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第9話
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「推定一千百三兆三千五百四十億円、一般的にはこのような金額であると言われています」
現実味のない金額に、一瞬だけ斎藤の顔から血の気が引いたのを見て、浜岡が微笑んで続ける。
「しかし、日本は借金を円で借りています。良いですか?円で借りているのです。例えば、アメリカからドルでお金を借りている場合、ドルでの返済を求められます。そうなれば、借金の返済など、とてもじゃないけどできません。けれど、日本は通貨発行権があり、様々な問題はありますが、円を作ることが出来る。ギリシャなどのユーロとは違い、作ることが出来るのです。そして、なにより、こういった内容で重要なのは、誰から、どこから借りているのか、だ。つまり、国債を頭からだした貴方の話しは端から破綻しています」
難しい顔で斎藤が訊く。
「ちょっとまて......俺には、なんのことかサッパリなんだが......とりあえず、金がらみということで理解して良いのか?」
「それほど単純ではないと信じたいのですが、そう考えてもらって良いでしょうね......海外からの支援か、なにか......」
浜岡の声が途切れる前に、田辺が油断なく戸部を一瞥すると、満足そうな笑みを浮かべていた。
それが少し薄気味悪く感じられる。
「......そちらの男性も良いな。一人は論外だが、まあ、どうにでも処理は出来るだろう」
田辺が険しい表情で短く尋ねる。
「それは、どういう意味ですか?」
戸部は特に落ち着いた様子もなければ、焦燥もしていない。ただただ、余裕を見せつけるように、鼻を鳴らして口を開いた。
「度胸もあり、頭もある程度は回る。申し分ない逸材じゃないか。野田、こいつらは敵であれば厄介だろうが、味方ならば頼もしいとは思わないか?」
「......総理、御言葉ですが......」
「お前が何を言うか、そんなものはよく分かっているよ」
返事も聞かずに、戸部は掌を広げたまま、田辺の眼前に突きつけた。思わず、眉を曇らせた田辺は、その手を払いのける。
「......なんのつもりです?」
不遜な顔付きで、戸部は短く言った。
「......幾らだ?」
背後で、野田が鋭く怒声をあげる。
「総理!一体、なんのつもりで......!」
「黙れ!今は、お前と話してはいない!」
振り返りもせずに、野田の訴えを一蹴しながら、戸部は再び、田辺の目の前に広げた掌を掲げる。知らぬ間に、田辺は握り拳を作っていた。この男が言いたい内容は、充分に理解している。理解しているからこそ、許せないのだ。この戸部という男が求めているものは、浜岡の説明から、海外からの災害支援金、もしくは、それに類するなにかであることは分かる。要するに、国の為ではない。支持率も高い水準をキープしているが、裏では、このような我欲を持ち、傲慢な物言いで他を威圧する。
田辺は、なんとも面の皮が厚い奴だ、と奥歯を締める。
本当に恐ろしいのは、檻に入れられた死者ではなく、怨みをはらそうとする怒りでもなく、利己主義に浸かりきった人間そのものなのかもしれない。
貼り付けられた仮面の奥にあった醜悪な心が透けて見え、田辺は強い吐き気を覚えながらも、昂然と返す。
「僕は......貴方のような人間ではない!」
再び、強い皮肉を混ぜたような拍手が、高らかに室内を駆け巡った。口角も下げずに、戸部は歩き始める。
「俺とは違う、ねぇ……田辺君、人間の本質ってものはなんだと思う?」
現実味のない金額に、一瞬だけ斎藤の顔から血の気が引いたのを見て、浜岡が微笑んで続ける。
「しかし、日本は借金を円で借りています。良いですか?円で借りているのです。例えば、アメリカからドルでお金を借りている場合、ドルでの返済を求められます。そうなれば、借金の返済など、とてもじゃないけどできません。けれど、日本は通貨発行権があり、様々な問題はありますが、円を作ることが出来る。ギリシャなどのユーロとは違い、作ることが出来るのです。そして、なにより、こういった内容で重要なのは、誰から、どこから借りているのか、だ。つまり、国債を頭からだした貴方の話しは端から破綻しています」
難しい顔で斎藤が訊く。
「ちょっとまて......俺には、なんのことかサッパリなんだが......とりあえず、金がらみということで理解して良いのか?」
「それほど単純ではないと信じたいのですが、そう考えてもらって良いでしょうね......海外からの支援か、なにか......」
浜岡の声が途切れる前に、田辺が油断なく戸部を一瞥すると、満足そうな笑みを浮かべていた。
それが少し薄気味悪く感じられる。
「......そちらの男性も良いな。一人は論外だが、まあ、どうにでも処理は出来るだろう」
田辺が険しい表情で短く尋ねる。
「それは、どういう意味ですか?」
戸部は特に落ち着いた様子もなければ、焦燥もしていない。ただただ、余裕を見せつけるように、鼻を鳴らして口を開いた。
「度胸もあり、頭もある程度は回る。申し分ない逸材じゃないか。野田、こいつらは敵であれば厄介だろうが、味方ならば頼もしいとは思わないか?」
「......総理、御言葉ですが......」
「お前が何を言うか、そんなものはよく分かっているよ」
返事も聞かずに、戸部は掌を広げたまま、田辺の眼前に突きつけた。思わず、眉を曇らせた田辺は、その手を払いのける。
「......なんのつもりです?」
不遜な顔付きで、戸部は短く言った。
「......幾らだ?」
背後で、野田が鋭く怒声をあげる。
「総理!一体、なんのつもりで......!」
「黙れ!今は、お前と話してはいない!」
振り返りもせずに、野田の訴えを一蹴しながら、戸部は再び、田辺の目の前に広げた掌を掲げる。知らぬ間に、田辺は握り拳を作っていた。この男が言いたい内容は、充分に理解している。理解しているからこそ、許せないのだ。この戸部という男が求めているものは、浜岡の説明から、海外からの災害支援金、もしくは、それに類するなにかであることは分かる。要するに、国の為ではない。支持率も高い水準をキープしているが、裏では、このような我欲を持ち、傲慢な物言いで他を威圧する。
田辺は、なんとも面の皮が厚い奴だ、と奥歯を締める。
本当に恐ろしいのは、檻に入れられた死者ではなく、怨みをはらそうとする怒りでもなく、利己主義に浸かりきった人間そのものなのかもしれない。
貼り付けられた仮面の奥にあった醜悪な心が透けて見え、田辺は強い吐き気を覚えながらも、昂然と返す。
「僕は......貴方のような人間ではない!」
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