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第12話
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茫然自失とする浩太の肩を叩いたのは阿里沙だった。
「まだ落ち込むには早いですよ。階段の足跡を調べてたんですが、あの足跡は登りにしか付いてなかったんです。そして、足跡は窓際にもあった……窓から逃げ出したか、誰かが運び出した可能性もありませんか?」
「......誰かだと?そんなもん」
浩太の反駁に阿里沙が鋭く返す。
「死者ではないです。そんな器用なことが出来るとは思えませんし、突き落とされた人の方に群がると思います。予想ですけど、人を囮に使って窓から逃げ出したんじゃないでしょうか......」
途端、阿里沙に暗い影が下りた。分かっている。直接の面識がないとは言え、人間を囮に使うような自衛官を仲間に入れることに憂慮しているのだろう。自分が助かる為に、他人を犠牲にするような者は信用できない。そう、はっきりと表情に出ている。
「......達也が生きてる希望が残っているなら充分だ」
浩太は、三人の疑念には答えずに、立ち上がった。彰一が一歩踏み出す。
「浩太さん、分かってんだろ?これが、どういう意味かさ!」
「......ああ、分かってる」
「ッ......なら!なんとか言ってくれよ!あの手摺の血を見ただろ!下に鋭く延びてたんだぞ!明らかに突き落とした跡だろうが!」
「それを達也がしたって証拠がないのも事実だろ」
カッ、となった彰一は反射的に浩太の胸ぐらを掴みあげた。
浩太が短く呻くと捲し立てるように、彰一が言った。
「そいつを庇いたい気持ちは分かる。けどな、俺達にとっちゃ死活問題なんだよ!今の仲間みたいに信用に足りる人間かどうかってのはな!達也ってのはどんな奴かは知らないけど、まともな奴なのかよ!」
二階で交わした会話の中で、彰一は仲間から囮にされたと言っていた。過敏な反応はそれからきているのだろう。
浩太が勢いのまま反論する。
「少なくとも、俺達といる時は、まともだったよ!」
「少なくともだと?じゃあ、今はどうなってんだよ!さっき、俺達から目を反らしたよな!アンタも自信がないんだろうが!」
「違う!俺が知ってる達也はそんな奴じゃねえ!会っても無いのに知った口を叩くな!」
「止めてよ!二人とも!」
阿里沙が二人の間に身体ごと入り引き離した。ふうふう、と興奮気味に肩を上下させている彰一へ阿里沙が口を開く。
「落ちついてよ!その達也って人に会うまではどんな人か何て分からないんだから、浩太さんを責めてもなんにもなんないよ!」
「お前、分かってんのか?なんかあってからじゃ遅いんだぞ!」
「だから、それを会って確かめるんでしょ!」
「それじゃあ遅いって言ってんだよ!仲間に、もしもがあったら、俺達は浩太さんに怒りの矛先を向けなきゃいけなくなるんだぞ!そうなれば、信頼も何も無くなっちまうだろうが!」
仲間を思う気持ちの強さを現すように、ぐいっ、と阿里沙が抑える腕ごと前に進んだ彰一は、浩太を睨むように目線を合わせる。
「なあ......そうなったらアンタどうするんだよ!」
射抜くような視線を受ける。逃げ場の一切を奪う尖った目力に圧倒されそうになりながら、浩太は彰一の双眸を見つめ返す。
「......そうなった時は、俺が達也からケジメをとる」
彰一は、しばらく口を閉ざしていた。ただ黙って浩太の眼を見続けている。やがて、息を薄く吐くような細さで、彰一が確認するように尋ねた。
「......二言はないんだよな」
「ああ、勿論、二言はない」
浩太の返事を聴いて、彰一は肩から力を抜いた。とりあえずの信用は得れた浩太だが、一つの懸念を残されてしまう。二階に上がる手摺に付けられた血痕を見上げ、返事のない問い掛けに、ただ喋ることもなく索漠とした気持ちだけが膨らんでいく。
達也、お前、本当に壊れちまったのか?
その時、遠方から響く破壊音を四人の耳が拾った。
「まだ落ち込むには早いですよ。階段の足跡を調べてたんですが、あの足跡は登りにしか付いてなかったんです。そして、足跡は窓際にもあった……窓から逃げ出したか、誰かが運び出した可能性もありませんか?」
「......誰かだと?そんなもん」
浩太の反駁に阿里沙が鋭く返す。
「死者ではないです。そんな器用なことが出来るとは思えませんし、突き落とされた人の方に群がると思います。予想ですけど、人を囮に使って窓から逃げ出したんじゃないでしょうか......」
途端、阿里沙に暗い影が下りた。分かっている。直接の面識がないとは言え、人間を囮に使うような自衛官を仲間に入れることに憂慮しているのだろう。自分が助かる為に、他人を犠牲にするような者は信用できない。そう、はっきりと表情に出ている。
「......達也が生きてる希望が残っているなら充分だ」
浩太は、三人の疑念には答えずに、立ち上がった。彰一が一歩踏み出す。
「浩太さん、分かってんだろ?これが、どういう意味かさ!」
「......ああ、分かってる」
「ッ......なら!なんとか言ってくれよ!あの手摺の血を見ただろ!下に鋭く延びてたんだぞ!明らかに突き落とした跡だろうが!」
「それを達也がしたって証拠がないのも事実だろ」
カッ、となった彰一は反射的に浩太の胸ぐらを掴みあげた。
浩太が短く呻くと捲し立てるように、彰一が言った。
「そいつを庇いたい気持ちは分かる。けどな、俺達にとっちゃ死活問題なんだよ!今の仲間みたいに信用に足りる人間かどうかってのはな!達也ってのはどんな奴かは知らないけど、まともな奴なのかよ!」
二階で交わした会話の中で、彰一は仲間から囮にされたと言っていた。過敏な反応はそれからきているのだろう。
浩太が勢いのまま反論する。
「少なくとも、俺達といる時は、まともだったよ!」
「少なくともだと?じゃあ、今はどうなってんだよ!さっき、俺達から目を反らしたよな!アンタも自信がないんだろうが!」
「違う!俺が知ってる達也はそんな奴じゃねえ!会っても無いのに知った口を叩くな!」
「止めてよ!二人とも!」
阿里沙が二人の間に身体ごと入り引き離した。ふうふう、と興奮気味に肩を上下させている彰一へ阿里沙が口を開く。
「落ちついてよ!その達也って人に会うまではどんな人か何て分からないんだから、浩太さんを責めてもなんにもなんないよ!」
「お前、分かってんのか?なんかあってからじゃ遅いんだぞ!」
「だから、それを会って確かめるんでしょ!」
「それじゃあ遅いって言ってんだよ!仲間に、もしもがあったら、俺達は浩太さんに怒りの矛先を向けなきゃいけなくなるんだぞ!そうなれば、信頼も何も無くなっちまうだろうが!」
仲間を思う気持ちの強さを現すように、ぐいっ、と阿里沙が抑える腕ごと前に進んだ彰一は、浩太を睨むように目線を合わせる。
「なあ......そうなったらアンタどうするんだよ!」
射抜くような視線を受ける。逃げ場の一切を奪う尖った目力に圧倒されそうになりながら、浩太は彰一の双眸を見つめ返す。
「......そうなった時は、俺が達也からケジメをとる」
彰一は、しばらく口を閉ざしていた。ただ黙って浩太の眼を見続けている。やがて、息を薄く吐くような細さで、彰一が確認するように尋ねた。
「......二言はないんだよな」
「ああ、勿論、二言はない」
浩太の返事を聴いて、彰一は肩から力を抜いた。とりあえずの信用は得れた浩太だが、一つの懸念を残されてしまう。二階に上がる手摺に付けられた血痕を見上げ、返事のない問い掛けに、ただ喋ることもなく索漠とした気持ちだけが膨らんでいく。
達也、お前、本当に壊れちまったのか?
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