感染

saijya

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第2話

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    異常な事態、人間と直面した加奈子の心は甚大な影響を受けてしまったようだ。しかし、それはこの場にいる全員が共有しているであろう感情だった。暗澹とした黒く深い穴に陥っていく恐怖の前には、希望の光など射し込む隙間もない。特に、これまでの経験があるにしても裕介や亜里沙、加奈子が現在の状況を包み込めるはずもなく、呑み込めない不安を吐いた一言は、自衛官三人にも楔のように打ち込まれた。今すぐにヘリコプターへ三人を乗せておくべきかと思議した浩太が、その提案を口にしようとした矢先、階下から再度、銃声が聞こえる。
 恐らく、どれだけ攻撃を重ねても、ことごとく立ち上がる東になす統べがないのだろう。だとすれば、あの殺人鬼がここに来るまで時間の問題だ。
 浩太は、達也と真一を一瞥して、裕介達にとって残酷な決断を下す。

「達也、真一、先に三人をヘリに乗せる。俺達三人は田辺さん達がここに現れるまで待っていよう」 

 渋面していた達也は腰を抑えながら短く笑い、真一は首だけで頷く。だが、そこで異論を唱えたのは裕介だった。弾かれたように加奈子から浩太へと振り返り、火を吹く勢いで浩太へと詰め寄り胸倉を掴み、半ば、叫ぶような声量で言う。

「ふざけんな!三人を残して、俺達だけが安全な場所に行けってことかよ!」

 熱のある声音の裕介に対して、浩太は自分の胸を握る裕介の右手に、自身の左手を被せて柔和な口調で返す。

「それが一番の選択なんだよ、分かってくれ裕介」

 ぎっ、と裕介の奥歯が軋んだ。

「分かんねえよ!どうしてもって言うなら俺も……!」

「裕介!」

 裕介の怒鳴りを鋭く断ち切ったのは真一だった。
 困惑や悲しみ、そして怒りが混在した裕介はどんな表情をして良いのか分かっていないようだ。涙や鼻水で覆われたような顔を向ける。
 真一は、短い笑いを洩らして一息おくと続ける。

「八幡西署に……二人で武器を取りに行った時……話したはず……だぜ?どんな状況になろうと……人間として生きようとする意思を持ってる奴が必要で……そんな奴だけが、諦めかけた人の背中を押してやることが出来るんだってよ……」

 真一の声は、絶え絶えながらも、確かに裕介の心根にまで吸い込まれていった。
 八幡西署で死者に転化した警察官を倒せず、危機に陥った際、真一の助力でどうにか切り抜けた後の言葉だ。

「お前がいたからこそ……俺達は東みたいな獣にならないでいられた……だからこそ、次は亜里沙ちゃん達の……背中を押してやってくれ……それが出来るのはお前だけなんだぜ……?」
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