感染

宇宙人

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第10話

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    仲間ならばそれも分かるが、心棒するにしては、安部は歪みすぎている。子供に対する執着は並外れていた。その理由は判明していないが、安部の底に根付いていた信念が、結果として彰一を失うこととなった。
 祐介は、背中に隠したままのイングラムの硬質な冷たさが、温かさをもってなにかを伝えてきている気がしていた。
    彰一の存在は、やはり、祐介の心根に深く打ち込まれている。

「生き甲斐か......分かるよ。俺もそんな相手がいる!」

 怒りから東の目が開かれた瞬間、祐介は左足を精一杯に伸ばし、東の右足を踵で押す。不意な足払いは、身体を前のめりにし、戦車の壁に顔面を打ち付ける。

「ぐっ!」

 東の低い悲鳴を合図に、祐介は勢いをつけて股間を深く殴りつけた。短く息を吸う音が聞こえる。その状態から、両腕で押し出せば、さすがの東も、すぐに立ち上がることはできなかった。

「阿里沙!ハッチを全開に開け!」

 祐介は、言いながら立ち上がると、ハッチの縁に両手を掛けて飛び上がる。
    しかし、腹に縁が当たると同時に、動きが止められた。

「逃がすかよ!クソがぁ!」

「マジかよ......!早すぎる!」

「祐介君!」

 阿里沙も切羽詰まった表情で引き上げようと奮闘するも、東の腕力には遠く及ばない。
    右の踝に、万力で締められるような鈍い痛みが走り、腕の力が抜けると同時に、祐介は車内へ引き戻された。
    阿里沙の甲高い悲鳴が木霊し、周辺に集まる死者を刺激してしまう。
 死者の歓声に混じり、祐介が強かに後頭部を打ち付ける音が鳴った。脳を揺する強い衝撃の直後に、鼻をつく鉄の臭いが届く。

「ここまで馬鹿にされたのは、久し振りだなぁ!おい!」

 祐介の額に再び銃口が当てられ、奥に光る東の瞳には、しっかりと祐介の姿が映っている。
 祐介は、直感することになる。もう、逃げられない。
 ククッ、とシリンダーが廻る。祐介は、きつく目を閉じた。父親の残した形見の銃で殺されるとは、なんという皮肉だろうか。これ以上の屈辱はないだろう。
    見たくなかった。
    父親の銃が火を吹いた先が自分であると、信じたくはなかった。

ごめん......彰一......俺は......

「死ねよ!クソガキがぁ!」

 阿里沙がハッチから必死に手を伸ばす。それが、祐介の見た最後の景色となってしまう。

 願わくば、阿里沙と加奈子がどうにか助かりますように。こんなに壊れた世界で、ここまで生き延びたんだ。それくらいの我が儘は、神様だって叶えてくれるよな?彰一、ごめんな。親父、ごめん。お袋、俺もそっちにいくことになりそうだよ。だから、彰一に責められる俺を庇ってくれると嬉しい。神様、どうか、生きているみんなのことをよろしく頼むよ。

 ショッパーズモールの天井の先にある雲、その奥にいるであろう神に、そう問いかけると同時に、祐介の耳に鋭い炸裂音が響いた。
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