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第6話
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筋肉達磨、そんな揶揄を東に使われるとなれば、自衛官の中でも、かなりの体格を誇る者だろう。となれば、まず、自分と身体が近い大地はその候補から外れる。残る候補は、基地内部で問題視されていた岩神か新崎だろう。体つきが特に優れていたのは、この二人しか思い付かない。問題児に、この事件の幕をあげたであろう人物、なかなかに凶悪な組み合わせだと嘆息をついた。
小倉から逃げ出した際に、通信が入ったのは大地がいた車両だけだったことを考えれば、戦車の操縦者は坂下大地である可能性は高い。
しかし、岩神か新崎、どちらか一人を東により失っているとはいえ、このショッパーズモールの現状と鑑みると、大地の助力は厳しいものだと、達也は悟った。浩太の推測を元にした犯人説なだけあり、確証はないとはいえ、新崎をこの眼界に捉えて正気でいられるはずがない。
どちらにせよ、今の達也には、何か事態を好転させる策はなかった。
二人は、達也が横たわっていた寝具売り場を横目に連絡通路を目指し、遂にたどり着く。扉を開くと、暴徒の唸りが波となって二人を叩いた。
一階には、まだモール内に入りきれていない暴徒の大群がさ迷っているみたいだ。崩れた通路、東が戦車に向かって飛び降りた地点まで進み、高い視点からホールを覗く。
南口の出入り口を塞ぐ74式戦車は、東が避難した時と同じく、そこにあった。駆動音は無く、ただそこに置かれたオブジェのようだ。
東が眉をしかめる。
「逃げれなかったってのは予想通りだが、動いてないのは予想外だな。でも、まあ、好都合っちゃ好都合か」
東は、満足そうに呟いたが、達也は違和感しか抱けなかった。
あの戦車ならば、逃げようとすれば、逃げられる筈だ。それが、まだ、こんな所に往生しているのは、なんらかの理由が必ずある。
動かないのか、動けないのか。
砲塔を南口通路にすっぽりと収めている様は、随分と間抜けな光景だが、達也はその不一致を隠し続けた。
「余裕......なんだろうな、あれは......」
東が達也を生かしている最大の成因は、戦車を奪うことだ。ここで、露呈すれば、迷わずに、突き付けた拳銃のトリガーを引いてしまうかもしれない。それだけは避けたかった。
「次だ。次は、戦車の真上に移動するぞ......どれだけ使徒が報知器に反応しているかも分かったし、充分に戻れる」
合図のように、東が銃口を押し付けた時、それは起きた。
戦車のハッチが開き、車内から自衛官が顔を出した。そして、達也は瞠目することになる。見間違えなどしない。 見紛うこともない。ましてや、忘れることなど有り得ない。
下澤、岩下、小金井、数々の犠牲になった自衛官や市民、その全ての元凶と目される男が、戦車から顔を出した。
「新崎......」
東にも聞こえない声で、ぽつり、と呟くと同時に、清冽とはほど遠く、濁った様々な思いが濁流のように競り上がってきた。忿怒、悲憤、義憤、それら全てが津波となって達也の感情を、清冽どす黒いものに変えた。
「あ、ら、さ、きぃぃぃぃぃぃ!!」
溢れでる怒りでせいか、達也は、一字一字しっかりとそう口にした。
小倉から逃げ出した際に、通信が入ったのは大地がいた車両だけだったことを考えれば、戦車の操縦者は坂下大地である可能性は高い。
しかし、岩神か新崎、どちらか一人を東により失っているとはいえ、このショッパーズモールの現状と鑑みると、大地の助力は厳しいものだと、達也は悟った。浩太の推測を元にした犯人説なだけあり、確証はないとはいえ、新崎をこの眼界に捉えて正気でいられるはずがない。
どちらにせよ、今の達也には、何か事態を好転させる策はなかった。
二人は、達也が横たわっていた寝具売り場を横目に連絡通路を目指し、遂にたどり着く。扉を開くと、暴徒の唸りが波となって二人を叩いた。
一階には、まだモール内に入りきれていない暴徒の大群がさ迷っているみたいだ。崩れた通路、東が戦車に向かって飛び降りた地点まで進み、高い視点からホールを覗く。
南口の出入り口を塞ぐ74式戦車は、東が避難した時と同じく、そこにあった。駆動音は無く、ただそこに置かれたオブジェのようだ。
東が眉をしかめる。
「逃げれなかったってのは予想通りだが、動いてないのは予想外だな。でも、まあ、好都合っちゃ好都合か」
東は、満足そうに呟いたが、達也は違和感しか抱けなかった。
あの戦車ならば、逃げようとすれば、逃げられる筈だ。それが、まだ、こんな所に往生しているのは、なんらかの理由が必ずある。
動かないのか、動けないのか。
砲塔を南口通路にすっぽりと収めている様は、随分と間抜けな光景だが、達也はその不一致を隠し続けた。
「余裕......なんだろうな、あれは......」
東が達也を生かしている最大の成因は、戦車を奪うことだ。ここで、露呈すれば、迷わずに、突き付けた拳銃のトリガーを引いてしまうかもしれない。それだけは避けたかった。
「次だ。次は、戦車の真上に移動するぞ......どれだけ使徒が報知器に反応しているかも分かったし、充分に戻れる」
合図のように、東が銃口を押し付けた時、それは起きた。
戦車のハッチが開き、車内から自衛官が顔を出した。そして、達也は瞠目することになる。見間違えなどしない。 見紛うこともない。ましてや、忘れることなど有り得ない。
下澤、岩下、小金井、数々の犠牲になった自衛官や市民、その全ての元凶と目される男が、戦車から顔を出した。
「新崎......」
東にも聞こえない声で、ぽつり、と呟くと同時に、清冽とはほど遠く、濁った様々な思いが濁流のように競り上がってきた。忿怒、悲憤、義憤、それら全てが津波となって達也の感情を、清冽どす黒いものに変えた。
「あ、ら、さ、きぃぃぃぃぃぃ!!」
溢れでる怒りでせいか、達也は、一字一字しっかりとそう口にした。
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