感染

宇宙人

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第5話

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    ごくり、と喉を鳴らしたのは、機関銃に手を掛けた男だ。

「同意見だな。まるで悪夢でも見てるみたいだ」

「目を覚ましたらどうだ?基地に帰ることができる」

「冗談はやめろ......まったく笑えない」

    言いながら、男は機関銃を装填し、その銃口を下方へやった。
    胸の位置で皮肉のように十字を切る。

「生き残りがいるとは思えないが......念のためにホバリングを保っておく。なにかあれば、言ってくれ」

    操縦士の声に、男が答える。

「なら、機体を俺が向いているほうに動かしてくれないか?」

    怪訝そうに操縦士が返す。

「どうした?」

「待ちわびた、生存者の登場だ」

                         ※※※ ※※※

    トラックとプレオが中間のトンネルを抜けた。ショッパーズモールまでは、あと数メートルといったところだろう。しかし、六人にとっては、処刑台にのぼるような気分だった。
    トンネル内でさえ、死者の数が十人近く、それらが全て中間のショッパーズモールへ歩いており、これで確信に変わった。間違いなく、中間市で何かが起きている。
    トラックに乗る二人の自衛官は、割れたフロントガラスから、ショッパーズモールへの長い坂道をまっすぐに見詰め、真一が舌打ちをして言った。

「おいおい、見通し最悪だぜ......雑木林......てか、山を切り開いたのか?邪魔でしょうがねえ......中間のショッパーズモールは結構な規模なんだよな?」

    運転する浩太も、身体を右に傾ける。

「ああ、そうみたいだな。左右の雑木林さえなきゃ、一発で見れると思う」

「......達也がいると思うか?」

    真一の問い掛けに、浩太は口を詰むんだ。勿論、合流を願いたいのは山々なのだが、いるにしても、いないにしても、こんな世の中だ。どちらにせよ、無傷ではないだろう。そう安易に返事が出来ない、という本音が生まれてしまう。真一も、それを理解しているのか、浩太を責めるようなことはない。
    トラックの後ろを走るプレオを一瞥し、真一は煙草に火を点けると、浩太に渡す。受け取りながら、雑木林から降りてきた死者二人をトラックで撥ね飛ばし、ハンドルの調整をしている途中、少しぶれた視線の先で、ある影を捉え悪態をつき、スピードを落とした。
    突然、表面化した浩太の狼狽に、真一が眉をひそめる。

「......何かあったのか?」

「ああ、最悪なもんを見ちまったよチクショウ!よりによって、あんなとこに!」

    短いクラクションを一つ鳴らす。前もって決めていた緊急停止の合図だ。
    雑木林から出てくる死者に留意しつつ、二台は坂道の途中にある回転寿司屋の脇に車を停めた。
    プレオから降りてきたのは、運転していた彰一だけだ。右手のイングラムが小刻みに震えている。ど真ん中での緊急停止、嫌な予感しかない。トラックから、二人が降りると、真一が見張りに回る。

「なんだよ、こんなとこで......頼むから短めにしてくれよ」

    キョロキョロとしきりに迫りくる死者一人一人に顔を向ける彰一だが、浩太も時間を掛けるつもりはない。いや、時間を使う暇はない。
    浩太は、一言だけ口にした。

「引き返すぞ」

    鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした彰一を置いて、トラックに戻ろうとする浩太を引き止める。

「ちょ......ちょっと待て!いや、その提案には賛成だけど、何があったのかくらいは話してくれても良いだろ!」

「悪い、話してる暇もない。奴等が気付く前に、ここを離れる」

「だから、奴等って誰だよ!死者か?そんなに大群でいたのか?」

    浩太は首を横に振る。

「いや、それよりもヤバイ......」

    二人の会話を断ち切るように、銃声が響く。

「おい!退くなら早くしろ!俺達に気付いた死者が集まり始めたぜ!」

「止めろ!撃つな!」

    浩太の制止の声は、ある音にかきけされた。振り返りかけた真一と、訳もわからない彰一、車にいた三人でさえも目を剥いた爆音は、独特な機動音をもって六人の視線を釘付けにする。
    祐介が呟く。

「な......なんだよ、あれ......」

「車に乗れ!早く!」

    浩太の怒声に弾かれるように、彰一と真一がそれぞれの車に飛び込んだ。その頭上を黒い影が被る。
    特徴的なプロペラの駆動音、そして、巨体をもつアパッチが高速で頭上を通り抜けた。
    いくらなんでも早すぎる。浩太が発見してから、まだ、数分も経過していない。つまりは、アパッチの乗組員は、既に二台の存在に気付いていたのだろう。全てが後手になっていたのだ。浩太は、すぐさま、エンジンを掛けるとギアをバックにいれた。
    関門橋を破壊したアパッチと同じなら、奴等がこちらを無視した理由は一つしかない。急がなければ、更に手遅れになる。
    真一に何も伝えず、浩太はトラックを下げる。死者を巻き込んだ急なバックに、真一がダッシュボードに額を強打したようだが、構っていられない。
    駐車場から道路上に出た浩太は、トラックを中間のトンネルへと走らせる。アパッチは、トンネルから離れた位置でホバリング状態に入っている。そこで、真一も察したのだろう、顔から血の気が引いていた。

「野郎!そういうことかよ、くそったれが!!」

    低空を飛行するアパッチの機体に向け、真一のAK47が火を吹くが、いくら貫通力が高かろうと、相手は戦闘用のヘリだ。
    意にも介さないアパッチは、目標物を定めた。二人は、あの忘れられない短い発射音を再び、耳にすることになる。
    まるで、これから起こる惨劇の幕を、開戦の狼煙をあげるかのような火柱を上げ、トンネルの上部に着弾したミサイルは、多数の死者を巻き込み、出入り口を完全に破壊してのけた。
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