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第14話
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「野田さん、我々はこの事を記事として世の中に出します。そうなれば、世間の批判、いえ、それだけではすまないでしょうね......貴方は、全てを失うことになるでしょう」
「だろうな......そんなことはお前よりも理解しているよ」
ニヒルな笑みを浮かべ、野田は言った。その横顔からは、落胆の色が窺える。戸部という蟻の一穴が、野田の牙城を崩す切っ掛けになったのかもしれない。
さきほど、野田は戸部に対し、独裁者のように幼稚な思考と言った。加えて嘘とは理想とも口にしている。今になって振り返れば、自身への皮肉だったのだろう。
「理想は......理想にしかなり得ない......夢のようなものなんです。一度見てしまった悪夢は、記憶には残りますが、現実では起こり得ない。野田さん、貴方の夢はここで終わりにしませんか?」
田辺が右足を出して、野田へと距離を縮める。
これで、全てに片が付く。そう三人が思った矢先、いつの間にか、野田の左手に拳銃が握られていた。田辺が息を呑んだ。すう、とあげられていく拳銃は、ぴたりと眉間の位置で停止する。
「すまない、田辺……俺に諦めるという選択肢は選べない」
野田の眼に、力が籠ると同時に、凶弾を撃ち出す火薬音が室内に響いた。
それは、野田の放った銃弾ではなく、三人の背後に立っていた黒服の一人が撃ち放った弾丸だ。それは、吸い込まれるような正確さで、野田の肩を貫く。硝煙を上げている銃を手にしているのは、あの若い男だった。
唸りながら、膝をついた野田をすぐさま、隊長と呼ばれていた屈強な男が取り押さえる。同時に、側近の外国人にも、残った一人が銃口を合わせている。突然の事態に、状況を追えない一同へ若い男が言った。
「仕事と感情、人間として優先するのは、感情だとは思いませんか?」
若い男の視線の先には、屍を貪る新崎優奈の姿があり、田辺は目を閉じて首を縦にゆっくりと動かした。
「その通りだと......思います。いつだって子供は、大人の理想を押し付けられてしまう。僕らは、そんな簡単なことを見逃して、犠牲を出して初めて気付く」
田辺は、一度だけ床に抑え込まれた野田は見下ろして、檻のなかにいる新崎優奈をみた。
醜悪で、醜怪で、下品で、賤劣な見た目だ。けれども、こうなった理由には、全て大人が関わっている。その事実に、自らが深く関わっていることを思うと、知らぬ間に、目頭から涙が溢れだす。言葉になんかならなかった。ただただ、すまない、としか言えない自分が許せなかった。
「田辺......もう、行こう。ここにいても、なにも始まらない......すぐにでも脱出したほうが良い......」
斎藤が沈痛な面持ちで田辺の肩に手を置いた。皆が同じ心境なのだろう。目元を拭った田辺は、隊長と呼ばれていた男に言った。
「......すみませんが、野田さんの拳銃を渡してもらえますか?」
一瞬、怪訝そうに眉をひそめた男に、田辺は新崎優奈を目で示して見せる。それだけで何をするつもりなのか、理解したのだろう。野田から手荒に拳銃を奪うと、田辺へ差し出す。
「出来るだけ近づいて撃つんだぞ......あの娘を……彼女を......楽にしてやれ......」
田辺はなにも返さずに頷き、銃をしっかりと握りこむと、静かに新崎優奈へと歩み寄っていく。夢中になって、戸部の肉体を貪る姿に、かつてあったであろう、無邪気に玩具で遊ぶ少女の面影が見えた気がして、田辺は唇を噛み締めた。
迷っているときではない。
一心不乱に、臓器を口へと運んでいる少女のこめかみに、銃口を当てた瞬間、新崎優奈が血にまみれた顔を、田辺へと一気に向ける。
そして、一発の乾いた銃声が響いた。
「だろうな......そんなことはお前よりも理解しているよ」
ニヒルな笑みを浮かべ、野田は言った。その横顔からは、落胆の色が窺える。戸部という蟻の一穴が、野田の牙城を崩す切っ掛けになったのかもしれない。
さきほど、野田は戸部に対し、独裁者のように幼稚な思考と言った。加えて嘘とは理想とも口にしている。今になって振り返れば、自身への皮肉だったのだろう。
「理想は......理想にしかなり得ない......夢のようなものなんです。一度見てしまった悪夢は、記憶には残りますが、現実では起こり得ない。野田さん、貴方の夢はここで終わりにしませんか?」
田辺が右足を出して、野田へと距離を縮める。
これで、全てに片が付く。そう三人が思った矢先、いつの間にか、野田の左手に拳銃が握られていた。田辺が息を呑んだ。すう、とあげられていく拳銃は、ぴたりと眉間の位置で停止する。
「すまない、田辺……俺に諦めるという選択肢は選べない」
野田の眼に、力が籠ると同時に、凶弾を撃ち出す火薬音が室内に響いた。
それは、野田の放った銃弾ではなく、三人の背後に立っていた黒服の一人が撃ち放った弾丸だ。それは、吸い込まれるような正確さで、野田の肩を貫く。硝煙を上げている銃を手にしているのは、あの若い男だった。
唸りながら、膝をついた野田をすぐさま、隊長と呼ばれていた屈強な男が取り押さえる。同時に、側近の外国人にも、残った一人が銃口を合わせている。突然の事態に、状況を追えない一同へ若い男が言った。
「仕事と感情、人間として優先するのは、感情だとは思いませんか?」
若い男の視線の先には、屍を貪る新崎優奈の姿があり、田辺は目を閉じて首を縦にゆっくりと動かした。
「その通りだと......思います。いつだって子供は、大人の理想を押し付けられてしまう。僕らは、そんな簡単なことを見逃して、犠牲を出して初めて気付く」
田辺は、一度だけ床に抑え込まれた野田は見下ろして、檻のなかにいる新崎優奈をみた。
醜悪で、醜怪で、下品で、賤劣な見た目だ。けれども、こうなった理由には、全て大人が関わっている。その事実に、自らが深く関わっていることを思うと、知らぬ間に、目頭から涙が溢れだす。言葉になんかならなかった。ただただ、すまない、としか言えない自分が許せなかった。
「田辺......もう、行こう。ここにいても、なにも始まらない......すぐにでも脱出したほうが良い......」
斎藤が沈痛な面持ちで田辺の肩に手を置いた。皆が同じ心境なのだろう。目元を拭った田辺は、隊長と呼ばれていた男に言った。
「......すみませんが、野田さんの拳銃を渡してもらえますか?」
一瞬、怪訝そうに眉をひそめた男に、田辺は新崎優奈を目で示して見せる。それだけで何をするつもりなのか、理解したのだろう。野田から手荒に拳銃を奪うと、田辺へ差し出す。
「出来るだけ近づいて撃つんだぞ......あの娘を……彼女を......楽にしてやれ......」
田辺はなにも返さずに頷き、銃をしっかりと握りこむと、静かに新崎優奈へと歩み寄っていく。夢中になって、戸部の肉体を貪る姿に、かつてあったであろう、無邪気に玩具で遊ぶ少女の面影が見えた気がして、田辺は唇を噛み締めた。
迷っているときではない。
一心不乱に、臓器を口へと運んでいる少女のこめかみに、銃口を当てた瞬間、新崎優奈が血にまみれた顔を、田辺へと一気に向ける。
そして、一発の乾いた銃声が響いた。
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