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第3話
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二人は目で合図を交わす。武器が大量に残されているとすれば、恐らくそこだろう。
真一は、ナイフを抜く。もしも、死者に囲まれた時に、逃げ道を確保しておかなければならない。前準備は何をするにも必要だ。
近場の仰向けになっている死体に近付き足先で二度つついた。反応はなく、死後硬直が進んでいるようだ。頭部が凹み、大の字になったまま、空っぽになった腹部を晒しているが、腕は軽い力では動かせなかった。指先は、まだ幾分の柔らかさを残している。四肢の硬直は、約八時間で始まり、次に指先が固まる。つまり、この遺体は、死後十時間弱だろう。
直前に激しく抵抗をした場合は、早く硬直が始まるが、それは計算にいれる必要はないか。真一はそう判断を下す。
致命傷となった頭部への打撃は、転化した後に与えられたダメージだろう。死者となる心配はなさそうだ。しかし、予防するに越したことはない。ナイフの刃先を死体の額に当てると、一気に体重を乗せた。力一杯に張ったハンカチの中心を刺したような小気味良さはない。
真一は、点在する遺体の額に刃を立て続け、一段落つくと、訓練が終わった時とは比べ物にならない疲労感に見舞われ、そのまま床に座り込んだ。
「......真一さん」
「ああ、へばってる場合じゃないよな。わかってるけどよ、少し待ってくれたら嬉しいぜ」
「いや、そうじゃなくて......あれ」
机を飛び越えた祐介は、生活安全課の奥にある倒れたロッカーを指差す。それは、奇異な場景だった。
倒れた際に、開き口から転がった為に閉じ込められたのだろう。左右にガタガタと揺れ始め、それは次第に早くなる。そして、聞こえてくる獣の声。中にいるのは、間違いなく死者だ。真一が重い腰をあげ、祐介にナイフを渡す。
「俺が持ち上げるぜ......気を付けろよ」
それだけ言うと、真一はロッカーに手を掛ける。無言で首肯した祐介は、ナイフが手汗で滑らないよう、何度も握り直す。
「三......二......一!」
一息でロッカーを持ち上げ、死者の重さで扉が開く。
特徴的な青い制服が見えた。警察官の成の果てだ。死者は立ち上がると、咆哮をあげ目先の祐介に飛び掛かった。
祐介は、逆手に持ったナイフを右手に構え、左手は死者の胸へ当て、行動に制限をかける。あとは、祐介の肉を求め、ダラダラと涎と血を混じらながら叫び続ける死者の頭部に刃を突き立てるだけだ。
だが、祐介は右手を引いたまま、眼前に迫る死者の歯を遠ざけようと奮闘しているだけだった。その顔には、焦燥や不本意な感情が見え隠れしている。
「おい!祐介!急げ!」
真一の怒声にも似た声に、右手がピクリと反応するも、それを振り上げようとはせず、切歯扼腕した真一が死者を背後から羽交い締め、横倒しにすると、裂帛の気合いと共に顔面を蹴り抜いた。首の骨が折れるような鈍い音は、祐介の耳にも届く。
肩で息をしつつ真一が低く言った。
「お前......どういうつもりだよ......」
険しい形相で振り返った真一は、震える祐介を見て、鬼のような表情を弛緩させていき、戸惑いを浮かべた。
もし、考えている通りなら、こいつは、どうやって昨日の地獄を生き抜いたのだろうか。誰かに守られながら、ここまでやってきたのだろうか。
確かめるように、ゆっくりとした口調で真一は、こう尋ねた。
「お前......まだ、死者を殺したことがないのか?」
真一は、ナイフを抜く。もしも、死者に囲まれた時に、逃げ道を確保しておかなければならない。前準備は何をするにも必要だ。
近場の仰向けになっている死体に近付き足先で二度つついた。反応はなく、死後硬直が進んでいるようだ。頭部が凹み、大の字になったまま、空っぽになった腹部を晒しているが、腕は軽い力では動かせなかった。指先は、まだ幾分の柔らかさを残している。四肢の硬直は、約八時間で始まり、次に指先が固まる。つまり、この遺体は、死後十時間弱だろう。
直前に激しく抵抗をした場合は、早く硬直が始まるが、それは計算にいれる必要はないか。真一はそう判断を下す。
致命傷となった頭部への打撃は、転化した後に与えられたダメージだろう。死者となる心配はなさそうだ。しかし、予防するに越したことはない。ナイフの刃先を死体の額に当てると、一気に体重を乗せた。力一杯に張ったハンカチの中心を刺したような小気味良さはない。
真一は、点在する遺体の額に刃を立て続け、一段落つくと、訓練が終わった時とは比べ物にならない疲労感に見舞われ、そのまま床に座り込んだ。
「......真一さん」
「ああ、へばってる場合じゃないよな。わかってるけどよ、少し待ってくれたら嬉しいぜ」
「いや、そうじゃなくて......あれ」
机を飛び越えた祐介は、生活安全課の奥にある倒れたロッカーを指差す。それは、奇異な場景だった。
倒れた際に、開き口から転がった為に閉じ込められたのだろう。左右にガタガタと揺れ始め、それは次第に早くなる。そして、聞こえてくる獣の声。中にいるのは、間違いなく死者だ。真一が重い腰をあげ、祐介にナイフを渡す。
「俺が持ち上げるぜ......気を付けろよ」
それだけ言うと、真一はロッカーに手を掛ける。無言で首肯した祐介は、ナイフが手汗で滑らないよう、何度も握り直す。
「三......二......一!」
一息でロッカーを持ち上げ、死者の重さで扉が開く。
特徴的な青い制服が見えた。警察官の成の果てだ。死者は立ち上がると、咆哮をあげ目先の祐介に飛び掛かった。
祐介は、逆手に持ったナイフを右手に構え、左手は死者の胸へ当て、行動に制限をかける。あとは、祐介の肉を求め、ダラダラと涎と血を混じらながら叫び続ける死者の頭部に刃を突き立てるだけだ。
だが、祐介は右手を引いたまま、眼前に迫る死者の歯を遠ざけようと奮闘しているだけだった。その顔には、焦燥や不本意な感情が見え隠れしている。
「おい!祐介!急げ!」
真一の怒声にも似た声に、右手がピクリと反応するも、それを振り上げようとはせず、切歯扼腕した真一が死者を背後から羽交い締め、横倒しにすると、裂帛の気合いと共に顔面を蹴り抜いた。首の骨が折れるような鈍い音は、祐介の耳にも届く。
肩で息をしつつ真一が低く言った。
「お前......どういうつもりだよ......」
険しい形相で振り返った真一は、震える祐介を見て、鬼のような表情を弛緩させていき、戸惑いを浮かべた。
もし、考えている通りなら、こいつは、どうやって昨日の地獄を生き抜いたのだろうか。誰かに守られながら、ここまでやってきたのだろうか。
確かめるように、ゆっくりとした口調で真一は、こう尋ねた。
「お前......まだ、死者を殺したことがないのか?」
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