342 / 419
第26部 人間
しおりを挟む
都心のビル街が虹色に染まった。踊る横断幕や小旗、うちわが大勢の人間や風に煽られていた。
そこに掲げられたプラカードには、説明責任を果たせ、テロを許すな、等の多用なメッセージが乱暴な筆遣いで書かれていた。一団の中には、涙を流す姿もあり、沿道にいる通行人達が、何事かと目を丸くし、その行進が通りすぎていくのを見送っている。本当にこの世の中は現金なものだ、と浜岡が苦笑し、その隣で斉藤がぽつりと慨嘆を口にした。
「なんて光景だ......これがお前の危惧していた事態というやつか?こんなことをして、一体、なんになると......」
「退廃した日本、世間からすれば、そのように見られてしまいますしねぇ......さて、どうしますか......」
集団が掲げた文字を見る限り、九州地方感染事件がテロリストの仕業だと発表しているのに、なぜ何もしないのか、ということだろう。九州に住んでいる親戚や家族がいる、そのような訴えが拡声器を通して朝のビル街に響き渡った。
そんな中、浜岡はある一人の人物に目をつける。先頭を率先して歩く男に見覚えがある。とある有名な団体を組織していたはずだ。口の中で、なるほど、と呟くと、斉藤の肩を一度叩いて言う。
「斉藤さん......少し、手伝ってもらえますか?」
「それは、構わないが......何をするつもりだ?」
ふと、浜岡を見れば、随分と苦い顔つきをしていた。珍しいこともあるものだ、と口に出す前に、浜岡は踵を返して階段へ向かい始める。その背中を慌てて追いかけた斉藤は、階段の手摺を掴んだ。
「浜岡!待て!何をするんだと訊いているだろう!」
しかし、振り返りもせずに、スタスタとした迷いのない足取りで降りていく。悪態混じりに斉藤も倣う。急ぎ足の音色を聞き取ったのか、甲高い階段の音と浜岡の声が重なった。
「先頭にいた人物に、以前、会ったことがありましてねぇ......まあ、こちらからは、もう、会うことはないとは思っていましたが......」
浜岡の後頭部が、いつもより揺れているようだ。それほど、この男に嫌悪感にも似た感情を抱かせている人物とは、いったい誰なのだろうか。膨らむ疑問に蓋をして、斉藤は歩みを早めると、先を進む浜岡の隣に並んだ。
「お前が、そんな顔をしているとは、本当に稀だな......」
「ええ、彼は個人的に得意ではなくてですねぇ......どうにも気乗りしませんが、あちらで頑張っている方々や田辺君に申し訳が立ちませんし、仕方がありませんね」
諦念を吐いた口元が薄く開いているみたいだ。その微妙は、いつものゆとりを含んでおらず、斉藤は思わず、浜岡の肩を掴んでいた。
そこに掲げられたプラカードには、説明責任を果たせ、テロを許すな、等の多用なメッセージが乱暴な筆遣いで書かれていた。一団の中には、涙を流す姿もあり、沿道にいる通行人達が、何事かと目を丸くし、その行進が通りすぎていくのを見送っている。本当にこの世の中は現金なものだ、と浜岡が苦笑し、その隣で斉藤がぽつりと慨嘆を口にした。
「なんて光景だ......これがお前の危惧していた事態というやつか?こんなことをして、一体、なんになると......」
「退廃した日本、世間からすれば、そのように見られてしまいますしねぇ......さて、どうしますか......」
集団が掲げた文字を見る限り、九州地方感染事件がテロリストの仕業だと発表しているのに、なぜ何もしないのか、ということだろう。九州に住んでいる親戚や家族がいる、そのような訴えが拡声器を通して朝のビル街に響き渡った。
そんな中、浜岡はある一人の人物に目をつける。先頭を率先して歩く男に見覚えがある。とある有名な団体を組織していたはずだ。口の中で、なるほど、と呟くと、斉藤の肩を一度叩いて言う。
「斉藤さん......少し、手伝ってもらえますか?」
「それは、構わないが......何をするつもりだ?」
ふと、浜岡を見れば、随分と苦い顔つきをしていた。珍しいこともあるものだ、と口に出す前に、浜岡は踵を返して階段へ向かい始める。その背中を慌てて追いかけた斉藤は、階段の手摺を掴んだ。
「浜岡!待て!何をするんだと訊いているだろう!」
しかし、振り返りもせずに、スタスタとした迷いのない足取りで降りていく。悪態混じりに斉藤も倣う。急ぎ足の音色を聞き取ったのか、甲高い階段の音と浜岡の声が重なった。
「先頭にいた人物に、以前、会ったことがありましてねぇ......まあ、こちらからは、もう、会うことはないとは思っていましたが......」
浜岡の後頭部が、いつもより揺れているようだ。それほど、この男に嫌悪感にも似た感情を抱かせている人物とは、いったい誰なのだろうか。膨らむ疑問に蓋をして、斉藤は歩みを早めると、先を進む浜岡の隣に並んだ。
「お前が、そんな顔をしているとは、本当に稀だな......」
「ええ、彼は個人的に得意ではなくてですねぇ......どうにも気乗りしませんが、あちらで頑張っている方々や田辺君に申し訳が立ちませんし、仕方がありませんね」
諦念を吐いた口元が薄く開いているみたいだ。その微妙は、いつものゆとりを含んでおらず、斉藤は思わず、浜岡の肩を掴んでいた。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
僕が見た怪物たち1997-2018
サトウ・レン
ホラー
初めて先生と会ったのは、1997年の秋頃のことで、僕は田舎の寂れた村に住む少年だった。
怪物を探す先生と、行動を共にしてきた僕が見てきた世界はどこまでも――。
※作品内の一部エピソードは元々「死を招く写真の話」「或るホラー作家の死」「二流には分からない」として他のサイトに載せていたものを、大幅にリライトしたものになります。
〈参考〉
「廃屋等の取り壊しに係る積極的な行政の関与」
https://www.soumu.go.jp/jitidai/image/pdf/2-160-16hann.pdf
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる