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第3話
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対照的に、浜岡は極めて明るく答えた。明らかな挑発ともとれる。二人がやり取りを交わせば、それだけ、場の緊張が増していく。
斉藤は、卒爾な事態にも対応すべく両足を外側に向けて素早く身構えた。
「果たして、どういう意味なのか、詳しく教えて頂こうか?」
「それでは、まず、お互いに一つ下がることにしませんか?これでは、まともに話しもできませんよね?」
信条が、すっ、と右手を掲げれば、一団は、ざっ、と後退した。最後部にいるのは、見たところ一般人のようで、反応が少し遅れている。そう気を配りながら、斎藤も同じく一つ下がった。浜岡に余裕がないのであれば、そちらを意識するのは、斎藤の役目だ。
浜岡が口火を切る。
「......結構です。それでは、話をしましょうか、信条さん」
「ならば、最初の質問といこうか。浜岡、なぜ、我々の行動が無意味だと言うのだ?」
「それは、火を見るよりも明らかでしょう。周囲をご覧なさい、誰一人として無関心、あるいは、好奇の目を向ける者だらけです。珍しい行動というものは、それだけで目を引く、そちらにとっては、それで成功かもしれませんが、実りは果たしてあるのでしょうかねえ?」
浜岡が口にした、実り、その一言で信条は破顔した。
「実り、とはよく言ったものだ。私の背後を見てみろ、これこそが私にとっての実りではないか」
その返しに、今度は浜岡が莞爾として言った。
「そうですかね?こちらには、集団心理としか写りませんが?」
「集団心理とは一つの理想に基づいて発生する、いわば、団結だ。そして、団結とは小さな力を大きなものへと発展させる。政府には今回の事件を国民に説明する義務があるにも関わらず、未だ、公表していない。ならば、我々のような団体が動くしかないのではないか?」
「公表なら行われています」
「ならば、尚更だ。テロ行為であれば、日の本という国に立つ我々が決起しなければならない。愛国心の欠片もない無能な人材などに、この国を救えるはずもないのだ!」
声高な宣言と捉えたのだろう、信条の背中を強烈な鬨の声が叩く。
経験と実績からくる確固たる自信、加えて、あげられた歓声を収める器量、やはり、厄介な相手だ。不安そうに眉を寄せた斎藤が、横目で浜岡を窺う。信条が満足気に受け止めた所を見て、浜岡が苦い顔を作っているように感じた。
「政治が腐っている、その意見はお前とて同じなのではないか?どれだけ国民が苦しんでいるか、今の若者がどれだけの負担を強いられているか、お前ならば理解しているだろう?学生は輝かしい未来、夢、などという詭弁に惑わされ、現実を知って少女は身を売り、自ら命を絶つ者も多い。しかし、国は動きも見せられず、あまつさえ、今回の事件に対し、沈黙を貫いている。嘆かわしいとは思わないのか?日本人の誇りは、一体、どこに消え失せたというのだ?九州とて、私からすれば、大切な一国である。だが!動きなど見せずに、ただ無為な時間が流れているだけだ!今こそだ!今こそ、我々、日本国民が矜持を取り戻し、この脅威に立ち向かわなければならない!」
斉藤は、卒爾な事態にも対応すべく両足を外側に向けて素早く身構えた。
「果たして、どういう意味なのか、詳しく教えて頂こうか?」
「それでは、まず、お互いに一つ下がることにしませんか?これでは、まともに話しもできませんよね?」
信条が、すっ、と右手を掲げれば、一団は、ざっ、と後退した。最後部にいるのは、見たところ一般人のようで、反応が少し遅れている。そう気を配りながら、斎藤も同じく一つ下がった。浜岡に余裕がないのであれば、そちらを意識するのは、斎藤の役目だ。
浜岡が口火を切る。
「......結構です。それでは、話をしましょうか、信条さん」
「ならば、最初の質問といこうか。浜岡、なぜ、我々の行動が無意味だと言うのだ?」
「それは、火を見るよりも明らかでしょう。周囲をご覧なさい、誰一人として無関心、あるいは、好奇の目を向ける者だらけです。珍しい行動というものは、それだけで目を引く、そちらにとっては、それで成功かもしれませんが、実りは果たしてあるのでしょうかねえ?」
浜岡が口にした、実り、その一言で信条は破顔した。
「実り、とはよく言ったものだ。私の背後を見てみろ、これこそが私にとっての実りではないか」
その返しに、今度は浜岡が莞爾として言った。
「そうですかね?こちらには、集団心理としか写りませんが?」
「集団心理とは一つの理想に基づいて発生する、いわば、団結だ。そして、団結とは小さな力を大きなものへと発展させる。政府には今回の事件を国民に説明する義務があるにも関わらず、未だ、公表していない。ならば、我々のような団体が動くしかないのではないか?」
「公表なら行われています」
「ならば、尚更だ。テロ行為であれば、日の本という国に立つ我々が決起しなければならない。愛国心の欠片もない無能な人材などに、この国を救えるはずもないのだ!」
声高な宣言と捉えたのだろう、信条の背中を強烈な鬨の声が叩く。
経験と実績からくる確固たる自信、加えて、あげられた歓声を収める器量、やはり、厄介な相手だ。不安そうに眉を寄せた斎藤が、横目で浜岡を窺う。信条が満足気に受け止めた所を見て、浜岡が苦い顔を作っているように感じた。
「政治が腐っている、その意見はお前とて同じなのではないか?どれだけ国民が苦しんでいるか、今の若者がどれだけの負担を強いられているか、お前ならば理解しているだろう?学生は輝かしい未来、夢、などという詭弁に惑わされ、現実を知って少女は身を売り、自ら命を絶つ者も多い。しかし、国は動きも見せられず、あまつさえ、今回の事件に対し、沈黙を貫いている。嘆かわしいとは思わないのか?日本人の誇りは、一体、どこに消え失せたというのだ?九州とて、私からすれば、大切な一国である。だが!動きなど見せずに、ただ無為な時間が流れているだけだ!今こそだ!今こそ、我々、日本国民が矜持を取り戻し、この脅威に立ち向かわなければならない!」
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