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第15話
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※※※ ※※※
なぜ、こうなってしまったんだ。
私はどこで間違えてしまったんだ。あの墜落事故から、必死に世界の救済に動いていたというのに。必死になって子供を救うことを考えていたというのに。振り返れば、血走った眼で追いかけてくる人間と、一心不乱に肉を食らおうとする使徒の群れがある。
いや、そうではない。使徒は常にこちらの味方だ。それ見ろ、また一人使徒に捕まり、その身体を解体されているではないか。
そうだ、そうだ、そうなのだ。私は一人ではない。
安部は中間市のショッパーズモール内にある商店場に逃れていた。ここは、ほぼ一本道であり、出口から使徒が入り込まない限りは背後からしか襲われる心配がない。
使徒は、あの爆発により破られたバリケードを通るしか侵入する方法がなく、安部が先頭を走っている限り、少なくとも挟み撃ちにあうこともない。そこを抜けた先にあるのは、ショッパーズモールの南口の出入り口、子供向けのゲームセンターで、安部の狙いはそこにあった。
出入り口にはシャッターが下りている。つまりは、行き止まりだ。しかし、ゲームセンターには、安部の巨体を隠す場所はいくらでもある。
安部は、息つく間もとらず、八台並べられたUFOキャッチャーの天井に寝そべり息を潜めた。
ここを選んだもう一つの理由は壁紙だ。このゲームセンターの一画のみ白い壁紙を使用しており、安部の服装と同じ色だった。安部は、位置を決めると上着を脱いで髪を隠す。
追いかけている集団は、単純な心理で動いている。つまり、安部の背中を追っているのではなく、危険が迫りつつある状況の中では、先頭を走る者を無意識に追いかけてしまうのだ。
そして、それほど緊迫していると、人間というものは、どれだけ視野が広かろうとも、簡単なトリックにも気づかない。
やがて、安部の耳に悲鳴にも似た怒声が届く。
「おい!あの野郎どこにいきやがった!」
「そんなことより、なんだよここ!逃げられねえ!」
「冗談でしょ!?早くシャッター開けなさいよ!」
「ふざけんな!鍵だって無いのに、開け方なんか知らねえよ!」
「いやあああああ!どうすんのよ!ねえ!アイツらがきちゃうじゃない!」
「ちくしょう!クソォ!あの金魚の糞野郎!俺たちは嵌められたのかよ!」
「ねえ!そんなことより早くどうにかしなさいよ!ねえ!」
「黙れ!ならお前がどうにかやってみろよ!」
「あああああぁぁ!来た!来たぁぁぁぁぁ!」
そこからは、まるで閉じ込められた狭い空間でオーケストラを演奏されるような騒がしい悲鳴や嘆声、悲痛の叫びが響き渡った。
誰かを囮にして逃げようとする声、自分だけでも助けてくれ、と懇願する泣き声、どうにかシャッターを開こうとしているのか、激しくシャッターを叩く音、様々な音が入り雑じり、安部は一人怪しく嗤った。
そうだ、この世界はひどく醜いものなのだ。
だからこそ、私はこの世界を救済しようとしている。これは、私に牙を向けた者達に対する天罰なのだ。
徐々に悲鳴は消えていき、代わりに聴こえてきたのは、肉を歯で潰し、骨を砕き、嚥下する僅かな咀嚼音だった。
人を自らの陥穽に落とす瞬間とは、なんという心地好さなのだろうか。
安部は、まるで子守唄でも聞く子供のような表情で息を潜め続けた。
なぜ、こうなってしまったんだ。
私はどこで間違えてしまったんだ。あの墜落事故から、必死に世界の救済に動いていたというのに。必死になって子供を救うことを考えていたというのに。振り返れば、血走った眼で追いかけてくる人間と、一心不乱に肉を食らおうとする使徒の群れがある。
いや、そうではない。使徒は常にこちらの味方だ。それ見ろ、また一人使徒に捕まり、その身体を解体されているではないか。
そうだ、そうだ、そうなのだ。私は一人ではない。
安部は中間市のショッパーズモール内にある商店場に逃れていた。ここは、ほぼ一本道であり、出口から使徒が入り込まない限りは背後からしか襲われる心配がない。
使徒は、あの爆発により破られたバリケードを通るしか侵入する方法がなく、安部が先頭を走っている限り、少なくとも挟み撃ちにあうこともない。そこを抜けた先にあるのは、ショッパーズモールの南口の出入り口、子供向けのゲームセンターで、安部の狙いはそこにあった。
出入り口にはシャッターが下りている。つまりは、行き止まりだ。しかし、ゲームセンターには、安部の巨体を隠す場所はいくらでもある。
安部は、息つく間もとらず、八台並べられたUFOキャッチャーの天井に寝そべり息を潜めた。
ここを選んだもう一つの理由は壁紙だ。このゲームセンターの一画のみ白い壁紙を使用しており、安部の服装と同じ色だった。安部は、位置を決めると上着を脱いで髪を隠す。
追いかけている集団は、単純な心理で動いている。つまり、安部の背中を追っているのではなく、危険が迫りつつある状況の中では、先頭を走る者を無意識に追いかけてしまうのだ。
そして、それほど緊迫していると、人間というものは、どれだけ視野が広かろうとも、簡単なトリックにも気づかない。
やがて、安部の耳に悲鳴にも似た怒声が届く。
「おい!あの野郎どこにいきやがった!」
「そんなことより、なんだよここ!逃げられねえ!」
「冗談でしょ!?早くシャッター開けなさいよ!」
「ふざけんな!鍵だって無いのに、開け方なんか知らねえよ!」
「いやあああああ!どうすんのよ!ねえ!アイツらがきちゃうじゃない!」
「ちくしょう!クソォ!あの金魚の糞野郎!俺たちは嵌められたのかよ!」
「ねえ!そんなことより早くどうにかしなさいよ!ねえ!」
「黙れ!ならお前がどうにかやってみろよ!」
「あああああぁぁ!来た!来たぁぁぁぁぁ!」
そこからは、まるで閉じ込められた狭い空間でオーケストラを演奏されるような騒がしい悲鳴や嘆声、悲痛の叫びが響き渡った。
誰かを囮にして逃げようとする声、自分だけでも助けてくれ、と懇願する泣き声、どうにかシャッターを開こうとしているのか、激しくシャッターを叩く音、様々な音が入り雑じり、安部は一人怪しく嗤った。
そうだ、この世界はひどく醜いものなのだ。
だからこそ、私はこの世界を救済しようとしている。これは、私に牙を向けた者達に対する天罰なのだ。
徐々に悲鳴は消えていき、代わりに聴こえてきたのは、肉を歯で潰し、骨を砕き、嚥下する僅かな咀嚼音だった。
人を自らの陥穽に落とす瞬間とは、なんという心地好さなのだろうか。
安部は、まるで子守唄でも聞く子供のような表情で息を潜め続けた。
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