201 / 419
第10話
しおりを挟む
※※※ ※※※
「これを使ってみたらどうだ?」
浩太が祐介に渡したのは、中間のショッパーズモール脇にある、全国チェーンのカラオケへの案内をする看板だった。笑顔の鳥が片手にマイクを握っている鉄板を繋げた針金を捻りきり、それを破壊されたドアガラスに当てる。
視界が遮られてしまうが、ショッパーズモール周辺の死者に対抗するには、割れたままでは不安が残る。有事の際には、助手席にいる祐介が中から抑えて突破を防ぐ手筈をとる。
あの広大な面積を誇るショッパーズを悠々と占拠するほどの大群に突入しようというのだから、どれだけ用心しようとも心許ない。しかし、僅かな時間によって生死が別れるのは、確かな事実ともいえる。
彰一が、舌打ち混じりにアパッチを睨んだ。
「......俺としては、あいつらに動きがないほうが疑問なんだけどな」
「ああ、確かに......少し怪しいぜ......」
真一が頷いて同意した。
件のアパッチは、中間のショッパーズモールを俯瞰するように、ホバリングを保ったまま動き出す気配はない。
何か狙いがあるのか。もしくは、トンネルを塞がれた一行が退くためには、一度は死者の海に飛び込む必要があるとみて、弾丸を渋っているかの、どちらかだろう。なんにしろ、大きなアクションを伴うことになる。
浩太が銃に新たな弾倉を入れて言った。
「なんにせよ、俺達は文字通り背水の陣だ。進むことは出来ても、退くことは出来ない。だったら、少しでも準備をしておくにこしたことはない」
プレオの後部座席のドアガラスから、真一が差し出したマガジンを受け取った阿里沙は、隣に座る加奈子を抱き寄せた。
バックドアのガラスは、いくつもの紅い手形に埋め尽くされている。先程の正面突破を敢行した際についたものだが、それが阿里沙の心理状況を如実に語っているように思えた祐介は頭を振った。
恐いのは、みんな同じなんだ。恐怖に呑まれれば、行動が一手遅れ、そのまま命取りになる。高まる動悸を静める為に、祐介は、ぎゅっ、と胸を掴んだ。
「大丈夫......大丈夫だ......」
深く息を吸って、一気に吐き出す。そんな様子を見ていた彰一が吹き出した。
「なんだよ、緊張してんのか?そんなガチガチになっちまうと、守れるもんも守れなくなるぞ」
「......お前は平気なのか?」
「俺とお前、真一さんに浩太さん、それに阿里沙と加奈子......こんだけ信頼する仲間がいたら何も心配ない。それに......」
トンネルが崩壊した直後、へたり込む寸前だった彰一を支えたのは祐介だった。その熱は、今も彰一を支えている。やっぱり、本当の仲間ってのは良いもんだな、と胸中で呟いて言う。
「なにがあろうと、俺がお前らを死なせない。お前も同じ気持ちだろ?」
ぽん、と祐介の肩を叩き、彰一は笑う。それだけで、祐介は曇天な晴れたような気持ちを持てた。
二人が揃って、視線をあげた先に待ち受けるものが、どれだけ地獄に近かろうと、きっと上手くいく。祐介は、そう深く心に刻んだ。
「そろそろ行こう。準備は良いか?」
浩太の声に、二人は同時に頷いた。
「これを使ってみたらどうだ?」
浩太が祐介に渡したのは、中間のショッパーズモール脇にある、全国チェーンのカラオケへの案内をする看板だった。笑顔の鳥が片手にマイクを握っている鉄板を繋げた針金を捻りきり、それを破壊されたドアガラスに当てる。
視界が遮られてしまうが、ショッパーズモール周辺の死者に対抗するには、割れたままでは不安が残る。有事の際には、助手席にいる祐介が中から抑えて突破を防ぐ手筈をとる。
あの広大な面積を誇るショッパーズを悠々と占拠するほどの大群に突入しようというのだから、どれだけ用心しようとも心許ない。しかし、僅かな時間によって生死が別れるのは、確かな事実ともいえる。
彰一が、舌打ち混じりにアパッチを睨んだ。
「......俺としては、あいつらに動きがないほうが疑問なんだけどな」
「ああ、確かに......少し怪しいぜ......」
真一が頷いて同意した。
件のアパッチは、中間のショッパーズモールを俯瞰するように、ホバリングを保ったまま動き出す気配はない。
何か狙いがあるのか。もしくは、トンネルを塞がれた一行が退くためには、一度は死者の海に飛び込む必要があるとみて、弾丸を渋っているかの、どちらかだろう。なんにしろ、大きなアクションを伴うことになる。
浩太が銃に新たな弾倉を入れて言った。
「なんにせよ、俺達は文字通り背水の陣だ。進むことは出来ても、退くことは出来ない。だったら、少しでも準備をしておくにこしたことはない」
プレオの後部座席のドアガラスから、真一が差し出したマガジンを受け取った阿里沙は、隣に座る加奈子を抱き寄せた。
バックドアのガラスは、いくつもの紅い手形に埋め尽くされている。先程の正面突破を敢行した際についたものだが、それが阿里沙の心理状況を如実に語っているように思えた祐介は頭を振った。
恐いのは、みんな同じなんだ。恐怖に呑まれれば、行動が一手遅れ、そのまま命取りになる。高まる動悸を静める為に、祐介は、ぎゅっ、と胸を掴んだ。
「大丈夫......大丈夫だ......」
深く息を吸って、一気に吐き出す。そんな様子を見ていた彰一が吹き出した。
「なんだよ、緊張してんのか?そんなガチガチになっちまうと、守れるもんも守れなくなるぞ」
「......お前は平気なのか?」
「俺とお前、真一さんに浩太さん、それに阿里沙と加奈子......こんだけ信頼する仲間がいたら何も心配ない。それに......」
トンネルが崩壊した直後、へたり込む寸前だった彰一を支えたのは祐介だった。その熱は、今も彰一を支えている。やっぱり、本当の仲間ってのは良いもんだな、と胸中で呟いて言う。
「なにがあろうと、俺がお前らを死なせない。お前も同じ気持ちだろ?」
ぽん、と祐介の肩を叩き、彰一は笑う。それだけで、祐介は曇天な晴れたような気持ちを持てた。
二人が揃って、視線をあげた先に待ち受けるものが、どれだけ地獄に近かろうと、きっと上手くいく。祐介は、そう深く心に刻んだ。
「そろそろ行こう。準備は良いか?」
浩太の声に、二人は同時に頷いた。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる