283 / 419
第3話
しおりを挟む
この状況を切り抜けるには、これしか手段はない。
例え信じられずとも、田辺達には証拠がある。確かな勝算を持ちながらも、一度振り返った。
黒服の三人に捕らわれた野田は顔を伏せている。
斎藤は、瞼を閉ざして頷き、浜岡は不安と期待が入り交じった、なんとも形容しがたい面持ちで目を背けた。君が決めるべきだ、そんな声が聴こえてきそうだ。
田辺は、藤堂に向き直る。
「九州地方感染事件、その黒幕は、そちらにいる野田さんと戸部総理です」
瞬間、警官達から一斉にどよめきが上がった。藤堂の目尻にも狐疑の色が満ちていき、ほんの僅かな時間だけ沈黙した。
だが、すぐに、いつもの鋭さを取り戻していき、深い溜め息を吐き出すと首を振った。
「何を言うかと思えば、そんな世迷い言か......」
「世迷い言などではありません、事実です」
藤堂が言い切る前に、口を挟んだのは斎藤だ。
「確かに、俺もこの目で証拠になり得る現場を目撃しています。間違いありません」
「......お前、頭でもおかしくなったのか?」
藤堂の猜疑心は晴れない。今まで何もしていないのだから、それも当然と言える。関わらなければ、人は自分から動くことなどないし、ましてや、首を突っ込むことなど、あり得ないだろう。届かない理解ほど苦しいことはない。
斎藤としても、野田の発言に期待するしかないのだが、当人は何をするでもなく、力なく俯いているだけだ。
やれやれ、と改めて吐息で区切った藤堂の呆れに、田辺は肩を震わせた。
「田辺君、だったか?そろそろ、良いか?我々も暇ではないのでな」
「待って下さい!まだ、話しは......!」
「話しは十分に訊いた。その結果、聞く価値はないと判断する。おい!」
藤堂の一声で、先頭にいた壮年の警官が身構えた。
甘かった、と痛感する。焦りから自分一人になりすぎていた。そう、藤堂を始めとした警官達は、地下での一件には居なかったのだ。何が、例え信じられずともだ。端から、信じられぬ要素を多分に含んでいる事件と捉えていたはずなのに、自分本意で話しを進めてしまった。
なんとも、情けない話しだ。一斉に、動き始めた警官達は、捜査官と二手に別れて行動を開始する。屈強な男性に取り押さえられた田辺や浜岡、斎藤は膝を着かされ、黒服の三人は背中に隠していた銃も押収された。
奥歯を噛み締め、田辺は隣にいる浜岡へ言った。
「浜岡さん......すみません......」
「焦りすぎだよ田辺君、何をそんなに心配しているんだい?いずれは、野田さんも発言するだろうし、ここで解決する必要はなかったんだ」
例え信じられずとも、田辺達には証拠がある。確かな勝算を持ちながらも、一度振り返った。
黒服の三人に捕らわれた野田は顔を伏せている。
斎藤は、瞼を閉ざして頷き、浜岡は不安と期待が入り交じった、なんとも形容しがたい面持ちで目を背けた。君が決めるべきだ、そんな声が聴こえてきそうだ。
田辺は、藤堂に向き直る。
「九州地方感染事件、その黒幕は、そちらにいる野田さんと戸部総理です」
瞬間、警官達から一斉にどよめきが上がった。藤堂の目尻にも狐疑の色が満ちていき、ほんの僅かな時間だけ沈黙した。
だが、すぐに、いつもの鋭さを取り戻していき、深い溜め息を吐き出すと首を振った。
「何を言うかと思えば、そんな世迷い言か......」
「世迷い言などではありません、事実です」
藤堂が言い切る前に、口を挟んだのは斎藤だ。
「確かに、俺もこの目で証拠になり得る現場を目撃しています。間違いありません」
「......お前、頭でもおかしくなったのか?」
藤堂の猜疑心は晴れない。今まで何もしていないのだから、それも当然と言える。関わらなければ、人は自分から動くことなどないし、ましてや、首を突っ込むことなど、あり得ないだろう。届かない理解ほど苦しいことはない。
斎藤としても、野田の発言に期待するしかないのだが、当人は何をするでもなく、力なく俯いているだけだ。
やれやれ、と改めて吐息で区切った藤堂の呆れに、田辺は肩を震わせた。
「田辺君、だったか?そろそろ、良いか?我々も暇ではないのでな」
「待って下さい!まだ、話しは......!」
「話しは十分に訊いた。その結果、聞く価値はないと判断する。おい!」
藤堂の一声で、先頭にいた壮年の警官が身構えた。
甘かった、と痛感する。焦りから自分一人になりすぎていた。そう、藤堂を始めとした警官達は、地下での一件には居なかったのだ。何が、例え信じられずともだ。端から、信じられぬ要素を多分に含んでいる事件と捉えていたはずなのに、自分本意で話しを進めてしまった。
なんとも、情けない話しだ。一斉に、動き始めた警官達は、捜査官と二手に別れて行動を開始する。屈強な男性に取り押さえられた田辺や浜岡、斎藤は膝を着かされ、黒服の三人は背中に隠していた銃も押収された。
奥歯を噛み締め、田辺は隣にいる浜岡へ言った。
「浜岡さん......すみません......」
「焦りすぎだよ田辺君、何をそんなに心配しているんだい?いずれは、野田さんも発言するだろうし、ここで解決する必要はなかったんだ」
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる