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第9話
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「......車の盗みかた教えたり、煙草の吸いかた教えたり......何て言うか、随分と個性的な父親だったんだな」
言葉を選んだような浩太の口調に、彰一は吹き出す。
「何、気をつかってんだ。別に良いよ、ロクでもない親父だったことに変わりはない」
顔を下げた浩太は失敗した、と肩を落とした。少しでも距離を縮めて、より強い信頼関係を築こうとしたのだが、裏目に出てしまったようだ。単純で軽率、勢いだけの発言だった。九州地方の現状を頭に僅かでも残していれば、出てこなかった一言だろう。真一のようなノリは、やっぱり自分には向いていない。
「......少し俺の親父について話すよ」
不意に彰一がそう言った。浩太が顔をあげる。
「俺の親父はヤクザだった。そりゃ酷い毎日だったよ。餓鬼の前で覚醒剤やマリファナを平気で食うような奴だった。母親は俺を置いて逃げたから、その皺寄せが俺に向いたりしてたな。家に帰りたくなくなるのも当然だと思わねえか?」
明るく話す彰一に、浩太は更に肩をすぼめた。辛い過去を引きずり出しただけじゃないか。すると、目の前に右手を差し出され、一体なにかと首を傾げれば、煙草の催促だと思い至り一本渡した。
浩太の返事は聞かずに、彰一は火を点ける。
「そんな訳で、俺も悪い連中と付き合い始めて警察の厄介になることも増えた。けどさ、やっぱり楽しかったんだよな。そんな連中とつるむのは......なんか、本当に兄弟みたいだったよ、家族が出来たなんて思ってた」
「......家族か」
「ああ、家族だ。その頃には、祐介と阿里沙の親父に補導されまくってた。学校も行かずに、黒崎やら小倉で遊び回ってたらそうなるわな」
一度区切りを作るように、彰一は煙草の煙を吐き出す。しばらくの無言を破ったのは、浩太の短い声だった。
「......それで?」
「飛行機が墜落したニュースを聞いたのは、一人で黒崎の家電屋にいた時だったよ。場所は皿倉山、俺は仲間を集めて物見遊山で野次馬を掻き分けて近付いてい写真を撮ったりしてた。俺の自宅は帆柱にあるし、親父は居なかったから遅くまで酒を呑んで騒いでた」
浩太は、黙然としたまま、先を促すように頷いたが、彰一は肩をすくねてから続けた。
「そっから先は、多分、アンタらと同じだ。奴等が押し寄せてきて、仲間を起こしてたら三人が食われた。そいつらが食われてる隙に、俺を含めて四人が窓から逃げて、二人は食われたよ」
最後に聞こえたワードに腑に落ちない部分があり、浩太は尋ねる。
「......二人?」
「死者の大群から逃げる時に、俺を囮にしやがったから、一人は俺が殺したよ。人間の感情って不思議なもんだよな......あれだけ家族だと思ってた奴も、いざとなったら怒りのままコントロール出来なくなっちまう。もう、家族ってやつの正しい形が分からなくなって、心にある黒いもんを発散したくてしょうがなかった。だからさ、警察署で死者を......死者になる前の奴等にも憎しみや苛立ちを丸ごとぶつけて、皆殺しにしてやろうとも考えてた」
言葉を選んだような浩太の口調に、彰一は吹き出す。
「何、気をつかってんだ。別に良いよ、ロクでもない親父だったことに変わりはない」
顔を下げた浩太は失敗した、と肩を落とした。少しでも距離を縮めて、より強い信頼関係を築こうとしたのだが、裏目に出てしまったようだ。単純で軽率、勢いだけの発言だった。九州地方の現状を頭に僅かでも残していれば、出てこなかった一言だろう。真一のようなノリは、やっぱり自分には向いていない。
「......少し俺の親父について話すよ」
不意に彰一がそう言った。浩太が顔をあげる。
「俺の親父はヤクザだった。そりゃ酷い毎日だったよ。餓鬼の前で覚醒剤やマリファナを平気で食うような奴だった。母親は俺を置いて逃げたから、その皺寄せが俺に向いたりしてたな。家に帰りたくなくなるのも当然だと思わねえか?」
明るく話す彰一に、浩太は更に肩をすぼめた。辛い過去を引きずり出しただけじゃないか。すると、目の前に右手を差し出され、一体なにかと首を傾げれば、煙草の催促だと思い至り一本渡した。
浩太の返事は聞かずに、彰一は火を点ける。
「そんな訳で、俺も悪い連中と付き合い始めて警察の厄介になることも増えた。けどさ、やっぱり楽しかったんだよな。そんな連中とつるむのは......なんか、本当に兄弟みたいだったよ、家族が出来たなんて思ってた」
「......家族か」
「ああ、家族だ。その頃には、祐介と阿里沙の親父に補導されまくってた。学校も行かずに、黒崎やら小倉で遊び回ってたらそうなるわな」
一度区切りを作るように、彰一は煙草の煙を吐き出す。しばらくの無言を破ったのは、浩太の短い声だった。
「......それで?」
「飛行機が墜落したニュースを聞いたのは、一人で黒崎の家電屋にいた時だったよ。場所は皿倉山、俺は仲間を集めて物見遊山で野次馬を掻き分けて近付いてい写真を撮ったりしてた。俺の自宅は帆柱にあるし、親父は居なかったから遅くまで酒を呑んで騒いでた」
浩太は、黙然としたまま、先を促すように頷いたが、彰一は肩をすくねてから続けた。
「そっから先は、多分、アンタらと同じだ。奴等が押し寄せてきて、仲間を起こしてたら三人が食われた。そいつらが食われてる隙に、俺を含めて四人が窓から逃げて、二人は食われたよ」
最後に聞こえたワードに腑に落ちない部分があり、浩太は尋ねる。
「......二人?」
「死者の大群から逃げる時に、俺を囮にしやがったから、一人は俺が殺したよ。人間の感情って不思議なもんだよな......あれだけ家族だと思ってた奴も、いざとなったら怒りのままコントロール出来なくなっちまう。もう、家族ってやつの正しい形が分からなくなって、心にある黒いもんを発散したくてしょうがなかった。だからさ、警察署で死者を......死者になる前の奴等にも憎しみや苛立ちを丸ごとぶつけて、皆殺しにしてやろうとも考えてた」
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