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第14話
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「そちらは、田辺君に頼まれて調べたものです。何か気付きませんか?」
それは、九州地方感染事件が起きる一週間以内に健康診断を行った会社のリストアップだった。斎藤は一枚を手にして目を皿にして文字を追っていく。
「なんだ?何もおかしなところはないように思うが......ただ、会社名を並べているだけだろ」
「いいえ、各会社の関係者欄を見て下さい」
浜岡の言葉通りに、斎藤が注目する。すると、リストアップされた数十社の内、一軒によく知る名前が載っていた。
「戸部総理か?」
ご名答、と斎藤を指差した浜岡は、続けて二枚目を斎藤に渡す。今度は、健康診断を行った病院が掲載されているが、詳しく一件のみ記載されていた。関係者欄には「戸部」に続けて「野田」の名前がある。
「以前、そこには小さな病院があったようなのですが、廃院になり、戸部総理と野田さんが買い取ったそうで、市民に医療を提供する場として出張診断などに活躍しているそうです」
斎藤が怪訝に眉をしかめる。
「それがなんの関係があるんだ?」
まあまあ、と宥めるように浜岡は両手を向けて続ける。
「前提として、田辺君はこの両名が今回の事件を起こした黒幕であると睨んでいるのではないかと考えています」
浜岡の言葉に貴子は勢いよく立ち上がり、右手を振り上げたが、浜岡がニコリと口角を上げたことにより、降り下ろせなかった。笑顔の裏に、妙な威圧感がある。忌憚のない物言いの後、浜岡はソファーに深く腰を預けた。
「健康診断を受けた会社にいる知り合いに聴いてみたところ、成績優秀者に社員旅行をプレゼントしていまして、旅行前に体調検査を行ったそうです。診断を受けたのは数名でした。実はですね、その会社は以前、ブラック企業を題材にした記事で取り上げたことがありまして......まだ、厚労省の職員として成果をあげ始めた頃の野田さんがテコ入れに入ったとの噂がありまして、それ以来、その会社の社長は頭があがらないそうでしてね」
「それは、お前のこじつけにしか聞こえないぞ。そう上手く知り合いなんざいる筈がない。それともネットで調べたのか?」
斎藤の嫌味な指摘に、浜岡は不敵な笑みを浮かべる。
「斎藤さん、記者という仕事は、情報はもちろん、人脈がなければ成り立たない職業なんですよ。インターネットは国際社会を共同体にしましたが、その分、人の繋がりを薄れさせる。心を閉鎖的にさせるネット社会とは恐ろしいものですね」
浜岡の皮肉に、斎藤は舌を打った。あのメッセージを読み解けなかったのは、表に見えるものばかりを追っていたからだ。
情報を探る時にはインターネットを利用する。それは間違いではないが、額面通りに受け取ってしまえば、間違いには気づけない。同じく、テレビで誰かがした発言を、そのまま真に受け考えることを止めてしまえば、そこで終わりだ。
インターネットの弊害は、情報に対して視野を狭め、人間関係を希薄にする。そんな情報をもつ知り合いなんかいるはずがない、と決めつけたことが何よりの証拠のように思えた。
「話を戻します......と言っても、もうここから先は田辺君に聞くしかないのですが......聞きたいですか?」
浜岡は、わざとらしく貴子へ話を振った。嫌悪感を隠そうともせずに、貴子は強い拒絶を示す。
「結構です。あなたは、人が不愉快になっていることが分からないのですか?」
腰を落とした貴子は、ソファー座ることもなく、ティーカップをそそくさとシンクへ持っていった。
それは、九州地方感染事件が起きる一週間以内に健康診断を行った会社のリストアップだった。斎藤は一枚を手にして目を皿にして文字を追っていく。
「なんだ?何もおかしなところはないように思うが......ただ、会社名を並べているだけだろ」
「いいえ、各会社の関係者欄を見て下さい」
浜岡の言葉通りに、斎藤が注目する。すると、リストアップされた数十社の内、一軒によく知る名前が載っていた。
「戸部総理か?」
ご名答、と斎藤を指差した浜岡は、続けて二枚目を斎藤に渡す。今度は、健康診断を行った病院が掲載されているが、詳しく一件のみ記載されていた。関係者欄には「戸部」に続けて「野田」の名前がある。
「以前、そこには小さな病院があったようなのですが、廃院になり、戸部総理と野田さんが買い取ったそうで、市民に医療を提供する場として出張診断などに活躍しているそうです」
斎藤が怪訝に眉をしかめる。
「それがなんの関係があるんだ?」
まあまあ、と宥めるように浜岡は両手を向けて続ける。
「前提として、田辺君はこの両名が今回の事件を起こした黒幕であると睨んでいるのではないかと考えています」
浜岡の言葉に貴子は勢いよく立ち上がり、右手を振り上げたが、浜岡がニコリと口角を上げたことにより、降り下ろせなかった。笑顔の裏に、妙な威圧感がある。忌憚のない物言いの後、浜岡はソファーに深く腰を預けた。
「健康診断を受けた会社にいる知り合いに聴いてみたところ、成績優秀者に社員旅行をプレゼントしていまして、旅行前に体調検査を行ったそうです。診断を受けたのは数名でした。実はですね、その会社は以前、ブラック企業を題材にした記事で取り上げたことがありまして......まだ、厚労省の職員として成果をあげ始めた頃の野田さんがテコ入れに入ったとの噂がありまして、それ以来、その会社の社長は頭があがらないそうでしてね」
「それは、お前のこじつけにしか聞こえないぞ。そう上手く知り合いなんざいる筈がない。それともネットで調べたのか?」
斎藤の嫌味な指摘に、浜岡は不敵な笑みを浮かべる。
「斎藤さん、記者という仕事は、情報はもちろん、人脈がなければ成り立たない職業なんですよ。インターネットは国際社会を共同体にしましたが、その分、人の繋がりを薄れさせる。心を閉鎖的にさせるネット社会とは恐ろしいものですね」
浜岡の皮肉に、斎藤は舌を打った。あのメッセージを読み解けなかったのは、表に見えるものばかりを追っていたからだ。
情報を探る時にはインターネットを利用する。それは間違いではないが、額面通りに受け取ってしまえば、間違いには気づけない。同じく、テレビで誰かがした発言を、そのまま真に受け考えることを止めてしまえば、そこで終わりだ。
インターネットの弊害は、情報に対して視野を狭め、人間関係を希薄にする。そんな情報をもつ知り合いなんかいるはずがない、と決めつけたことが何よりの証拠のように思えた。
「話を戻します......と言っても、もうここから先は田辺君に聞くしかないのですが......聞きたいですか?」
浜岡は、わざとらしく貴子へ話を振った。嫌悪感を隠そうともせずに、貴子は強い拒絶を示す。
「結構です。あなたは、人が不愉快になっていることが分からないのですか?」
腰を落とした貴子は、ソファー座ることもなく、ティーカップをそそくさとシンクへ持っていった。
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