275 / 419
第15話
しおりを挟む
口にすることを憚られる恣意的な判断でもある。だが、成功すれば、確実に負担を減らせるだろう。しかし、予想が外れた場合、もっとも危険な選択をしてしまうことになる。祐介は懊悩するあまり、頼りない目付きで真一を見上げた。
「話せよ祐介、ここで手をこまねいていても一緒だぜ?それに……」
真一は、言葉を区切り、死者の群れへ顔を逸らす。
重なりあう伸吟は、こうしている間にも、どんどん増えていっている。時間が足りないとも自覚した上で、改めて真一が言った。
「俺達がやれば、きっとどうにかなる。いや、絶対に巧くやれるぜ」
「真一さん......」
そうだ。このままでは、アパッチを撃墜する役目を受け持った浩太と達也に顔向けすることが出来ない。
意を決して、祐介は指を上げた。
「あちらから、死者が一人も来ていないことには、気付きましたか?」
祐介の指先が示したのは、死者の群れから真逆の位置だ。真一は、神妙な顔で頷く。
「ああ、それには気づいていた。けれど、逆に不気味だぜ......」
真一の気持ちは、痛いほど理解できる。死者の侵入がない、とは言ったものの、死者がいないとは断言できない。
慎重に、かつ、大胆な行動が必要な事態ではあるが、勇気と無謀は大きく違う。真一の意見は、そんなニュアンスが含まれていることを察した上で、祐介は首を振った。
「不気味ではありますが、ここで手をこまねいていても時間が過ぎるばかりです。なら、現状だけでも確認しておくに越したことはないです」
顎を引いて唸った真一は、ちらりと死者の大群を横目で認めた。
未だに、集い続けている死者達が、アパッチに釘付けにされている今ならば、祐介の提案に乗れるかもしれない。
いや、今だからこそだ。一か八かの賭けになるが、新たな案が浮かばない。こうなれば仕方がないとばかりに、真一は首を縦に振った。
「分かった、それでいこう。いいか、祐介、俺が先にいく。背中は任せたぜ」
祐介が黙って首肯すると、真一が一歩を踏み出した。
これほど、丁寧に地面へ注意を向けたことがあるだろうか。二人の足音一つが、そのまま、全員の死へ直結する。それを嫌というほど智見してきただけに、真一は、とても貴重な物でも扱うかのように神経を尖らせた。
幸いにも、アパッチのプロペラ音が重なっており、死者から気付かれることもなく、二人は揃って吹き抜けを突破する。吐き気がしているのは、間違いなく気のせいではないだろう。
「話せよ祐介、ここで手をこまねいていても一緒だぜ?それに……」
真一は、言葉を区切り、死者の群れへ顔を逸らす。
重なりあう伸吟は、こうしている間にも、どんどん増えていっている。時間が足りないとも自覚した上で、改めて真一が言った。
「俺達がやれば、きっとどうにかなる。いや、絶対に巧くやれるぜ」
「真一さん......」
そうだ。このままでは、アパッチを撃墜する役目を受け持った浩太と達也に顔向けすることが出来ない。
意を決して、祐介は指を上げた。
「あちらから、死者が一人も来ていないことには、気付きましたか?」
祐介の指先が示したのは、死者の群れから真逆の位置だ。真一は、神妙な顔で頷く。
「ああ、それには気づいていた。けれど、逆に不気味だぜ......」
真一の気持ちは、痛いほど理解できる。死者の侵入がない、とは言ったものの、死者がいないとは断言できない。
慎重に、かつ、大胆な行動が必要な事態ではあるが、勇気と無謀は大きく違う。真一の意見は、そんなニュアンスが含まれていることを察した上で、祐介は首を振った。
「不気味ではありますが、ここで手をこまねいていても時間が過ぎるばかりです。なら、現状だけでも確認しておくに越したことはないです」
顎を引いて唸った真一は、ちらりと死者の大群を横目で認めた。
未だに、集い続けている死者達が、アパッチに釘付けにされている今ならば、祐介の提案に乗れるかもしれない。
いや、今だからこそだ。一か八かの賭けになるが、新たな案が浮かばない。こうなれば仕方がないとばかりに、真一は首を縦に振った。
「分かった、それでいこう。いいか、祐介、俺が先にいく。背中は任せたぜ」
祐介が黙って首肯すると、真一が一歩を踏み出した。
これほど、丁寧に地面へ注意を向けたことがあるだろうか。二人の足音一つが、そのまま、全員の死へ直結する。それを嫌というほど智見してきただけに、真一は、とても貴重な物でも扱うかのように神経を尖らせた。
幸いにも、アパッチのプロペラ音が重なっており、死者から気付かれることもなく、二人は揃って吹き抜けを突破する。吐き気がしているのは、間違いなく気のせいではないだろう。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
【完結】『霧原村』~少女達の遊戯が幽の地に潜む怪異を招く~
潮ノ海月
ホラー
五月の中旬、昼休中に清水莉子と幸村葵が『こっくりさん』で遊び始めた。俺、月森和也、野風雄二、転校生の神代渉の三人が雑談していると、女子達のキャーという悲鳴が。その翌日から莉子は休み続け、学校中に『こっくりさん』の呪いや祟りの噂が広まる。そのことで和也、斉藤凪紗、雄二、葵、渉の五人が莉子の家を訪れると、彼女の母親は憔悴し、私室いた莉子は憑依された姿になっていた。莉子の家から葵を送り届け、暗い路地を歩く渉は不気味な怪異に遭遇する。それから恐怖の怪奇現象が頻発し、ついに女子達が犠牲に。そして怪異に翻弄されながらも、和也と渉の二人は一つの仮説を立て、思ってもみない結末へ導かれていく。【2025/3/11 完結】
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる