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第12話
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「動け!動けよ!この!ちくしょう、頼むから動いてくれよ!」
大地の切実な願いも虚しく、キャタピラは動き出そうとする小さな音さえ発しない。ただ、そこに鎮座する巨大なオブジェに成り果てたのだ。大地が、操縦管を動かし続けている。
無機質な車内は、処刑を待つ兵士の心境を新崎に与えた。
「クソ......クソッ、クソッ、クソッ、クソッ、クソォォォォォ!死ねない!俺は死ぬわけにはいかない!優奈の為にも俺は死ねないんだよ!チクショォォォォォ!」
外にでてキャタピラの整備を行うことも、自殺をすることも出来ない。
新崎の慟哭は、車内の冷たい鉄の壁を抜けて、死者のもつ熱い何かをたぎらせるという皮肉な結果に至った。
垂らされた蜘蛛の糸は、決して罪人を助けることはないのだろう。
※※※ ※※※
館内は、全て通路や階段で繋がっているのならば、必ず、死者のいない出入り口があるはずだ。
そう考えた達也は、紙面に描かれた迷路を辿るような足取りで三階の駐車場を一周した。
東館と西館により、隔てられた立体駐車場は、かなりの規模があるものの、両館を繋ぐ部分が崩されており、下を覗けば死者の大群が達也の存在を認め、仰ぎいで呻き声をあげてくる。飛び越えるという選択肢もない訳ではないが、失敗するリスクが遥かに勝っている上に、小金井が救ってくれた命を無駄にするなど、どうしてもできなかった。
達也は、諦めて四階へのスロープを上がっていく。そこで、達也は車を発見したのだが、同時に奇妙な光景を目撃することになる。いや、奇妙というには語弊がある。それは、達也の目が、はっきりとした姿を写したからだ。
巨大なプロペラにチェインガン、黒々とした武骨な機体、間違いなく、それは、アパッチだった。
達也は、瞠目し、咄嗟に身を屈めた。関門橋での一件に関わったアパッチならば、発見されることは死ぬことと同義だ。
アパッチが、ホバリング状態に入ると、三階からだろうか、駐車場の柵を揺らすほどに集まった死者の嘯きまで加わった。
幸いにも、達也には気付いていないようだが、身を守るものが何一つない達也にとっては、正に生き地獄にも思える時間だった。
飛び出そうとする心臓を抑えるように口を両手で塞ぎつつも、どんな些細なことも見逃してなるものかと、絶対に目だけは見開き続け、その変化は数十分後に訪れた。アパッチが方向を変えて、中間市の入口ともいえるトンネルのほうへ姦しい轟音と共に移動し、三階の死者の声も遠退き、達也はようやく深呼吸を挟むことが出来た。
大地の切実な願いも虚しく、キャタピラは動き出そうとする小さな音さえ発しない。ただ、そこに鎮座する巨大なオブジェに成り果てたのだ。大地が、操縦管を動かし続けている。
無機質な車内は、処刑を待つ兵士の心境を新崎に与えた。
「クソ......クソッ、クソッ、クソッ、クソッ、クソォォォォォ!死ねない!俺は死ぬわけにはいかない!優奈の為にも俺は死ねないんだよ!チクショォォォォォ!」
外にでてキャタピラの整備を行うことも、自殺をすることも出来ない。
新崎の慟哭は、車内の冷たい鉄の壁を抜けて、死者のもつ熱い何かをたぎらせるという皮肉な結果に至った。
垂らされた蜘蛛の糸は、決して罪人を助けることはないのだろう。
※※※ ※※※
館内は、全て通路や階段で繋がっているのならば、必ず、死者のいない出入り口があるはずだ。
そう考えた達也は、紙面に描かれた迷路を辿るような足取りで三階の駐車場を一周した。
東館と西館により、隔てられた立体駐車場は、かなりの規模があるものの、両館を繋ぐ部分が崩されており、下を覗けば死者の大群が達也の存在を認め、仰ぎいで呻き声をあげてくる。飛び越えるという選択肢もない訳ではないが、失敗するリスクが遥かに勝っている上に、小金井が救ってくれた命を無駄にするなど、どうしてもできなかった。
達也は、諦めて四階へのスロープを上がっていく。そこで、達也は車を発見したのだが、同時に奇妙な光景を目撃することになる。いや、奇妙というには語弊がある。それは、達也の目が、はっきりとした姿を写したからだ。
巨大なプロペラにチェインガン、黒々とした武骨な機体、間違いなく、それは、アパッチだった。
達也は、瞠目し、咄嗟に身を屈めた。関門橋での一件に関わったアパッチならば、発見されることは死ぬことと同義だ。
アパッチが、ホバリング状態に入ると、三階からだろうか、駐車場の柵を揺らすほどに集まった死者の嘯きまで加わった。
幸いにも、達也には気付いていないようだが、身を守るものが何一つない達也にとっては、正に生き地獄にも思える時間だった。
飛び出そうとする心臓を抑えるように口を両手で塞ぎつつも、どんな些細なことも見逃してなるものかと、絶対に目だけは見開き続け、その変化は数十分後に訪れた。アパッチが方向を変えて、中間市の入口ともいえるトンネルのほうへ姦しい轟音と共に移動し、三階の死者の声も遠退き、達也はようやく深呼吸を挟むことが出来た。
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