感染

saijya

文字の大きさ
上 下
157 / 419

第14話

しおりを挟む
「そちらは、田辺君に頼まれて調べたものです。何か気付きませんか?」

 それは、九州地方感染事件が起きる一週間以内に健康診断を行った会社のリストアップだった。斎藤は一枚を手にして目を皿にして文字を追っていく。
 
「なんだ?何もおかしなところはないように思うが......ただ、会社名を並べているだけだろ」

「いいえ、各会社の関係者欄を見て下さい」

 浜岡の言葉通りに、斎藤が注目する。すると、リストアップされた数十社の内、一軒によく知る名前が載っていた。 

「戸部総理か?」

 ご名答、と斎藤を指差した浜岡は、続けて二枚目を斎藤に渡す。今度は、健康診断を行った病院が掲載されているが、詳しく一件のみ記載されていた。関係者欄には「戸部」に続けて「野田」の名前がある。

「以前、そこには小さな病院があったようなのですが、廃院になり、戸部総理と野田さんが買い取ったそうで、市民に医療を提供する場として出張診断などに活躍しているそうです」

 斎藤が怪訝に眉をしかめる。

「それがなんの関係があるんだ?」 

 まあまあ、と宥めるように浜岡は両手を向けて続ける。

「前提として、田辺君はこの両名が今回の事件を起こした黒幕であると睨んでいるのではないかと考えています」

 浜岡の言葉に貴子は勢いよく立ち上がり、右手を振り上げたが、浜岡がニコリと口角を上げたことにより、降り下ろせなかった。笑顔の裏に、妙な威圧感がある。忌憚のない物言いの後、浜岡はソファーに深く腰を預けた。

「健康診断を受けた会社にいる知り合いに聴いてみたところ、成績優秀者に社員旅行をプレゼントしていまして、旅行前に体調検査を行ったそうです。診断を受けたのは数名でした。実はですね、その会社は以前、ブラック企業を題材にした記事で取り上げたことがありまして......まだ、厚労省の職員として成果をあげ始めた頃の野田さんがテコ入れに入ったとの噂がありまして、それ以来、その会社の社長は頭があがらないそうでしてね」

「それは、お前のこじつけにしか聞こえないぞ。そう上手く知り合いなんざいる筈がない。それともネットで調べたのか?」

 斎藤の嫌味な指摘に、浜岡は不敵な笑みを浮かべる。

「斎藤さん、記者という仕事は、情報はもちろん、人脈がなければ成り立たない職業なんですよ。インターネットは国際社会を共同体にしましたが、その分、人の繋がりを薄れさせる。心を閉鎖的にさせるネット社会とは恐ろしいものですね」

 浜岡の皮肉に、斎藤は舌を打った。あのメッセージを読み解けなかったのは、表に見えるものばかりを追っていたからだ。
    情報を探る時にはインターネットを利用する。それは間違いではないが、額面通りに受け取ってしまえば、間違いには気づけない。同じく、テレビで誰かがした発言を、そのまま真に受け考えることを止めてしまえば、そこで終わりだ。
 インターネットの弊害は、情報に対して視野を狭め、人間関係を希薄にする。そんな情報をもつ知り合いなんかいるはずがない、と決めつけたことが何よりの証拠のように思えた。

「話を戻します......と言っても、もうここから先は田辺君に聞くしかないのですが......聞きたいですか?」

 浜岡は、わざとらしく貴子へ話を振った。嫌悪感を隠そうともせずに、貴子は強い拒絶を示す。 

「結構です。あなたは、人が不愉快になっていることが分からないのですか?」

 腰を落とした貴子は、ソファー座ることもなく、ティーカップをそそくさとシンクへ持っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

岬ノ村の因習

めにははを
ホラー
某県某所。 山々に囲われた陸の孤島『岬ノ村』では、五年に一度の豊穣の儀が行われようとしていた。 村人達は全国各地から生贄を集めて『みさかえ様』に捧げる。 それは終わらない惨劇の始まりとなった。

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

怖い話短編集

お粥定食
ホラー
怖い話をまとめたお話集です。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する

黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。 だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。 どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど?? ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に── 家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。 何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。 しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。 友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。 ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。 表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、 ©2020黄札

処理中です...