感染

宇宙人

文字の大きさ
上 下
302 / 419

第7話

しおりを挟む
「話を続けますが、新崎さんには、選択肢なんかないってことは、もう理解してもらえたと思います。そして、これからどうしたら良いのかも」

 言葉を区切られた新崎の姿は、もはや陸にあげられた魚だった。後ろ手で縛られていることが、余計にイメージへ拍車をかける。もう、反論の余地はない。その場しのぎの抗弁は、自身の肩身を狭くしただけだ。
 立ち上がった祐介を見上げているだけで、口の振動が全身に広がっていく。

「お前......なんなんだ......?」

「別に驚くことじゃないでしょ、仲間がいれば、狭まった視野を広げてくれる。ただ、それだけです」

 淡々と述べていった祐介は、ふいと顔を浩太へ向け微笑んだ。

「祐介......お前......」

「こっから先は、浩太さんに預けます。でしゃばってすいませんでした」

 浩太の脇を通り、祐介が地面に腰を下ろそうと屈んだ、まさにその時、携帯電話が激しく振動を始め、肝が潰れるほどの大声をあげた浩太は、思わず、携帯を落としてしまった。
 真一と達也、祐介や新崎すらも、瞠目して規則的に揺れる携帯電話と、淡い光を放つ画面を注視している。
    番号しか表示されていない、と確認した浩太が、恐る恐る拾い上げると、新崎へ画面を見せた。逡巡しているのか、眉をひそめた新崎に、刺すような冷たい声音で祐介が言った。

「新崎さん、その沈黙に意味はありませんよ」

 奥歯を噛み締め、ゆっくりと頷く。
 浩太は真一、達也、祐介の順番に首を回していき、一巡すると同時に通話ボタンへ指を伸ばし、強張った表情で携帯を耳に当てた。

「......もしもし?」

 受話越しに聞こえてきたのは、壮年の男性の声だった。

「ああ!良かった!繋がった!もしもし、聴こえていますか?ノイズが酷いといった弊害はありますか!?」

 耳を着けていても四人が聞き取れるほどの声の大きさに、浩太は反射的に耳から離す。電話相手は、興奮した口調で、いろいろと質問を繰り返している。その危険性に一早く気付いた達也が鋭く言う。

「浩太、早く抑えろ!死者に勘づかれちまう!」

 素早く親指で塞ぎ、浩太は通話口に向かって言った。

「頼むから落ち着いてくれ!こっちはアンタが考えてるほど、甘い状況じゃないんだ!」

 その一声で、相手のトーンが下がっていき、深呼吸が聴こえた後に、壮年の男は静かに謝罪を挟んだ。 

「......本当にすいません、僕の不注意でした」

「今更だ。で、ひとつ聞きたいことがある。アンタ......一体、誰だ?」

 浩太は、尋ねてから息を呑んだ。
 男の話し方からして、新崎と繋がっていた男ではないだろう。それは、まず間違いない。だとすれば、新たな疑問が生まれる。はたして、この男は味方なのか。それとも、こちらを油断させようとしているのか。その見極めとして、浩太は新崎を横目で盗み見たが、新崎の面持ちは、訳が分からない、と如実に語っていた。電話の先で、男性が喉を鳴らす。相手もなんらかの警戒をしているのか、と頭の片隅で考えていると、不意に、浩太の耳へ男の声が吸い込まれた。

「......初めまして、僕は東京で記者をしている田辺と申します」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

シカガネ神社

家紋武範
ホラー
F大生の過去に起こったホラースポットでの行方不明事件。 それのたった一人の生き残りがその惨劇を百物語の百話目に語りだす。 その一夜の出来事。 恐怖の一夜の話を……。 ※表紙の画像は 菁 犬兎さまに頂戴しました!

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...