感染

宇宙人

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第11話

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    階段下では浩太が腕を組んで三人を見上げていたが、彰一の顔を視認してから口を切った。

「......どうした?」

「......なんでもない、あのさ、浩太さん」

 彰一は階段を降りると、浩太よりも一段高い位置で止まる。これが、今の彰一にとって精一杯の姿勢だった。浩太が僅かに視線を上げる。

「その達也って奴は、やっぱり信じられない。けど、会うまでは俺の気持ちを隠すようにする......それで良い?」

「......二人には話さないってことか?」

 安堵にも似た表情を浮かべた浩太に対して彰一は首を振った。

「いいや、それは駄目だ。ただ、俺の考えを変えるだけだよ」

 浩太の憂慮はこの惨劇を聴いた祐介の反応にある。もしも、祐介までもが彰一のようになってしまえば、達也を救出せずに、入手した武器で脱出の手段を探る方に作戦がシフトしてしまい、達也の件は、オマケになってしまう可能性がある。法がなくなった現在の九州地方は、民主主義が際立っていた。しかし、彰一は少なくとも達也に会う気はあるようで、その点だけは救われた。
 言葉に買い言葉で強がってしまった時は、もう諦めてしまっていたが、説得してくれたのは阿里沙だろうか、と一瞥すれば微笑みを返された。
    浩太は、彰一を見据えて頷く。

「ああ、それだけでも充分だ。ありがとう。その、いろいろ悪かったな」

「......こっちこそ、悪かった」

 浩太が差し出した煙草を受け取り、彰一がライターを点けた時、気分を一新するような明るい声音が頭上から降ってくる。

「よし、それじゃ、改めて車に戻ろ!」

 阿里沙は、彰一の肩を尻に火をつけるように強く叩く。急がせて気を紛らわせようとしているのだろう。そんな阿里沙の姿に彰一は、小さく笑った。

「......強いな、やっぱり」

「そうだな。女の子ってのは強いもんなんだよ」

 浩太もつられて口の端をあげ、短く肩を揺らした。精神的な問題で、男性が女性に勝てることはないのだろう。
    四人は、家を出ると特有の鉄錆の臭いに眉を寄せつつも歩きだし、車までの距離が半ば程になった時、阿里沙が口火を切る。

「そういえば、あの音はなんだったのかな?」

 達也の問題で先伸ばしになっていた爆音は小さいものだったが、状況から考慮すれば、かなりの距離があるのは間違いない。だが、捨て置ける問題でもなく、浩太が少し考えてから振り返る。

「それは、全員が揃って話し合った方が良いと思うが......三人はどう思う?」

 浩太の問い掛けに、彰一が返す。

「賛成だ。俺達だけで決めて良いとは思わない」

 達也の件に触れなかった彰一だが、暗にその話しも含まれているであろう口調だった。
    あえて浩太も何も言わずに、阿里沙へ視線を送った。

「あたしもそう思う。加奈子ちゃんもそれで良いかな?」

 阿里沙が尋ねれば、加奈子が首肯する。
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