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第9話
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※※※ ※※※
「......あ?なんの音だぁ?こりゃあ」
右手だけで男性の使徒を持ち上げたまま、東は空を仰いだ。
完全に元に戻ったかどうかの手慣らしといった具合に、ショッパーズモールの裏手に集まっていた使徒を素手で倒し続け、筋力の衰えすら感じなくなった所で、アパッチのチェインガンが響かせた轟音に気付いた。プロペラの回転音で、いつもなら察しているであろう東は、盛大な舌打ちとともに、使徒をゴミでも捨てるように投げる。高揚しすぎている。しすぎているからこそ、いつものような冷静さを失っていた。
東は、一度だけ首を横に振ると、改めてアパッチへ視線を向け、ある一点に強い疑問を抱いた。
ある国の国旗だ。まず、今回の事件で動くのであれば、日本の自衛隊でなければならない。では、なぜ違う国旗を掲げた機体がここにいるのだろうか。加えて、これまでに日本人の自衛官を何人みてきたか、といった方向へ思考をシフトさせる。明らかに釣り合いがとれていない。これについて考えば、安全が完璧に確認できるまで規制がかけられている、で一応の一区切りはつく。だが、他国であることのほうは得心がいかない。
東は、次に今回の事件について、先入観を捨てて全体に思索を巡らせる。まず、落下地点とされている皿倉山、あれは事故ではなく人為的に起きた出来事だとすれば、どうだろうか。
まず、旅客機の通過地点を調べることだが、これは、情報社会と呼ばれる現在、どうとでもなる。次に、旅客機を墜落させるには、どうするかだが、やはり、ミサイルなどの強力な武器さえあればクリアできる。ならば、日本でその武器があるのはどこだろう。当然、扱えることが前提となるので、非合法なものではいけないとなれば、真っ先に自衛隊が思い付く。その自衛隊を実質的に動かせる人材、なかでも海外にまで声を掛けることができる人物、そうなると話しは簡単だ。
東の脳裏に、ある男が浮上すると、ニイィ、と怪しく唇をつりあげた。
「そうか......そうか、そうか、そういうことかよ。もしも、その通りだとしたら......」
東は、身体を九の字に曲げ、両腕で腹部を押さえつけた。全身が激しく震え始めると、勢いよく顔を空へ振り上げた。
「ひひひひひ......ひひ......くひ、くひひひひひ......ひゃーーははははは!はははははは!愛されてんなぁ俺って奴はよお!ひゃーーははははは!」
膝を折り、その場に座り込んだ東は、息が吸えなくなるほどに、爆笑していた。周囲には、数多の使徒の死体があり、その光景は誰が見ても異質に映るだろう。
「どれだけ、恋い焦がれてんだよ!どれだけ俺が憎いんだ!さいっこうだよ!さいっこうにイカれちまったのかよ、テメエはよお!」
その時、積み上げられた屍の中から、一人の使徒が匍匐して現れ、哄笑する東の太股に歯を突き立てた。ところが、東は見悶える仕草もなく、大声で笑い続ける。
「まるで、スターリンの暴力性が別の形で現れたみてえだよ!このまま、トップから奪って、独裁政権に移行してでも、俺を殺すつもりかぁ!これまでの独裁者のように、我儘を貫き通すのかよ!どれだけ犠牲を払ってでもなぁ!」
ちらり、と目線をむけた先には、太股の肉を引きちぎろうとしている使徒がいる。東は、優しく頭を撫でると、髪を鷲掴んで引き上げた。
「......あ?なんの音だぁ?こりゃあ」
右手だけで男性の使徒を持ち上げたまま、東は空を仰いだ。
完全に元に戻ったかどうかの手慣らしといった具合に、ショッパーズモールの裏手に集まっていた使徒を素手で倒し続け、筋力の衰えすら感じなくなった所で、アパッチのチェインガンが響かせた轟音に気付いた。プロペラの回転音で、いつもなら察しているであろう東は、盛大な舌打ちとともに、使徒をゴミでも捨てるように投げる。高揚しすぎている。しすぎているからこそ、いつものような冷静さを失っていた。
東は、一度だけ首を横に振ると、改めてアパッチへ視線を向け、ある一点に強い疑問を抱いた。
ある国の国旗だ。まず、今回の事件で動くのであれば、日本の自衛隊でなければならない。では、なぜ違う国旗を掲げた機体がここにいるのだろうか。加えて、これまでに日本人の自衛官を何人みてきたか、といった方向へ思考をシフトさせる。明らかに釣り合いがとれていない。これについて考えば、安全が完璧に確認できるまで規制がかけられている、で一応の一区切りはつく。だが、他国であることのほうは得心がいかない。
東は、次に今回の事件について、先入観を捨てて全体に思索を巡らせる。まず、落下地点とされている皿倉山、あれは事故ではなく人為的に起きた出来事だとすれば、どうだろうか。
まず、旅客機の通過地点を調べることだが、これは、情報社会と呼ばれる現在、どうとでもなる。次に、旅客機を墜落させるには、どうするかだが、やはり、ミサイルなどの強力な武器さえあればクリアできる。ならば、日本でその武器があるのはどこだろう。当然、扱えることが前提となるので、非合法なものではいけないとなれば、真っ先に自衛隊が思い付く。その自衛隊を実質的に動かせる人材、なかでも海外にまで声を掛けることができる人物、そうなると話しは簡単だ。
東の脳裏に、ある男が浮上すると、ニイィ、と怪しく唇をつりあげた。
「そうか......そうか、そうか、そういうことかよ。もしも、その通りだとしたら......」
東は、身体を九の字に曲げ、両腕で腹部を押さえつけた。全身が激しく震え始めると、勢いよく顔を空へ振り上げた。
「ひひひひひ......ひひ......くひ、くひひひひひ......ひゃーーははははは!はははははは!愛されてんなぁ俺って奴はよお!ひゃーーははははは!」
膝を折り、その場に座り込んだ東は、息が吸えなくなるほどに、爆笑していた。周囲には、数多の使徒の死体があり、その光景は誰が見ても異質に映るだろう。
「どれだけ、恋い焦がれてんだよ!どれだけ俺が憎いんだ!さいっこうだよ!さいっこうにイカれちまったのかよ、テメエはよお!」
その時、積み上げられた屍の中から、一人の使徒が匍匐して現れ、哄笑する東の太股に歯を突き立てた。ところが、東は見悶える仕草もなく、大声で笑い続ける。
「まるで、スターリンの暴力性が別の形で現れたみてえだよ!このまま、トップから奪って、独裁政権に移行してでも、俺を殺すつもりかぁ!これまでの独裁者のように、我儘を貫き通すのかよ!どれだけ犠牲を払ってでもなぁ!」
ちらり、と目線をむけた先には、太股の肉を引きちぎろうとしている使徒がいる。東は、優しく頭を撫でると、髪を鷲掴んで引き上げた。
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