感染

saijya

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第8話

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 凄まじい光景だ。時には殴り、時には、蹴り倒す。
 自衛官二人のチームワークになす統べなく倒されていく死者の人数が瞬く間に増えていく。その数が二十を越える寸前で、二人の動きが止まった。血に染まり、刃先の折れた包丁を投げ捨てた浩太が、べったりと付いた返り血をシャツで拭う。

「一斉に来なかっただけ楽だったな」

 事も無げに言ってのける。祐介は、一体どれだけの修羅場を潜ってきたのかと、素直に感嘆の吐息をついた。頼もしい仲間が出来たものだ。

「悠長にそんなことしてる暇はないぞ浩太。さっさと、車まで行こうぜ!彰一、車はいつでも発進できるんだよな?」

「ああ、こいつがあればすぐだ」

 彰一は握っていたマイナスドライバーを掌で軽く回転させた。

「......マイナスドライバーでどうやって車を動かすのよ」

「知らないのか?古い車ってのは、ドアやガラスさえ割れれば、ちょいと弄くるだけで、マイナスドライバー一本で動かせる」

 阿里沙は呆れなのか感心なのか、どちらつかずな目付きで祐介を見るが、その祐介もポケットからマイナスドライバーを覗かせていた。

「......この馬鹿二人みたいには、なっちゃ駄目だよ?加奈子ちゃん」

 小首を傾げた加奈子は、恐らく分かってはいないのだろうが、阿里沙の表情から察したのか、こくり、と頷いた。

「よし、じゃあ、行こうぜ浩太」

 周囲の哨戒を解いた浩太が振り返ると、五人に緊張が走る。すう、と息を吸って浩太が前を向いた。

「行くぞ!」

 六人が一斉に駆け出す。光が入る駐車場出入り口からは、新たな死者が雪崩れ込んできている。数十メートルは離れているが、判断を誤ればすくさま取り囲まれる距離でもある。プレオの後部座席に阿里沙と加奈子が乗り込んだのを確認し、浩太と彰一も座席に座ったが、そこで阿里沙は声をあげることになった。自分の見間違いじゃないのか。いや、この狭い車内で何を間違える。
 確かに、運転席に座っているのは彰一だ。

「いや!いやいやいや!なんでよ!?」

 阿里沙の攪拌されたように震える声が聞こえたが、彰一は淡々とドライバーを剥き出しになったシリンダーへ差し込んで回した。
 弱々しく鳴り響いていたエンジンがかかり、真剣にギアチェンジを行う彰一へ、助手席の浩太が、まるで教官のように「D」の位置を指で示した。

「ちょっと待って!なんで!?なんでそんなに真剣な顔してるの!運転するのは、岡島さんでしょ!?」

「うっせえ!オートマくらい誰でも運転出来んだよ!」

「だからってこんな時に!」

 カッ、と強い明りが灯り、そこでトラックが動き始め、割れたドアガラスから祐介が叫んだ。

「先に出るぞ!」

 唸りをあげてトラックはスピードをあげた。プレオの方も準備が終わり、彰一が右足をアクセルに置く。
 死者の一人が運転席側の割れたドアガラスから腕を突き入れるも、彰一は冷静にアクセルを踏みつけた。

「掴まってろよ!」

 グン、と重力を増した車内で、阿里沙はこの小さな車体に乗ることになった不運を呪った。

 どうか、無事に作戦が終わりますように......
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