と荒事に慣れていたように見えていたが、まさか、東に殺されてしまったのだろうか。
 エスカレーターに手を掛けて踏板を走る二人と合流するまで、倉皇していても仕方がないと分かってはいるが胸中に吹く暗い風を早く止めたくなり、浩太は少しでも時間を短縮したいという気持ちから、無意識に右腕を伸ばしていた。
 それに気付いた田辺が、伸ばされた右手を掴んだ途端、強く引き上げられる。
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