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第9話
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※※※ ※※※
無骨な迷彩色の装甲を揺らしながら、回転するキャタピラで路上に伏せていた死者の身体を無遠慮に踏み砕いた。
外部の凄惨な風景が伝わる音すらなく、車内には静謐が満たされている。74式戦車内には、三人の男が搭乗していた。
その内の一人、操縦士、坂下大地の後頭部には、89式小銃の銃口が突きつけられている。
独特なキャタピラの音と、非現実な光景は、まるでいつか見た映画のワンシーンの再現のようだ。まさか、自分が銃口の冷たさを味わう日がくることになろうとは、大地も思っていなかったことだろう。
大地は小倉基地の窮地を砲撃で救い、その後、戦車という利点を活かして、危険に遭遇することもなく小倉を脱出抜け出せた。その矢先、一台の自衛隊仕様のトラックを見つけたまでが、運の尽きだった。トラックに乗っていた二人組みは共に自衛官だ。大地に銃口を押し付けつけている一人は、体格の良い強面の男で名前を石神芳樹という。
大地の二年先輩で上官にあたる人物だが、借金を作り、挙げ句の果てには暴力行為に走るなど、基地内での評判は悪かった。
その奥で、両足を投げ出した態勢で砲手席に座っている男は、基地内での人望はそれなりに高かった新崎雄一だ。
当所、合流した大地は、心強い味方を得たと喜んだが、二人が合流した直後、戦車のハッチを空けるなり、大地と共に基地から逃げ出した車長と砲手を射殺した。硝煙がたちこもる車内に身を翻すと、石神は、小銃を大地に突き出したが、操縦士は必要という理由から、新崎はそれを咎めた。
二人の死体を動物に餌でも与えるような気軽さで処理していくのを、見ていることしか出来なかった大地は、単純に、ここでも運が良かったのだと思い込みでもしなければ、射殺された二人に申し訳ないという気持ちで心が潰されそうだった。
勾配を物ともせずに進む74式戦車から見えた古賀インターを抜けた矢先、新崎は突然、身体を起こすとポケットから携帯電話を取り出す。着信がきたのだろうか。通常の携帯には備えられていない衛星通信を付けた携帯を耳に当てると、電話先の人物に言った。
「新崎だ。予定は滞りなく......なんだと?どういう意味だ?」
電話相手の声は聞こえないが、新崎の声には酷い動揺が見え隠れしている。何かあったのは間違いない。
石神も、視線だけで振り返り、様子を窺っているようだ。やがて、新崎の怒声が車内に響き渡った。
「ふざけるな!こちらは、貴様らの要求通りに事を進ませている!今更、そんなことを容認できるか!」
ピクリ、と後頭部に当たる銃口が揺れ、大地もまた喉を鳴らす。
とてつもない緊張の中、新崎は荒々しく携帯を握り締め、叩きつけようとしたが思いとどまり、舌打ちを挟んで砲手席を蹴りあげた。
無骨な迷彩色の装甲を揺らしながら、回転するキャタピラで路上に伏せていた死者の身体を無遠慮に踏み砕いた。
外部の凄惨な風景が伝わる音すらなく、車内には静謐が満たされている。74式戦車内には、三人の男が搭乗していた。
その内の一人、操縦士、坂下大地の後頭部には、89式小銃の銃口が突きつけられている。
独特なキャタピラの音と、非現実な光景は、まるでいつか見た映画のワンシーンの再現のようだ。まさか、自分が銃口の冷たさを味わう日がくることになろうとは、大地も思っていなかったことだろう。
大地は小倉基地の窮地を砲撃で救い、その後、戦車という利点を活かして、危険に遭遇することもなく小倉を脱出抜け出せた。その矢先、一台の自衛隊仕様のトラックを見つけたまでが、運の尽きだった。トラックに乗っていた二人組みは共に自衛官だ。大地に銃口を押し付けつけている一人は、体格の良い強面の男で名前を石神芳樹という。
大地の二年先輩で上官にあたる人物だが、借金を作り、挙げ句の果てには暴力行為に走るなど、基地内での評判は悪かった。
その奥で、両足を投げ出した態勢で砲手席に座っている男は、基地内での人望はそれなりに高かった新崎雄一だ。
当所、合流した大地は、心強い味方を得たと喜んだが、二人が合流した直後、戦車のハッチを空けるなり、大地と共に基地から逃げ出した車長と砲手を射殺した。硝煙がたちこもる車内に身を翻すと、石神は、小銃を大地に突き出したが、操縦士は必要という理由から、新崎はそれを咎めた。
二人の死体を動物に餌でも与えるような気軽さで処理していくのを、見ていることしか出来なかった大地は、単純に、ここでも運が良かったのだと思い込みでもしなければ、射殺された二人に申し訳ないという気持ちで心が潰されそうだった。
勾配を物ともせずに進む74式戦車から見えた古賀インターを抜けた矢先、新崎は突然、身体を起こすとポケットから携帯電話を取り出す。着信がきたのだろうか。通常の携帯には備えられていない衛星通信を付けた携帯を耳に当てると、電話先の人物に言った。
「新崎だ。予定は滞りなく......なんだと?どういう意味だ?」
電話相手の声は聞こえないが、新崎の声には酷い動揺が見え隠れしている。何かあったのは間違いない。
石神も、視線だけで振り返り、様子を窺っているようだ。やがて、新崎の怒声が車内に響き渡った。
「ふざけるな!こちらは、貴様らの要求通りに事を進ませている!今更、そんなことを容認できるか!」
ピクリ、と後頭部に当たる銃口が揺れ、大地もまた喉を鳴らす。
とてつもない緊張の中、新崎は荒々しく携帯を握り締め、叩きつけようとしたが思いとどまり、舌打ちを挟んで砲手席を蹴りあげた。
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