感染

saijya

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第13話

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    先程の地鳴りのような響きの正体を確かめる為に、安部は喉に生唾を流してから歩き始め、すぐに特定する。
    南口の閉ざされたシャッターが内側にひどく歪んでいるのだ。外からの衝撃だろう。それにより、男性を一心不乱に食べていた子供の使徒は、飛ばされた際に頭を強く打ち付けたのか、すでにこと切れていた。
 苦々しく顔をあげた安部の耳に、声が入ってくる。どうやら、まだ、外で生き延びていた一団が、使徒に追われて逃げる最中に衝突してしまったのだろう。そう結論付けると踵を帰す。
    ここまで生存しているのなら、さぞかし活きの良い使徒になれるだろう。そんな考えを持っていた安部を引き留めたのは、シャッター越しに聞こえてきた一言だった。

「誰かいるのなら助けて下さい!まだ、小さな子供もいるんです!お願いします!助けて下さい!」

             ※※※ ※※※

 朧気に視界が揺れる。
    山彦のように声が遠のく。身近にあった全ての景色や音が不明瞭だった。頬に生温い感覚がある。祐介は、震える手で触り、眼前に持ってきた。鮮やかな朱色が掌に広がっている。
 ああ、これは血だ。
 祐介は漠然とそう思った。左を見れば、凹んだシャッターがあり、これほど大きな事故なのだから、どこか怪我でもしたのかもしれない。
    ズキン、と鋭い痛みが走り、祐介は声をあげた。

「ぐうううううううううう!」

 ......違う。俺の声じゃない。

 激痛をどうにか抑え込もうとする唸り声だ。痛みのままに、出そうとして出せるものではない。

「......彰一?......彰一!おい!大丈夫か!?」

 祐介は弾かれるように起き上がろうとしたが、なぜか運転席のドアガラスの代わりにしていた看板が自分の腹に乗っていた。持ち上げ、今度こそ身体を起こし、彰一を見て愕然とする。
 額に浮き出た脂汗、奥歯が見えそうな程に引き上げられた唇、対照的に強く噛み締められた歯の隙間からは、耐えがたい疼痛に抗うような低い声が漏れている。
    彰一は、きつく閉めた瞼を開けた。

「大丈夫......気に......すんな......」

 祐介が視線を下げれば、彰一の左肩から夥しい量の血が流れており、運転席のシートは紅く染まっていた。
 恐らくは、車がぶつかった際に、死者を阻もうと右肩で看板を抑えていた。しかし、衝突時に看板が大きく外れ、彰一が左肩を切り裂かれることで勢いがなくなり、祐介の腹に落下したのだろう。深刻な事態に直面し、祐介の意識が、ありありと戻った。
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