311 / 419
第16話
しおりを挟む
「......もしもの場合の退路もあって、背が高く、内部の作りも単純......分かった、そこにしよう。ありがとう祐介」
祐介の肩に軽く手を置いてから、浩太は携帯へ目線を移した。
「田辺さん、小倉のあるあるシティってとこで決定だ」
「わかりました。こちらでも、調べた上で向かいます。昼までには到着するよう努めます」
「ああ......頼んだよ」
「......みなさんの幸運を祈っています」
すっ、と浩太が電源ボタンへ指を伸ばそうとした直後、これまで黙っていた新崎が、突然、縛られた身体を必死に捻りながら声を荒げた。
「待ってくれ!田辺さん!優奈は!俺の娘は無事なのか!?それだけ!それだけ聞かせてくれ!頼む!」
そんな新崎とは、対照的に、田辺は低い声で呟くように言った。
「優奈......?それは、新崎優奈さん......という意味ですか......?」
その名前を耳にした瞬間、新崎は破顔する。憔悴しきっていた瞳に力が戻り、田辺に見えるはずもないのに、何度となく首肯したが、田辺の反応は鈍いものだった。
新崎の表情が、快晴の空から曇天へと変わっていく。事の成り行きに着いていけない浩太と祐介は、渋面したまま首を傾げているが、周りの状況など意に介さず、新崎は這いずりながらも、携帯へ近づいた。
「まさか......優奈の何かあったのか......?答えろ!野田、そこにいるんだろうが!おい!答えろ!答えろ、野田ァァァ!」
血相を変えて携帯へと迫った新崎は、咄嗟に動いた浩太により抑えられ、呻吟するも、見開かれた双眸を、決して離そうとはしなかった。
新崎が鬼気迫る面持ちを保ったまま、肩で激しい呼吸を繰り返す中、ようやく田辺が重い口を開いた。
「......新崎優奈さんは......」
そこで、突如、携帯から不穏な音声が聞こえ、三人は一斉に携帯へと視線を移す。見れば、ディスプレイの光が消えかけており、堪らず新崎は、強引に身を捩って浩太を振り払うと、電話に向かって絶叫した。
「優奈は!優奈がどうした!?おい!野田!田辺!おい!ざけんなよ!優奈!優奈ァァァ!」
「くっそ!黙れ新崎!」
浩太は、新崎の後頭部を鷲掴みにすると、口を床に押し当てた。
くぐもった声を漏らす以上、死者に気づかれる可能性があり、離す訳にもいかず、小さく悪態を吐くと、祐介に短く言った。
「祐介、皆を呼んできてくれ......」
こくん、と認めた祐介は、素早く立ち上がり扉へと走り出す。そして、背中を見送った浩太は、深い吐息をつくと新崎へ視線を落として、再度、溜息をついた。
祐介の肩に軽く手を置いてから、浩太は携帯へ目線を移した。
「田辺さん、小倉のあるあるシティってとこで決定だ」
「わかりました。こちらでも、調べた上で向かいます。昼までには到着するよう努めます」
「ああ......頼んだよ」
「......みなさんの幸運を祈っています」
すっ、と浩太が電源ボタンへ指を伸ばそうとした直後、これまで黙っていた新崎が、突然、縛られた身体を必死に捻りながら声を荒げた。
「待ってくれ!田辺さん!優奈は!俺の娘は無事なのか!?それだけ!それだけ聞かせてくれ!頼む!」
そんな新崎とは、対照的に、田辺は低い声で呟くように言った。
「優奈......?それは、新崎優奈さん......という意味ですか......?」
その名前を耳にした瞬間、新崎は破顔する。憔悴しきっていた瞳に力が戻り、田辺に見えるはずもないのに、何度となく首肯したが、田辺の反応は鈍いものだった。
新崎の表情が、快晴の空から曇天へと変わっていく。事の成り行きに着いていけない浩太と祐介は、渋面したまま首を傾げているが、周りの状況など意に介さず、新崎は這いずりながらも、携帯へ近づいた。
「まさか......優奈の何かあったのか......?答えろ!野田、そこにいるんだろうが!おい!答えろ!答えろ、野田ァァァ!」
血相を変えて携帯へと迫った新崎は、咄嗟に動いた浩太により抑えられ、呻吟するも、見開かれた双眸を、決して離そうとはしなかった。
新崎が鬼気迫る面持ちを保ったまま、肩で激しい呼吸を繰り返す中、ようやく田辺が重い口を開いた。
「......新崎優奈さんは......」
そこで、突如、携帯から不穏な音声が聞こえ、三人は一斉に携帯へと視線を移す。見れば、ディスプレイの光が消えかけており、堪らず新崎は、強引に身を捩って浩太を振り払うと、電話に向かって絶叫した。
「優奈は!優奈がどうした!?おい!野田!田辺!おい!ざけんなよ!優奈!優奈ァァァ!」
「くっそ!黙れ新崎!」
浩太は、新崎の後頭部を鷲掴みにすると、口を床に押し当てた。
くぐもった声を漏らす以上、死者に気づかれる可能性があり、離す訳にもいかず、小さく悪態を吐くと、祐介に短く言った。
「祐介、皆を呼んできてくれ......」
こくん、と認めた祐介は、素早く立ち上がり扉へと走り出す。そして、背中を見送った浩太は、深い吐息をつくと新崎へ視線を落として、再度、溜息をついた。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる