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第5話
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「ああ、そのつもりだ。確かに、不安は残るけど、生き残りたいって気持ちは新崎も持ってる以上、間違いはないと思う」
「そっか......まあ、真一もいるしな。けど、用心にこしたことはねえぞ、それだけは覚えといてくれ」
浩太が首肯したのを視認して、達也は小倉への道順へ話題を変えた。
高速道路は、途中で車の事故が起きている場合も考慮すると使えない。ならば、浩太と真一、達也が門司から黒崎へ移動した際の道順が、馴れているという意味でも最適だろうか。それとも、夜になると、大勢の走り屋が現れていた貯水地の山道をいくべきか。だが、ただでさえ、爆発的に増えている死者を相手に、見通しの悪い山道を進んでいメリットはどこにあるのかと首を傾げてしまう。
「陣原から黒崎バイパスを抜けるのは、どうだ?」
達也の提案に、浩太は思案気に口元を掌で隠してから、渋面する。
「その道は、まだ通ったことがない。少しばかり不安があるな......」
「けど、一気に黒崎を通過できるだろ?」
「......バイパスは黒崎の渋滞を避けるために作られたもんだ。玉突き事故が起きている可能性は十分に考えられる」
浩太の反駁に、押し黙った達也は再び、思考を巡らせ始め、やがて、頭を抱えて唸り始めた。
「それなら、やっぱり桃園を通って八幡東区に入る方が良いと思うぜ」
その声に振り返った浩太は、新崎の背中に銃口を突き付けた真一を認めた。新崎の肩越しに、真一の提案を訊いた達也が尋ねる。
「もう、準備は終わったみてえだな」
「ああ、どうにかな。もうすぐ、三人も来るだろうぜ。それよりもだ、まだ、どう小倉に行くのか決めてないなら、俺が言ったルートはどう?」
真一が、ぐりっ、と視線を浩太に向けた。
「ああ、俺もそう思ってはいるけど......」
「引っ掛かってるって言い方だぜ?話してみろよ」
浩太は、一度だけ息をついて、苛立ちからだろうか、頭をかきむしった。そして、改めて二人を見てから口を開く。
「小倉から俺達が来たときは、まだ三人だけだったろ?けど、今は祐介達がいる、そう考えるとな......」
なるほど、と達也は呟く。
八幡西警察署に辿り着く前、あの時の出来事が浩太の決断に陰を落としているようだ。黒崎地区に集う死者の数は、数えるのが嫌になるほど膨大だった。それに加えて、達也のこともあり、浩太が慎重になるのも無理はないだろう。もしも、また、誰かと離れてしまった場合、田辺のことを視野に入れれば助けに戻れない可能性が高い。浩太にとって最大の憂慮は、まさにそこにある。
「そっか......まあ、真一もいるしな。けど、用心にこしたことはねえぞ、それだけは覚えといてくれ」
浩太が首肯したのを視認して、達也は小倉への道順へ話題を変えた。
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「陣原から黒崎バイパスを抜けるのは、どうだ?」
達也の提案に、浩太は思案気に口元を掌で隠してから、渋面する。
「その道は、まだ通ったことがない。少しばかり不安があるな......」
「けど、一気に黒崎を通過できるだろ?」
「......バイパスは黒崎の渋滞を避けるために作られたもんだ。玉突き事故が起きている可能性は十分に考えられる」
浩太の反駁に、押し黙った達也は再び、思考を巡らせ始め、やがて、頭を抱えて唸り始めた。
「それなら、やっぱり桃園を通って八幡東区に入る方が良いと思うぜ」
その声に振り返った浩太は、新崎の背中に銃口を突き付けた真一を認めた。新崎の肩越しに、真一の提案を訊いた達也が尋ねる。
「もう、準備は終わったみてえだな」
「ああ、どうにかな。もうすぐ、三人も来るだろうぜ。それよりもだ、まだ、どう小倉に行くのか決めてないなら、俺が言ったルートはどう?」
真一が、ぐりっ、と視線を浩太に向けた。
「ああ、俺もそう思ってはいるけど......」
「引っ掛かってるって言い方だぜ?話してみろよ」
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なるほど、と達也は呟く。
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