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第15話
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不思議な感覚だった。命の危機に直面しているのに、時間が静謐に過ぎていく。車上からエコーがきいた阿里沙の声が聴こえる。涙が目頭に溜まっていく加奈子の瞳まで、くっきりと見える。
正面にいた死者を殴り、祐介は戦車へと右手を伸ばした。
「あと少し......あと少しなんだ!届いてくれ!届けええぇぇ!」
祐介の掌に固い何かが触れた。顔を上げれば、戦車の履帯にぴったりと吸い付いたように、右手が着いていた。頬を弛ませた矢先、祐介の背中に強い衝撃が走る。死者が獲物を逃がすまいと伸ばしていた両手に押されたのだ。勢いのついた身体は、そのまま祐介の顔面を履帯に叩きつけた。鼻の骨が軋み、穴からは大量の血が流れ始め、床に鮮やかな朱色が広がっていく。
祐介は、瞠目する。血液に死者は過剰な反応を示す。最悪な展開だった。振り返れば、祐介を押し付けたであろう死者の、鮮血に染まった口内が眼界を埋めた。咄嗟に両手で突飛ばすが、続々と迫る後続が、つっかえ棒の役割を果たし、転倒させるには至らない。
そして、抵抗も虚しく、一人の死者が祐介の肩を掴んで引き寄せた。
「ぐっ......!うあああああ!」
離れる為に、座り込む。だが、別の死者が祐介の右足を捕まえる。どうにか、顔面を蹴りつけるも、今度は頭上から死者が襲う。まさに四面楚歌だ。
下から顎を拳でかちあげ、戦車の下へ這いずり入ろうとするも、やはり、無駄に終わってしまう。
必死に進もうとした両手の爪は、床と足を引く死者の力によりめくれあがった。それでも、祐介は雄叫びをあげて、死者を蹴りつける。
死ぬ訳にはいかない。殺される訳にはいかない。生きなければいけない。犠牲となった皆の為にも、ここで死ぬ訳にはいかない。
「クソォォォ!」
慟哭をあげる裕介の踝を死者が噛みちぎろうとした瞬間、死者の後頭部が熟れたトマトを落としたように弾け、祐介の右足脇に、小さな穴が穿った。
その後に、まるで台風のような銃声と銃弾の雨が、死者の大群へ降り注がれた。
頭蓋を砕かれ、倒れこんだ死者の濁った目線が、ピタリと祐介に合わせられ、這いずりながら、奥へと逃げ、身体を丸め、耳と目を塞ぎ、銃声が収まるのを待ち続ける。聴こえなくなった頃には、戦車を囲んでいた最前列の死者達は、もう二度と動かなくなっていた。
祐介は、目を見開き、終わったのか、と呟く。同時に、よく知った男の声が響いた。
「祐介、彰一、阿里沙ちゃん、加奈子ちゃん!無事なら返事をしてくれ!」
はっ、と顔をあげた祐介は、すぐさま戦車の底から出て、頭上を仰ぐ。位置からして三階だろう。こんな風景では、よく目立つ迷彩服が横に三人並び、その人影がはっきりと判明すると、祐介の胸に熱が戻ってきた。
「浩太さん!真一さん!」
「挨拶は後だ!早く戦車へ登ったほうが良いぜ!」
祐介の背中に手を掛けようとしていた死者に弾丸を浴びせつつ、真一が叫んだ。
正面にいた死者を殴り、祐介は戦車へと右手を伸ばした。
「あと少し......あと少しなんだ!届いてくれ!届けええぇぇ!」
祐介の掌に固い何かが触れた。顔を上げれば、戦車の履帯にぴったりと吸い付いたように、右手が着いていた。頬を弛ませた矢先、祐介の背中に強い衝撃が走る。死者が獲物を逃がすまいと伸ばしていた両手に押されたのだ。勢いのついた身体は、そのまま祐介の顔面を履帯に叩きつけた。鼻の骨が軋み、穴からは大量の血が流れ始め、床に鮮やかな朱色が広がっていく。
祐介は、瞠目する。血液に死者は過剰な反応を示す。最悪な展開だった。振り返れば、祐介を押し付けたであろう死者の、鮮血に染まった口内が眼界を埋めた。咄嗟に両手で突飛ばすが、続々と迫る後続が、つっかえ棒の役割を果たし、転倒させるには至らない。
そして、抵抗も虚しく、一人の死者が祐介の肩を掴んで引き寄せた。
「ぐっ......!うあああああ!」
離れる為に、座り込む。だが、別の死者が祐介の右足を捕まえる。どうにか、顔面を蹴りつけるも、今度は頭上から死者が襲う。まさに四面楚歌だ。
下から顎を拳でかちあげ、戦車の下へ這いずり入ろうとするも、やはり、無駄に終わってしまう。
必死に進もうとした両手の爪は、床と足を引く死者の力によりめくれあがった。それでも、祐介は雄叫びをあげて、死者を蹴りつける。
死ぬ訳にはいかない。殺される訳にはいかない。生きなければいけない。犠牲となった皆の為にも、ここで死ぬ訳にはいかない。
「クソォォォ!」
慟哭をあげる裕介の踝を死者が噛みちぎろうとした瞬間、死者の後頭部が熟れたトマトを落としたように弾け、祐介の右足脇に、小さな穴が穿った。
その後に、まるで台風のような銃声と銃弾の雨が、死者の大群へ降り注がれた。
頭蓋を砕かれ、倒れこんだ死者の濁った目線が、ピタリと祐介に合わせられ、這いずりながら、奥へと逃げ、身体を丸め、耳と目を塞ぎ、銃声が収まるのを待ち続ける。聴こえなくなった頃には、戦車を囲んでいた最前列の死者達は、もう二度と動かなくなっていた。
祐介は、目を見開き、終わったのか、と呟く。同時に、よく知った男の声が響いた。
「祐介、彰一、阿里沙ちゃん、加奈子ちゃん!無事なら返事をしてくれ!」
はっ、と顔をあげた祐介は、すぐさま戦車の底から出て、頭上を仰ぐ。位置からして三階だろう。こんな風景では、よく目立つ迷彩服が横に三人並び、その人影がはっきりと判明すると、祐介の胸に熱が戻ってきた。
「浩太さん!真一さん!」
「挨拶は後だ!早く戦車へ登ったほうが良いぜ!」
祐介の背中に手を掛けようとしていた死者に弾丸を浴びせつつ、真一が叫んだ。
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