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第15部 誘導
しおりを挟む「やっと来たね」
「すみません、遅くなりました」
田辺は車から降りると浜岡へ軽く頭を下げた。そして、窺うように顔をあげる。浜岡は、一度だけ頷き、高層マンションを仰ぎ言った。
「野田貴子さん......随分と芯が強い娘だねえ」
「ええ、彼女は昔からそうなんですよ。自分の信じるものを信じられる。その分、信じられないものは頑なに信じない」
田辺は、くすり、と笑みを洩らした。なにか思い出すことでもあったのだろうか。そんな様子とは裏腹な心境が胸中では渦巻いているのだろう。
田辺の笑顔が胸に刺さった浜岡は、場を濁すように先だってエレベーターのボタンを押した。
「しかし、彼女にとっては辛い事態になるのだろうね。君が来るまでに少し話しをしたが......彼女はどんなことがあっても父親を嫌いにはなれないだろう」
途中、言葉を区切ったときに秘めた思いを汲み取った田辺は、言いにくそうに返す。
「......浜岡さんには話しておきたいことがあります」
「ん?なんだい?」
「浜岡さんは......公園でバラバラに切断された死体が発見された事件を覚えていますか?」
エレベーターが階数の点滅を下げていく中、浜岡は振り返らずに答えた。
「あの事件を忘れろという方が無理だよ。君が取り乱した様は凄まじかったからね」
どうにも話し辛そうに、田辺は胸ポケットから抜いたペンで頭を掻いた。
「浜岡さんに伝えてはいませんでしたが、僕と野田さんは古い付き合いなんですよ」
一瞬、驚いた表情を見せた浜岡は、すぐさま取り繕ってみせる。誰かと話しをする際には、まず相手の話しに耳を傾ける。それは浜岡が田辺に言ったことだ。
「高校生の頃から彼は他とは違いました。一つのことに集中したら、とことんまで突き進んでいくタイプで、自分を曲げることが出来なかったんですよ」
その点は、貴子に受け継がれたのだろうか。エレベーターの扉が開き、二人は乗り込んだ。
「そんな男は、ある時、とある女性と出会いました」
そこで田辺の顔付きが険しくなった。いや、一層、暗くなったようだ。
浜岡はエレベーターの開閉ボタンも押さず、頷きや返事もせずに、言葉を待っている。それが、田辺には有り難かった。一息吸い込み、田辺は一気に訊いた。
「浜岡さん、野田良子という名前を覚えていますか?」
この場だけ時間の流れが変わったかのように、エレベーターの扉が段階的にジワリジワリと閉じていっているような気がした浜岡は、顎を引いてたっぷりと記憶を探った。
「すみません、遅くなりました」
田辺は車から降りると浜岡へ軽く頭を下げた。そして、窺うように顔をあげる。浜岡は、一度だけ頷き、高層マンションを仰ぎ言った。
「野田貴子さん......随分と芯が強い娘だねえ」
「ええ、彼女は昔からそうなんですよ。自分の信じるものを信じられる。その分、信じられないものは頑なに信じない」
田辺は、くすり、と笑みを洩らした。なにか思い出すことでもあったのだろうか。そんな様子とは裏腹な心境が胸中では渦巻いているのだろう。
田辺の笑顔が胸に刺さった浜岡は、場を濁すように先だってエレベーターのボタンを押した。
「しかし、彼女にとっては辛い事態になるのだろうね。君が来るまでに少し話しをしたが......彼女はどんなことがあっても父親を嫌いにはなれないだろう」
途中、言葉を区切ったときに秘めた思いを汲み取った田辺は、言いにくそうに返す。
「......浜岡さんには話しておきたいことがあります」
「ん?なんだい?」
「浜岡さんは......公園でバラバラに切断された死体が発見された事件を覚えていますか?」
エレベーターが階数の点滅を下げていく中、浜岡は振り返らずに答えた。
「あの事件を忘れろという方が無理だよ。君が取り乱した様は凄まじかったからね」
どうにも話し辛そうに、田辺は胸ポケットから抜いたペンで頭を掻いた。
「浜岡さんに伝えてはいませんでしたが、僕と野田さんは古い付き合いなんですよ」
一瞬、驚いた表情を見せた浜岡は、すぐさま取り繕ってみせる。誰かと話しをする際には、まず相手の話しに耳を傾ける。それは浜岡が田辺に言ったことだ。
「高校生の頃から彼は他とは違いました。一つのことに集中したら、とことんまで突き進んでいくタイプで、自分を曲げることが出来なかったんですよ」
その点は、貴子に受け継がれたのだろうか。エレベーターの扉が開き、二人は乗り込んだ。
「そんな男は、ある時、とある女性と出会いました」
そこで田辺の顔付きが険しくなった。いや、一層、暗くなったようだ。
浜岡はエレベーターの開閉ボタンも押さず、頷きや返事もせずに、言葉を待っている。それが、田辺には有り難かった。一息吸い込み、田辺は一気に訊いた。
「浜岡さん、野田良子という名前を覚えていますか?」
この場だけ時間の流れが変わったかのように、エレベーターの扉が段階的にジワリジワリと閉じていっているような気がした浜岡は、顎を引いてたっぷりと記憶を探った。
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