感染

宇宙人

文字の大きさ
上 下
359 / 419

第10話

しおりを挟む
    生き延びたら何をしたい、その問い掛けに真一は、まだ見つかっていない、と返し、希望を手にしなければ平和を掴めないと言ったのは、他ならぬ達也だ。真一にとっての希望、その芽を摘んでしまったことに、達也は涙を流す。

「真一……俺は……お前になんて事を……」

 ナイフが手から滑り落ち、小さな音をたて膝から崩れた。語るべき言葉が見付からず、嗚咽を漏らすことしかできない。そんな中で、深く息を吸い込んだ真一は、片足を引摺りながら項垂れる達也の肩に手を置いた。

「お前が悪い訳じゃないんだぜ?全部、俺が自分で招いたことだ……」

「達也……」

 低く呟いた浩太に振り向き、真一は口角をあげる。汗が浮いた額をみるに、耐え難い激痛に苛まれているのだろう。それでも、真一は笑っていた。

「こうなっちまった以上、どうするかな……お前達をこの地獄から助け出す、それしか残っちゃいないけど……ケジメの付け方がな……」

 自身の手にあるAK74を裕介に差し出す。困惑しながら、裕介は真一から受け取った。

「俺は真一さんを撃てません……これは、仲間を守る為に使いますが良いですか?」

 真一はひとつ頷き答える。

「ああ、充分だぜ……」

 俺達には、お前みたいな奴が必要なんだよ。だがよ、仲間がピンチの時は頼んだぜ、八幡西警察署での約束、裕介がそれを覚えており、はっきりとした決心を口にした。それが嬉しくもあるのか、真一は充実した表情を浮かべる。

「浩太、俺には時間が残されちゃいない。だから、この命はお前らの為に使わせてくれ……頼んだぜ」

 浩太は言葉を返さずに首を縦に動かし、懐から手榴弾を取り出すと真一の掌を両手で包んで渡す。肩を揺らし微笑した真一は、頼もしいぜ、そう呟く。
 上階から甲高く卑俗な声が降ってきたのは、まさにその時だった。
 全員が見上げる先には、カソックを着た小柄な男がいた。悦に入って笑う様は、まるで死神そのものだ。
    達也にとっては聞き慣れた佞悪な哄笑を携え、男が口を開く。

「地はやせ衰えた。世界はしおれ、天はしなびた。地球は人間によって汚れた。人々は神の掟に背き、定めを変え、神の永遠の契約を破ったからである。それゆえ、呪いは地を食らい付くし、人は罪あるものとされる」

 語り口もさることながら、男が歩く度に異質な空気が場を支配していく。浩太は生唾を呑み込もうとしたが、急速に口内の水分を奪われていき、喉を鳴らすに止まり、真一ですらも咬傷から意識を外し、新崎は化け物でも眼にしたかのように眉を寄せた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

二人称・短編ホラー小説集 『あなた』

シルヴァ・レイシオン
ホラー
普通の小説に読み飽きたそこの『あなた』 そんな『あなた』にオススメします、二人称と言う「没入感」+ホラーの旋律にて、是非、戦慄してみて下さい・・・・・・ ※このシリーズ、短編ホラー・二人称小説『あなた』は、色んな"視点"のホラーを書きます。  様々な「死」「痛み」「苦しみ」「悲しみ」「因果」などを描きますので本当に苦手な方、なんらかのトラウマ、偏見などがある人はご遠慮下さい。  小説としては珍しい「二人称」視点をベースにしていきますので、例えば洗脳されやすいような方もご観覧注意、願います。

中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?

ミクリヤミナミ
ファンタジー
仮想空間で活動する4人のお話です。 1.カールの譚 王都で生活する鍛冶屋のカールは、その腕を見込まれて王宮騎士団の魔王討伐への同行を要請されます。騎士団嫌いの彼は全く乗り気ではありませんがSランク冒険者の3人に説得され嫌々魔王が住む魔都へ向かいます。 2.サトシの譚 現代日本から転生してきたサトシは、ゴブリンの群れに襲われて家族を奪われますが、カール達と出会い力をつけてゆきます。 3.生方蒼甫の譚 研究者の生方蒼甫は脳科学研究の為に実験体であるサトシをVRMMORPG内に放流し観察しようとしますがうまく観察できません。仕方がないので自分もVRMMORPGの中に入る事にしますが…… 4.魔王(フリードリヒ)の譚 西方に住む「魔王」はカール達を自領の「クレータ街」に連れてくることに成功しますが、数百年ぶりに天使の襲撃を2度も目撃します。2度目の襲撃を退けたサトシとルークスに興味を持ちますが……

怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo
ホラー
【★◆毎朝6時30分更新◆★】この世には、知ってはいけない話がある。  怪談、都市伝説、語り継がれる呪い——  どれもがただの作り話かもしれない。  だが、それでも時々、**「本物」**が紛れ込むことがある。  本書は、そんな“見つけてしまった”怪異を集めた一冊である。  最後のページを閉じるとき、あなたは“何か”に気づくことになるだろう——。

処理中です...