感染

宇宙人

文字の大きさ
146 / 419

第3話

しおりを挟む
    二人は目で合図を交わす。武器が大量に残されているとすれば、恐らくそこだろう。
    真一は、ナイフを抜く。もしも、死者に囲まれた時に、逃げ道を確保しておかなければならない。前準備は何をするにも必要だ。
 近場の仰向けになっている死体に近付き足先で二度つついた。反応はなく、死後硬直が進んでいるようだ。頭部が凹み、大の字になったまま、空っぽになった腹部を晒しているが、腕は軽い力では動かせなかった。指先は、まだ幾分の柔らかさを残している。四肢の硬直は、約八時間で始まり、次に指先が固まる。つまり、この遺体は、死後十時間弱だろう。
    直前に激しく抵抗をした場合は、早く硬直が始まるが、それは計算にいれる必要はないか。真一はそう判断を下す。
 致命傷となった頭部への打撃は、転化した後に与えられたダメージだろう。死者となる心配はなさそうだ。しかし、予防するに越したことはない。ナイフの刃先を死体の額に当てると、一気に体重を乗せた。力一杯に張ったハンカチの中心を刺したような小気味良さはない。
 真一は、点在する遺体の額に刃を立て続け、一段落つくと、訓練が終わった時とは比べ物にならない疲労感に見舞われ、そのまま床に座り込んだ。

「......真一さん」

「ああ、へばってる場合じゃないよな。わかってるけどよ、少し待ってくれたら嬉しいぜ」

「いや、そうじゃなくて......あれ」

 机を飛び越えた祐介は、生活安全課の奥にある倒れたロッカーを指差す。それは、奇異な場景だった。
 倒れた際に、開き口から転がった為に閉じ込められたのだろう。左右にガタガタと揺れ始め、それは次第に早くなる。そして、聞こえてくる獣の声。中にいるのは、間違いなく死者だ。真一が重い腰をあげ、祐介にナイフを渡す。

「俺が持ち上げるぜ......気を付けろよ」

 それだけ言うと、真一はロッカーに手を掛ける。無言で首肯した祐介は、ナイフが手汗で滑らないよう、何度も握り直す。

「三......二......一!」

 一息でロッカーを持ち上げ、死者の重さで扉が開く。
 特徴的な青い制服が見えた。警察官の成の果てだ。死者は立ち上がると、咆哮をあげ目先の祐介に飛び掛かった。
 祐介は、逆手に持ったナイフを右手に構え、左手は死者の胸へ当て、行動に制限をかける。あとは、祐介の肉を求め、ダラダラと涎と血を混じらながら叫び続ける死者の頭部に刃を突き立てるだけだ。
    だが、祐介は右手を引いたまま、眼前に迫る死者の歯を遠ざけようと奮闘しているだけだった。その顔には、焦燥や不本意な感情が見え隠れしている。

「おい!祐介!急げ!」

 真一の怒声にも似た声に、右手がピクリと反応するも、それを振り上げようとはせず、切歯扼腕した真一が死者を背後から羽交い締め、横倒しにすると、裂帛の気合いと共に顔面を蹴り抜いた。首の骨が折れるような鈍い音は、祐介の耳にも届く。
 肩で息をしつつ真一が低く言った。

「お前......どういうつもりだよ......」

 険しい形相で振り返った真一は、震える祐介を見て、鬼のような表情を弛緩させていき、戸惑いを浮かべた。
    もし、考えている通りなら、こいつは、どうやって昨日の地獄を生き抜いたのだろうか。誰かに守られながら、ここまでやってきたのだろうか。
    確かめるように、ゆっくりとした口調で真一は、こう尋ねた。

「お前......まだ、死者を殺したことがないのか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

三分で読める一話完結型ショートホラー小説

ROOM
ホラー
一話完結型のショートショートです。 短いけれど印象に残るそんな小説を目指します。 毎日投稿して行く予定です。楽しんでもらえると嬉しいです。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/14:『でんしれんじ』の章を追加。2026/1/21の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/13:『こえ』の章を追加。2026/1/20の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/12:『あけてはいけない』の章を追加。2026/1/19の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/11:『みきさー』の章を追加。2026/1/18の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/10:『つかまれる』の章を追加。2026/1/17の朝8時頃より公開開始予定。 2026/1/9:『ゆうじんのかお』の章を追加。2026/1/16の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/8:『ついてきたもの』の章を追加。2026/1/15の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

処理中です...