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第15話
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構うことなく、浩太はアクセルを踏み続ける。スピードを落としてしまえば、たちまち死者の壁に阻まれて、トラックは横転する上に、祐介達が乗り込んでいる軽自動車にも影響が及ぶだろう。車高が低い分、囲まれれば即場に終わりだ。
自衛官二人には、トラックによる道の確保と後続の援護、二重の任務が多大な責任となってのし掛かっており、自然と真一の指にも力が入る。
フロントに張り付いた死者を殴り付け、真一はマガジンを交換する。
「浩太!どんな手応えだ!」
歯を食い縛りながら、ハンドルの調整を小刻みに行う浩太は、額に溜まった玉のような汗を拭うこともせずに返す。
「上々だよクソッタレ!」
浩太は、更にアクセルを踏み抜いた。グーーン、と唸りをあげたトラックのスピードメーターの長針が右の端で震えている。
真一は、トラックのバックミラーで後部を視認した。今のところは、トラックが撥ね飛ばした死者に阻まれていることはなさそうだ。むしろ、トラックに突き飛ばされた死者が、動ける死者の前進を阻んでいる。時折、車を盗む際に割った運転席のドアガラスから無数の短い火花が散っているのを見れば、少しの余裕はありそうだった。
このまま、押し抜けることが出来そうだ、と真一が油断なく前を向こうとしていた時、信じがたい光景を目の当たりにし目を剥き、悲鳴のような声をあげた。
「おいおいおい!冗談だろ!やべえぞ浩太!煙があがってやがるぜ!」
「はあ!?」
頓狂な声を出した浩太は、一瞬だけ死者の群れから視線を切って真一側のミラーを打ち見した。確かに白い煙が空に吸われている。
「真一! 煙はどこからだ!マフラーか!?」
「駄目だ!荷台の下辺りからってのは分かるが死者が邪魔で確認出来ないぜ!」
「匂いはあるか!?」
「......ああ!ある!」
最悪だ、と浩太はハンドルを叩いた。負荷ををかけすぎたのだろう。思えば、門司港レトロから随分と無茶を抱えてきたものだ。
異臭の混じる白い煙。それはエンジンになんらかの異常が起きているサインだった。停まることも、スピードを下げることも出来ない現状、トラックには多大な負荷を与え続けなければならない。脇道の林道からは、新たな死者の大群が押し寄せてきていた。真一が手榴弾のピンを抜いて、割れたフロントから投げつけ、数名の死者を吹き飛ばしたが、死の恐怖を持たない死者に囲まれている状態では、空っぽなバケツに手を突き入れるようなものだった。祐介達も異変に気付いたのか、クラクションを鳴らしている。
浩太は、それでもアクセルから足を離すような真似はしない。ただ、ゆっくりと自分の銃を左手で引き抜いた。
「真一......言いたいことがある」
浩太の低い声から察したのだろう。真一は、浩太が言い切る前に口を開いた。
「大丈夫だ。分かってるぜ、浩太」
自衛官二人には、トラックによる道の確保と後続の援護、二重の任務が多大な責任となってのし掛かっており、自然と真一の指にも力が入る。
フロントに張り付いた死者を殴り付け、真一はマガジンを交換する。
「浩太!どんな手応えだ!」
歯を食い縛りながら、ハンドルの調整を小刻みに行う浩太は、額に溜まった玉のような汗を拭うこともせずに返す。
「上々だよクソッタレ!」
浩太は、更にアクセルを踏み抜いた。グーーン、と唸りをあげたトラックのスピードメーターの長針が右の端で震えている。
真一は、トラックのバックミラーで後部を視認した。今のところは、トラックが撥ね飛ばした死者に阻まれていることはなさそうだ。むしろ、トラックに突き飛ばされた死者が、動ける死者の前進を阻んでいる。時折、車を盗む際に割った運転席のドアガラスから無数の短い火花が散っているのを見れば、少しの余裕はありそうだった。
このまま、押し抜けることが出来そうだ、と真一が油断なく前を向こうとしていた時、信じがたい光景を目の当たりにし目を剥き、悲鳴のような声をあげた。
「おいおいおい!冗談だろ!やべえぞ浩太!煙があがってやがるぜ!」
「はあ!?」
頓狂な声を出した浩太は、一瞬だけ死者の群れから視線を切って真一側のミラーを打ち見した。確かに白い煙が空に吸われている。
「真一! 煙はどこからだ!マフラーか!?」
「駄目だ!荷台の下辺りからってのは分かるが死者が邪魔で確認出来ないぜ!」
「匂いはあるか!?」
「......ああ!ある!」
最悪だ、と浩太はハンドルを叩いた。負荷ををかけすぎたのだろう。思えば、門司港レトロから随分と無茶を抱えてきたものだ。
異臭の混じる白い煙。それはエンジンになんらかの異常が起きているサインだった。停まることも、スピードを下げることも出来ない現状、トラックには多大な負荷を与え続けなければならない。脇道の林道からは、新たな死者の大群が押し寄せてきていた。真一が手榴弾のピンを抜いて、割れたフロントから投げつけ、数名の死者を吹き飛ばしたが、死の恐怖を持たない死者に囲まれている状態では、空っぽなバケツに手を突き入れるようなものだった。祐介達も異変に気付いたのか、クラクションを鳴らしている。
浩太は、それでもアクセルから足を離すような真似はしない。ただ、ゆっくりと自分の銃を左手で引き抜いた。
「真一......言いたいことがある」
浩太の低い声から察したのだろう。真一は、浩太が言い切る前に口を開いた。
「大丈夫だ。分かってるぜ、浩太」
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